2019年1月21日(月)

医療に変革もたらすブロックチェーン 5つの理由

CBインサイツ
ネット・IT
ヘルスケア
コラム(テクノロジー)
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2018/12/3 2:00
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CBINSIGHTS

 仮想通貨を支える技術として近年、注目を集めるブロックチェーン(分散型台帳)。データをネット上に分散させて記録、管理することで改ざんが極めて難しく、セキュリティー上のメリットも大きい。ソニーが映像の管理に使うなど利用の幅が広がっているが、医療も有望分野のひとつとみられている。膨大なデータと向き合う医療研究や、患者のデータをどう活用できるのか。米国ではスタートアップが新サービスを競い始めている。

医療業界は効率の悪さやミス、官僚主義、高い管理コストに悩まされている。ブロックチェーン技術を活用すれば、こうした問題の一部を解決できるのだろうか。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

この技術は過剰に期待されている面もあるが、医療に価値をもたらしてくれるのは確かだ。コンプライアンス(法令順守)や相互運用性、データのセキュリティーといった喫緊の課題を解決するだけでなく、患者ファーストの新たなビジネスモデルを可能にしてくれる。

ただし、医療でのブロックチェーンの導入は緩やかに進むだろう。早急な変化は見込めない。本稿では医療でブロックチェーンが導入される可能性が高い分野を信頼できる関係者、スケーラビリティー(拡張性)、導入するために必要な対策に基づいて分析する。

医療データのアクセスや所有の方法の大転換を伴うものもあるが実現するのは、はるか先の話だ。近いうちに実用化が期待できるのは、事務処理の簡素化やサプライチェーンにおけるトレーサビリティーの強化だ。既に進行中のプロジェクトや、将来どんな形で導入されるのかについてみていこう。

ブロックチェーンの医療業界での活用ロードマップ

ブロックチェーンの医療業界での活用ロードマップ

ブロックチェーンや暗号通貨を手掛けるスタートアップ企業は「トラストレス(信用不要な)」ネットワークを構築し、市場での取引を根本的に変える可能性がある。

■なぜブロックチェーンを医療に活用するのか

ブロックチェーン技術を活用すれば透明性の高い安全なデータを不特定多数の端末から追跡でき、だれでも参加可能な時系列のデータベースを構築できる。

これがなぜ医療で有用なのか。以下に列挙する。

(1)整合性がある:ブロックチェーンでは基になる記録は一つであるため、データベースによってデータが違うということがない。これによりデータの重複や改ざんが減り、データが個別の医療機関の記録システムに囲い込まれるのではなく、大幅にアクセスしやすくなる。

(2)消去される心配がない:データベースにはトランザクションを追加することしかできないため、全てのデータを追跡・検証できる。

(3)所有できる:データを「所有」し、誰がアクセスできるかを選べる。企業が個人のデータを第三者に売るのではなく、個人が自分のデータを管理できる。

(4)ルールが明確:あるデータベースが使われると、それについてのルールが周知される。現状、医療分野にはデータの規格やマスター記録がないため、データの書式がバラバラで業界全体に不満がくすぶっているのだ。

(5)分散型:データベースのコピーが複数の場所に保管されるため、外部の管理者は不要になる。このため、諸経費や仲介者の必要性を減らせる。集権化システムが遮断され、アクセスできなくなる事態も防げる。

こうした特性は医療データを扱う医療機関や患者にとって重要だ。ブロックチェーンを使えばデータの改ざんは困難になり、当事者間で共有しやすくなるからだ。データにアクセスした人物を確認できるなど、セキュリティーの面でも多くのメリットがある。

■なぜ今なのか?

2017年にブロックチェーン分野に資金が流入し始めた主な理由は、企業がトークン(デジタル権利証)を発行して資金を調達する「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」が盛んになったからだった。何社かの医療関連会社もICOを実施した。

その後、仮想通貨の価格は急落し、ICOブームは失速した。もっとも、ブロックチェーン技術を手掛ける企業への出資は急増している。

ICOブームは失速(ICOによる資金調達額=公表ベース、17年1月~18年5月)

ICOブームは失速(ICOによる資金調達額=公表ベース、17年1月~18年5月)

主要企業が決算発表で「ブロックチェーン」に言及する回数は急増しているが、医療に関連して触れることはめったにない。医療分野の企業がブロックチェーンについて発言したケースの大半は、実験プロジェクトの可能性に関する話題だった。

「ブロックチェーン」や「分散型台帳」の医療への応用に関する特許も増加傾向にある。米IBMや米ウォルマート、米バンク・オブ・アメリカなどは救急救命やコンプライアンス、データ共有の合意など様々な用途を検討している。

企業がブロックチェーンの応用について触れる回数は増えているが、医療分野では伸びは緩やか

企業がブロックチェーンの応用について触れる回数は増えているが、医療分野では伸びは緩やか

医療分野に参入する企業や流入する資金は増えているが、ブロックチェーンの医療分野での活用はまだ初期の段階にとどまる。

では、近い将来の実用化が期待される事例には、どのようなものがあるだろうか。

医療分野での当初のブロックチェーンの活用は、特定の利用者だけが参加できる「クローズド型」のコンソーシアムや、特許データを伴わない事務処理が中心となる。

企業は最初のステップとして、分散型台帳システムを使った小規模のクローズド型コンソーシアムに参加しつつある。

こうしたプロジェクトの目的は、分散型台帳システムを使ってデータを共有し、作業の重複をなくすことにある。特許に関するデータは極めてデリケートなため、これに焦点を当てたプロジェクトは1件もない。

米UnitedHealthcare(ユナイテッドヘルスケア)、米Optum(オプタム)、米Quest Diagnostics(クエスト・ダイアグノスティックス)、米Humana(ヒューマーナ)、米Multiplan(マルチプラン)は共同で医療従事者名簿を常に最新の状態に保つプロジェクトを立ち上げている。米メディケア・アンド・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、医療従事者の情報が更新されていなければ、保険会社に罰金を科す。

この情報共有により、各社は作業を減らせる。データはアクセス可能な共有データベースに保管され、更新されるからだ。

米Hashed Health(ハッシュドヘルス)はさらに小規模なプロジェクトをいくつか手掛けている。例えば、医師がある地域で診療免許を持っていることを証明する資格証明システムの開発に取り組んでいる。

現時点では、医師は働く予定がある診療機関や州から個別に資格の認定を受けなくてはならない。認定にはそれぞれ30~90日かかる。

全ての関係者がアクセスできる医師の資格の共有記録があれば、このプロセスは迅速でシンプルになり、コストも抑えられる。ブロックチェーンを使えばこれは可能になる。医師は資格提示を求める全ての医療機関に秘密鍵を渡し、アクセス権を与える。

医療関連のコンソーシアムは小さな問題に徐々に対処している

医療関連のコンソーシアムは小さな問題に徐々に対処している

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