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ワンマン経営 尽きぬリスク(The Economist)

The Economist

カルロス・ゴーン氏ほど激しい転落を経験する最高経営責任者(CEO)はそうはいない。同氏は11月16日時点で、ルノー、日産自動車三菱自動車の自動車メーカー3社を率いる会長であり、不可能を可能にするナポレオンのような存在との名声を得ていた。だがその数日後、東京地検特捜部に身柄を拘束された。

規制当局に金銭報酬を約50億円過小評価したとして逮捕された日産のカルロス・ゴーン元会長=ロイター

規制当局に5年間で金銭報酬を約4500万ドル(約50億円)過少報告していたことを日産が告発したためだ。ゴーン氏にとっては、自分の逮捕により3社の株価が急落したことで、自分の経営者としての価値を再認識できたのは多少の慰めになっただろう。3社の時価総額は、逮捕以降計7%、金額にして50億ドル吹き飛んだ。投資家は、3社の複雑なアライアンス(連合)のかじ取りができる人物は同氏以外にいないと懸念を募らせている。突然失脚した同氏は、どうやら代えのきかない存在らしい。

S&P500社のトップの平均在任期間は11年

ワンマン経営のリスクは、特定の個人の存在や不在、行動が企業価値に著しく影響を及ぼすときに顕在化する。人工知能(AI)の活用が広がり、経営トップがあまりでしゃばらない今の時代に、ワンマン経営者が企業のリスクになるというのは驚きかもしれないが、そのリスクは今も至るところに存在する。ゴーン氏のケースは、今年表面化したリスクの一例にすぎない。広告世界最大手WPPの株価は、4月に創業者のマーティン・ソレル氏が会社の資産を私的流用した疑惑からCEOを引責辞任して以降、27%下がった。米テスラも、創業者兼CEOのイーロン・マスク氏がツイッター上で投資家に誤解を与える発言をしたとして(編集注、株式非公開化の方針をつぶやき、その後撤回した)、米証券取引委員会(SEC)が同氏を9月28日に提訴すると、株価は14%下落した。

ツイッター上でテスラの株式非公開化の方針をつぶやいたことが、投資家に誤解を与えたとして米SECに提訴された同社のマスクCEO=ロイター

本誌コラム「シュンペーター」が調査したところ、世界の時価総額上位20社のうち、ワンマン経営のリスクを抱える企業はアマゾン、バークシャー・ハザウェイ、JPモルガン・チェースなど8社ある。S&P500の企業500社が米規制当局に毎年提出するリスク開示情報によれば、CEO(あるいは、影響力の大きいその他の経営幹部)の身に何か起きれば、業績に深刻な影響が及ぶとする企業は66%に達する。

経営者がこんなに力を持つはずではなかった。1960~70年代に、企業を牛耳る独裁的なトップは絶滅するはずだった。代わりに台頭したのは、面白みに欠ける小粒の経営者だ。映画「卒業」には、人生で目指すべきは「一言で言えば……(これから有望な)プラスチック(を生産する化学業界)だ」などと助言する即物的な人物が登場する。経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイス氏は67年に「新しい産業国家」を出版し、米産業界は個性の乏しい凡庸な官僚的な経営陣に支配されていると論じた。経営者は、インセンティブ次第で管理できるスタッフにすぎないとみる現代ファイナンス理論も登場した。

80年代には個性の強い経営者が再登場した。87年公開の映画『ウォール・ストリート』では、架空のワンマン経営者が多くの企業を意のままに動かす。2000年までには、ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ氏やシティグループのサンディ・ワイル氏といった「帝王」が一時代を築いた。その後ワールドコムとエンロン、続いてリーマン・ブラザーズ、ベアー・スターンズが存亡の危機に陥り、カリスマ経営者のリスクが表面化した。ガバナンスの権威は口々に、経営者の権限縮小を取締役会に求めた。

