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市場を揺らす2人のタカ派

今週の市場は2人の米国人タカ派の動きに注目している。

一人は米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長。10月に「現在の政策金利は中立金利からは程遠い」とタカ派的発言。米国株価大変動の火付け役になった。それゆえ、28日のニューヨーク・エコノミック・クラブでの講演が、今週市場の二大イベントの一つとして注目されていた。

もう一人はナバロ国家通商会議(NTC)委員長。対中強硬派で、ホワイトハウスのタカ派だ。こちらは、もう一つのメインイベントとされるアルゼンチンでのトランプ米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席の米中トップ会談に関して、言動が注目されている人物だ。

28日のパウエル氏の講演では、10月発言から百八十度転換して「現在の政策金利は中立金利に近い」とあっさり言ってのけた。このひょう変ぶりが、前任者のエコノミスト出身のイエレン氏とは異なり、実務家肌らしい。市場は、株価急落の「元凶」とされた発言が事実上撤回されたことを素直に歓迎。ダウ工業株30種平均は前日比600ドル超の急反発を見せた。結果的に、10月のパウエル発言からの下げ幅を取り戻す方向に動いている。

では米国株は、今後、さらに上値を試すのか。

ここは米中首脳会談の結果次第といえよう。

マーケットはホワイトハウス内部のタカ派・ハト派の主導権争いに注目する。

トップ会談実現への過程では、タカ派のナバロ氏と、ハト派のクドロー国家経済会議(NEC)委員長が真っ向から対立する局面もあった。

元ゴールドマン・サックスの幹部や米投資会社ブラックストーンの最高経営責任者(CEO)らウォール街の重鎮が北京に招かれ、米中経済緊張緩和のための方策を議論したことを、ナバロ氏は強烈に批判。「ウォール街の銀行家やヘッジファンドが、20カ国・地域(G20)首脳会議前に勝手に動き、トランプ大統領が取引に応じるように仕掛けている」と非難し「悪臭がする」とまで言い切った。

対して、ウォール街出身のクドロー氏は「それは的外れの見解」と一蹴した。

ゴールドマン出身のムニューシン米財務長官も対中ハト派とされる。

報道では、トランプ米大統領とムニューシン氏の不協和音も顕在化してきた。このホワイトハウスの内紛では調整役として娘婿のクシュナー大統領上級顧問の動きが注目されている。

なお、トランプ大統領のパウエル氏批判はエスカレートの様相だ。

トランプ経済政策のおかげで上昇した株価を崩した主犯は利上げ決断したパウエル氏と決めつけるごとき発言が繰り返される。

それゆえ、28日のパウエル氏の「ハト派への転換」が、「ついにトランプ氏の圧力に屈したか」と見られがちだ。

当のパウエル氏は、利上げ決断は、あくまで「経済データ次第」と明言している。

前任者イエレン氏と同様の姿勢だ。ただし、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の金利動向予測分布を示すいわゆるドット・チャートは、パウエル体制で、相対的に存在感が弱まりそうだ。将来の金利動向を天体観測にたとえ、その難しさを表現しているからだ。28日講演後の質疑応答でも、パウエル氏は「あなたが注目する星座はどれか。雇用か、物価か、株価か」と聞かれ、どれも重要と答えていた。

いっぽう、来年から毎回のFOMC開催ごとに必ず記者会見を開くことにして、全てのFOMCが「ライブ」と語っている。刻々変動する経済情勢に臨機応変に対応する姿勢である。市場にとっては、その分、乱高下の回数が増える可能性があるので、身構えざるを得ない。ヘッジファンドにとっては、暴れる機会が増えるので、歓迎すべき変化のようだ。

この二つのタカ派対ハト派対立の構図は、2019年の相場動向を占ううえでも見逃せない。28日の動きは、そのプロローグとでもいえようか。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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