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強すぎる外国人騎手 背景にあるものは…

今年も残すところあと1カ月となった。中央競馬はきょう12月1日から最終日の28日まで、9開催日を残しているが、既に外国人騎手に絡む大記録が次々に生まれ、今月中に達成されそうな記録も多い。クリストフ・ルメール(39)は11月25日のジャパンカップ(東京)で年間G1勝利数を7に伸ばし、武豊(49)が2005年に達成した従来の記録(6勝)を更新した。ルメールは年間勝利も199に達し、17年は惜しくも逸した200勝の大台は確実。武豊の持つ212勝(05年)の年間最多記録更新も視野に入る。活躍しているのはルメールだけでない。「マジックマン」ジョアン・モレイラ(35、ブラジル)は11月11日にエリザベス女王杯(京都)を制し、国内G1初勝利を飾った。翌週18日にはウィリアム・ビュイック(30、ノルウェー)がマイルチャンピオンシップを勝ち、モレイラに続いての国内G1初勝利。ルメールは25日のジャパンカップをアーモンドアイで圧勝。外国人騎手は6戦連続で中央G1を勝ったことになる。

モレイラ、「元のさや」に

これほどの存在感を見せつけられると、10月にモレイラが日本中央競馬会(JRA)の騎手免許試験1次(筆記)を突破できず、通年騎手への挑戦を阻まれた事実の「見え方」も違ってくる。モレイラを含めた7人が10月2日に1次を受験したが、合格はオーストラリアで騎手として出発し、「逆輸入」の道を目指す藤井勘一郎(34)のみ。6度目の挑戦だった。モレイラは結果が出た後、香港復帰の考えを示し、同地のジョン・サイズ調教師(64)が窓口となって香港ジョッキークラブ(HKJC)に免許を申請した。香港の騎手の定数は26人で、半数の13人が外国人枠である。希望者も多いため、受理されるかについては見方が分かれていたのだが、HKJCは「自己都合」で一度去ったモレイラを、あっさり受け入れた。正式発表は11月17日。期間は12月9日から19年6月9日までで、「元のさやに収まった」。去り方が去り方だったから、条件をつけた。騎乗馬の少なくとも75%はサイズ厩舎に預託する特定馬主の所有馬に限られ、原則として、同厩舎の馬が出走したレースでは、他厩舎の馬には乗れない。

モレイラはエリザベス女王杯を制し、国内G1初勝利を飾った(11月11日)=共同

香港の有力紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは11月17日、HKJCのアンドリュー・ハーディング競走担当理事が「モレイラが長期的に香港で騎乗することを希望している」と述べたと伝えた。同紙は19日付の記事では、モレイラの香港帰還に家族、特に夫人の意向が強く反映していたとも伝えた。一連の記事は、モレイラが再びJRAの門をたたく可能性は低いことを示唆するように読めるが、モレイラ自身は11月22日、「(免許が切れる)19年6月9日以降のことは、何も決まっていない」と話し、「来年は受験しない」との報道を否定した。

「逃した魚」の大きさ痛感

筆記試験で世界の名手を受け入れなかったJRAと、条件付きとはいえ、自己都合で去った人に半年後に復帰を認めたHKJC。同じ極東の競馬施行者でこうも違うのかと思わせる。17年までほぼ札幌でしか乗らなかったモレイラが今年は中山、東京、京都でも期待にたがわぬ活躍をみせた後だから、「逃した魚」の大きさを痛感する。11月末現在で192戦67勝で勝率34.9%。国内で騎乗した日数はわずか22日だが、全国勝利数ランク13位に入る。1日平均3勝を超え、勝率は最多勝争いを独走するルメール(27.7%)より7.2ポイント高い。

モレイラは巧みな騎乗でリスグラシュー(右)をエリザベス女王杯優勝に導いた=共同

印象的だった勝利はG1初制覇となったエリザベス女王杯のリスグラシューで、同馬は過去、G1で2着4回を数えるシルバーコレクターだった。しかも、18年は1600メートルを中心に使われていて、距離が不安視された。だが、モレイラは好スタートから好位置の馬群でスムーズに折り合いをつけ、直線も絶妙のタイミングでスパート。逃げ切り濃厚にみえた前年2着のクロコスミアをゴール前できっちり捕らえた。あまりの好騎乗に、リスグラシューの矢作芳人調教師は「何であんなにうまいのか」と舌を巻いた。11月24日のG3、京都2歳ステークス(芝2000メートル)でも、好素質だが気性難を抱えるクラージュゲリエを、巧みな誘導で優勝に導いた。