現代の経営者はマナーとして、傲慢な態度を控え、部下を尊重するよう求められている。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOのように、強さではなく弱さまでさらけ出すトップもいる。それでもワンマン経営のリスクは高まっている。IT(情報技術)ブームのおかげで、大手企業は創業者がトップに就いているケースが多い。大手20社のうち6社はそうだ。ガバナンス(企業統治)の改革は遅々として進まず、会長職とCEO職を分けている企業はS&P500社で28%にすぎない。しかも、利益拡大と株価上昇が10年続いたために、長く居座るCEOが多い。S&P500社で昨年辞任した経営トップの平均在任期間は11年であり、09年の7年から延びている。

ワンマン経営にみる3種類のリスク

その結果、3種類のワンマン経営のリスクが浮上している。最も受け入れがたいのは、問題のある経営者が議決権を握り、ほぼ絶対的な権力を掌握している場合だ。不祥事の相次ぐフェイスブックがまさにそうだ。マーク・ザッカーバーグCEOは技術に詳しくても経営問題を掌握できていないのに、有能な部下や信頼性の高い取締役の起用に及び腰だ。同社の株価は7月以降、37%下がっているだけに、同氏が11月20日、「向こう数十年間は」現職に留まる意向を示したことに投資家は懸念しているに違いない。

2つ目は、事業が複雑を極めるために、すべてを円滑にかじ取りできるのはカリスマ経営者ただ一人しかいないと目される場合だ。ゴーン氏が一例だ。ルノー、日産、三菱は株式の持ち合いと、資材の一括調達や協力関係を束ねる不透明な共同出資事業で結びついており、これを統括してきたのが同氏だ。また、通信企業や技術への投資を主力とする日本の複合企業ソフトバンクグループの孫正義会長もここに分類される。巨額の負債を抱える複雑な財務構造を作り上げた同氏は、ここ5年ほど投資家に十分に報いていないものの、万が一突然辞任することがあれば、投資家にろうばいが広がるだろう。

ワンマン経営のリスクで最も害が小さいのは、そのトップが素晴らしい経営者の場合だ。アップルでは、故スティーブ・ジョブズ氏の後を継ぐという不可能に近い仕事をティム・クック氏が見事にこなしている。JPモルガン・チェースがこの10年、世界の大手行の中で最高の業績を上げているのは、ジェイミー・ダイモン会長兼CEOの手腕によるところが大きい。それでも、このように1人の経営者に依存するのは危険だ。好調な経営がどれだけ続くか分からないからだ。ダイモン氏は、マリアン・レイク氏を最高財務責任者(CFO)に昇格させるなど、後継者の育成にも取り組んできたが、ダイモン氏は23年まで現職に留まる意向を示しており、そうなれば同社に17年も君臨することになる。

「自分がいなければ立ちゆかない」は業績ではない

巨額の負債を抱え、複雑な財務構造のソフトバンクを率いる孫会長が万が一突然辞任するようなことがあれば、同社の投資家には狼狽が広がるだろう=共同

ワンマン経営に依存するリスクから学べることは複数ある。まず、議決権に格差がある場合、権限を握る人物が暴走するかもしれないリスクの対価として、投資家は株式を購入する際にそのリスク分を割り引いた株価を求めるべきだ。複雑な財務構造は落とし穴になり、経営手腕に陰りが見えても経営者を排除することが難しくなるからだ。さらに、どんなに有能なCEOでも任期を設けるべきだ。

この点については、この2年間、凶報に交じって朗報もある。中国のネット通販最大手アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏は9月10日、19年に会長を退任すると発表した。未公開株を扱う投資会社は謙虚さで定評があるわけではないが、その大手上場企業3社のブラックストーン、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、カーライルは、それぞれの創業者が第一線を退く計画を打ち出している。

ゴーン氏は、ルノーと日産の株価下落を見て、自身がいかに欠くべからざる存在だったかと思うかもしれない。しかし、本当に優れた経営者は「自分がいなければ立ちゆかない」企業にしたことを自分の"功績"とはとらえないはずだ。

(c) 2018 The Economist Newspaper Limited. Nov. 24, 2018. All rights reserved.

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