ロシア、軍事緊張高め揺さぶり ウクライナ艦船拿捕
【モスクワ=古川英治】ロシアのプーチン政権が2014年に武力併合したウクライナ領クリミア半島付近で、両国間の緊張が高まってきた。ロシア警備艇が25日、ウクライナ海軍の艦船を攻撃し、3隻を拿捕(だほ)した。大統領選を3月に控えるウクライナに揺さぶりをかける狙いとみられる。英国の離脱問題への対応に追われる欧州連合(EU)と中間選挙直後の米国の出方を試している面もありそうだ。

ウクライナ当局によると、黒海のオデッサ港からアゾフ海のマリウポリに向かう艦船が両海を結ぶケルチ海峡で攻撃を受け、負傷者が出た。ロシア側へ事前に艦船の通過を伝えたとするウクライナに対し、ロシアは「ウクライナが領海を侵犯した」と主張している。
ウクライナとロシアは03年、アゾフ海を両国の内海とし、すべての航行の自由を認める条約を締結済み。ウクライナ政府は同条約と国連海洋法条約に違反しているとロシアの行動を非難した。国連安全保障理事会は26日に緊急会合を開く。

ロシア外務省は26日、「ウクライナの挑発に抗議する」などとする声明を発表。ロシアでプーチン政権の支持率が低迷しており、求心力回復のため対外的な緊張をあおっているとの見方もある。
EUのトゥスク大統領は26日、ウクライナのポロシェンコ大統領と電話で話した後「ロシアの力の行使を非難する」と表明した。フランス外務省も同日、ロシアに対し、拿捕したウクライナの艦船と乗組員の即時解放を求める声明を発表した。
ロシアは5月、ケルチ海峡にロシア本土とクリミア半島をつなぐ橋を完成させた。このころから、ケルチ海峡を通りマリウポリなどアゾフ海に面するウクライナの港に寄る商業船の動きをロシアが制限する事態が相次いだ。EU加盟国の貨物船も被害を受けている。ロシアはクリミア半島周辺の軍備を増強しており、アゾフ海を支配下に置く狙いとみられている。
マリウポリ港などは鉄鋼と穀物の輸出基地の役割を担う。ケルチ海峡の封鎖はウクライナへの経済的な打撃が大きい。
ロシア政府に近い筋は「プーチン政権は来年のウクライナの選挙に照準を合わせている」と指摘する。同国

では19年3月に大統領選、同年秋には議会選が予定される。
軍事的な緊張を高めることで対ロ融和を唱えるウクライナの親ロ勢力を後押ししたいロシアの思惑を指摘する声もある。ウクライナのアゾフ海周辺地域にはロシア系の住民が多い。仮にケルチ海峡が封鎖されてウクライナの経済的な苦境が深まれば、政府を批判する声が高まる可能性はある。
大統領への再選を目指すポロシェンコ氏の支持率は低迷。「戦争を終わらせる」と表明して就任したものの、ロシアが軍事支援する東部の親ロ派武装勢力との戦闘は収まらない。これまでに1万人以上の死者が出た。同氏は今回の事件を受け「戒厳令」発動への承認を議会に求めた。ロシアの攻撃を強調し、内外に支援を求める意図がある。
ロシアは欧米の揺さぶりも狙う。EU内ではイタリアなどがロシアへの制裁の解除を求め、対ロ融和を主張する勢力が伸長している。プーチン大統領が11月末に20カ国・地域(G20)首脳会議でトランプ米大統領と会談する前のタイミングで今回の軍事的な威嚇を仕掛けたとも考えられる。
ウクライナ東部での戦争は4年以上続いている。ロシアは軍事介入の事実を否認しながら親ロ派武装勢力を支援している。EUやウクライナは停戦を確保するため、親ロ派支配地域全域での国連平和維持活動(PKO)を提案しているが、ロシアは拒否している。