モレイラの18年の数字が、短期免許という条件下で出された点は、改めて強調しておく必要がある。ルメールやミルコ・デムーロ(39)は通年免許があり、同じ馬に継続的に騎乗できる。クラシックを見据えた2~3歳戦では、どの陣営も頻繁な騎乗変更は避けたいと考える。腕があっても、次戦以降は騎乗できる可能性が乏しい短期免許組をあえて乗せない例は間々ある。モレイラ級の騎手が新たに通年免許を得れば、18年以上に騎乗馬の質は上がるとみられ、各競馬場への慣れも考慮すれば、ルメールの地位を脅かすことは間違いない。もし19年、2人が中央で常時、騎乗すれば、後続を大きく離して200勝を超える線で最多勝を争っているはずだ。

問題は日本人騎手の競争力

では、世界最高レベルの騎手を受け入れないことで、JRAは何を得たのか? 一見、なさそうだが、モレイラがもし合格していれば、疑念を呼んだ可能性はある。過去、ミルコ・デムーロ(13年)も、01年に現役地方騎手として初めて試験を受験した安藤勝己・元騎手(58)も、1回目は失敗した。デムーロは初来日が1999年で、初受験当時、癖があったとはいえ、日本語は相当に達者だった。モレイラが一発で突破すれば、「誰が受けたかで基準が変わる」という疑念を招きかねない。一方で、国内の騎手育成システムの外で育ち、JRAや現役の厩舎人に縁故者もいない藤井が1次合格したことは、「試験の門は平等に開かれている」というメッセージとなる。

一方、こんな事情もある。ミルコ、ルメールが合格した年に、JRAは外国人短期免許の取得条件を厳格化した。2人が日本に腰を据えれば、日本人騎手の勝ち星を蚕食するのは避けられない。国内騎手の不満を抑えるために、さらなる流入の蛇口を絞ったことは想像に難くない。そんなときに、2人を超える大物が来たら……。そう考えると、厳格極まりないはずの筆記試験の結果でさえも、政治的解釈を生んでしまう悲しい現実がある。

ルメールはジャパンカップを制して年間のG1勝利数を7に伸ばした(11月25日)=共同

結局、根本的な問題は日本人騎手の競争力にある。モレイラがG1初制覇を果たした11月11日の京都で、外国人騎手は12レース中11勝をあげた。1~11レースを連勝したため、最後の12レースは異様な雰囲気に包まれた。藤岡佑介(32)のサヴィが勝ったものの、2~4着は外国人騎手で、辛くも全敗を免れた格好だ。当日はモレイラが5勝で、ルメールとミルコの弟・クリスチャン・デムーロ(26)が3勝ずつ。日本人騎手は計28人が騎乗しながらたった1勝。何ともいえない後味だった。

「2軍」のない構造が妨げに

日本人騎手の存在感が薄れたのは、最強の生産者・ノーザンファーム(NF)がほとんどの有力馬に外国人騎手を乗せるためだが、では日本人と外国人は何が違うのか。競馬や乗馬が社会にどこまで根を下ろしているかの差は大きかろう。江戸時代まで日本には、サラブレッドのような大きくて速い馬種は存在しなかった。これだけで相当なハンディだが、欧州で研修経験のある調教師の中には、彼我の「筋肉の質の差」を挙げる人もいる。確かに、レース前半で日本人騎手が馬を抑え込むのに苦労している間に、外国人騎手が自在に位置取りを押し上げる場面が多い印象はあり、「馬との折り合いに自信があるから戦略的に動ける」との推論につながる。これに関しては、日本人騎手の多くは「次も乗れる」保証がないため、調教師らの指示に強く拘束されている、との反論もある。ただ、トップ級の外国人騎手の馬を御する技量が、筋肉の質に起因するとすれば、騎手という領域も日本人にとって、陸上短距離やバスケットボールと同じ種類の壁があるという、実に不都合な結論に達してしまう。

とはいえ、厳しい現状の中でも、後進の騎手は育てなくてはならない。「レジェンド」武豊も19年3月で50歳を迎える。ここで難しい条件が一つある。「2軍」がないのだ。世界最高の賞金水準を誇るサーキットに、負担重量の3キロ減量(19年3月から女性は4キロに)だけで、経験の乏しい若者を放り込むのは無理がある。3場開催時のローカル競馬場が部分的に役割を担っているが、基本的な賞金体系は同じだ。地方競馬も独立した施行者であるため、2軍の役割は期待しにくく、妙案は見えてこない。一方で、筆記試験が騎手の運命を決める状況も、競馬のあるべき姿かといえば違う気がする。「騎手をどうするか」を巡って、業界全体が真剣な議論をすべきときだ。

(野元賢一)

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