音楽番組で初共演 堂本光一君は熱い人(井上芳雄)
第34回
井上芳雄です。『ナイツ・テイル-騎士物語-』で共演した堂本光一君と音楽番組で初めて共演しました。11月3日に放送された『SONGS』(NHK)で、テーマは「ミュージカルに乾杯!」。それぞれの代表作のナンバーや『ナイツ・テイル』からの曲を歌いました。舞台裏を追った映像や対談の収録もありました。一から作り上げた新作の舞台を今度は音楽番組という、また違った形で多くの人に知っていただくことができてうれしかったし、それだけ大きな作品だったのだなと、あらためて感じました。

番組では、まず光一君が『Endless SHOCK』から『Dancing On Broadway』をカンパニーのメンバーを率いて披露。僕は『エリザべート』から『最後のダンス』をソロバージョンで歌いました。そして『ナイツ・テイル』からは劇中の衣装をまとって5曲をメドレー。音月桂さん、上白石萌音さんら共演者の方々も舞台の衣装で参加してくれました。ステージングを担当したのは大澄賢也さんです。そして『ナイツ・テイル』からもう1曲、『宿敵がまたとない友』を光一君と僕がステージ衣装で歌うという流れでした。
『ナイツ・テイル』の曲を収録したのは、東京公演が終わった後の9月。とにかく撮影の規模が大きいのに驚きました。オーケストラも来ていて、衣装もメークもヘアも舞台と同じ。かかわった人は100人を超えていたのではないでしょうか。舞台の雰囲気がリアルに伝わったのではないかと思います。
舞台裏のドキュメントもすごく丁寧に撮っていました。5月のけいこ始めからカメラが入り、節目ごとにカンパニーに密着して、大阪の大千秋楽まで。「30分の歌番組なのに、こんなに撮るんだ」とみんな驚いていたから、すごい量だと思います。それこそ『情熱大陸』かと思うくらい(笑)。番組で使われたのはごく一部でしたが、制作の過程をしっかり記録している映像が残っているのはとても貴重だし、うれしいことです。
光一君との対談は、大阪で2時間くらい話しました。驚いたのは、『ナイツ・テイル』もこれで一区切りだねという話になったとき、光一君が「もうこれで自分は引退してもいいくらいの気持ち」とまで言い切ったこと。「それくらい達成感がある」と。うわー、また波紋を呼ぶようなことを言うなあ…でも番組では使われないだろうから、と思っていたら、しっかり使われていました(笑)。
でも、光一君は、それくらい入れ込んでいたんです。ものを作るのが本当に好きな人だから。『SONGS』の収録の際も、こうしよう、ああしよう、とアイデアが次々と出てきます。劇場に来られなかった人もたくさんいるし、どんな舞台や楽曲だったのかをテレビで初めて知る人が大多数なわけです。だから、自分たちの『ナイツ・テイル』をどう見せるかに、情熱を持って取り組んでいました。それだけ作品を大切に思っているのだと感じました。番組のプロデューサーも凝る方だったから、打ち合わせがすごく長かったのを覚えています。
一方で僕は、よくも悪くも、最近はそこまで強く思い入れをせずに仕事に取り組んでいる面があったように思います。もちろん作品や役を愛してはいます。ただ、それを年に3本、4本ときちんと続けていくために、あえて少しドライになっていた面もあったかな。だから光一君を見て、自分自身のことを振り返り、刺激を受けました。
光一君は、本当に熱い人。何十年も芸能界の第一線でやってきて、それこそドライになってもおかしくないと思うのですが、そうじゃない。自分の好きなことに関しては、とことん突き詰める。そこが偉いところです。
■宿敵がまたとない友
その光一君と歌った『宿敵がまたとない友』という曲は、光一君が演じたアーサイトと僕が演じたパラモンの関係性を象徴するような楽曲で、作品のテーマを表している曲でもあります。それを僕たちの関係性にだぶらせて、違うフィールドで活動してきて、あまりよく知らなかった者同士が、舞台での共演を通して親密になり、友となった「堂本光一と井上芳雄」として歌いました。あえて劇中の衣装ではなく、ステージ衣装で歌ったのは、そういう意味合いです
だから、今回の『SONGS』は半ばドキュメンタリーのような作りになっているところがあります。その中で僕たちの関係性の変化が見られるし、その先にできた『ナイツ・テイル』という舞台でのパフォーマンスも見てもらえる。舞台がそういう形の音楽番組として広がっていくのはめったにないことだし、それに値する深い作品だったのだと思います。
光一君との関係も、これが始まりで、もっと広がったり深まったりする展開があると楽しいでしょうね。今までは、基本的にミュージカル界の人との交友が多かったから、新しい世界が開けたという点でも大きな出会いでした。もちろん『ナイツ・テイル』の再演も、僕たちも望んでいるし、必ず実現させたいです。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第35回は12月15日(土)の予定です。
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