ホーチミンの高層マンション、地熱で蒸発

2018/12/9 15:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

8月4日、ベトナムのホーチミン。中・低所得者向けに売り出した300戸(1000万~1500万円)の新築分譲マンションがたった2時間で「蒸発」した。市内中心地から10キロ、サイゴン川沿いで開発が進む「スカイ89」のモデルルームは、開場と同時に購入者でごった返し午後になると今度はそれがウソのように静まり返った。

ベトナムで急成長を遂げるアンギア。1~3年後の上場を目指す。

ベトナムで急成長を遂げるアンギア。1~3年後の上場を目指す。

マンションの売り主は現地の不動産会社アンギアだ。創業は10年前。今ではホーチミン市のタンソンニャット国際空港の目の前に巨大看板を掲げるベトナム五指の不動産会社だ。もともとは街の小さな不動産屋だったが、日本のクリードがベトナムで手がけるプロジェクトを一手に引き受け成長軌道に乗った。

成長ぶりは数字が裏付ける。アンギアがクリードと提携したのは2015年。当時の売上高(15年12月期)は約4億円、最終利益はたった4600万円だった。これが2018年12月期には売上高は19倍の74億6千万円、最終利益は30倍の14億4千万円。クリードと提携して以降、成長ぶりはすさまじい。

しかし、クリード社長の宗吉敏彦は淡々としたもの。「まだまだ。始まったばかり」。

アンギア―クリード連合の急成長が物語るようにベトナムの不動産市場は今、極めて活況だ。条件がいい土地なら2年で2倍になる。「バブルというならバブルだ」(宗吉)。しかし、その一方でかつて日本が経験した1991年のバブル崩壊や2008年のリーマン・ショック後の時のように「一気に下落するようなことはない。あっても『調整』だ」と分析する。

宗吉に言わせればそれぞれ「国の経済成長は結局、人口動態で決まる」。日本が低成長時代に突入したのも人口減が大きな理由。2000年の手前で伸びが鈍化し、04年をピークに減少に転じたことが経済成長の足かせとなった。

ベトナムの場合は日本と違い人口は増える。GDP(国内総生産)の成長率6.81%(2017年)は続かないとしても国民の平均年齢と若く30.5歳。まだまだ伸びしろはある。長い目で見れば経済は右肩あがりだ。

「ならばたくさん買ってたくさん儲(もう)ける。それが基本だ」。宗吉と面識のある投資家、村上世彰はかつて宗吉にこうアドバイスした。確かにそうだ。

アンギアのホーチミン市内のモデルルーム。広いスペースを確保、高級ホテルのロビーのよう。

アンギアのホーチミン市内のモデルルーム。広いスペースを確保、高級ホテルのロビーのよう。

ただ、問題は為替リスク。実際、宗吉もアジアで不動産を始めた頃、マレーシアで手痛い失敗をした。プロジェクトそのものは黒字なのに為替差損が黒字を帳消しにした。だから宗吉はこれを教訓に、為替の影響を極力受けないように投資資金を小さくしプロジェクトを回すことを心がける。またベトナムはそれができる国でもあった。

ベトナムの場合、特徴的なのは住宅ローン制度がしっかりあることだ。しかも、日本よりも早い段階で購入者に融資を実行してくれる。ベトナムも日本もマンションの売買は物件が完成する約1~3年前に購入契約を結ぶいわゆる「青田買い」。ただ、日本の場合、購入者は最初に分譲価格の10%程度を支払ってくれるが、残り90%は物件が完成しないと入金してくれない。ここがベトナムと違う。

ベトナムの場合、中・低所得者向けの住宅ローンがつけば、マンションが完成するまでに購入者は定期的にお金を振り込んでくれる。「だいたい50~60%はマンションが竣工する前に支払ってくれる」(宗吉)。

■小さいコスト

しかも大きいのは土地代だ。日本ならマンションの価格の約50%が土地代なのに対してベトナムならせいぜい10~20%で済む。不動産会社はまず土地を買わないと話にならないが、ベトナムの場合、そのコストが極めて小さい。

土地を押さえてマンションを青田売りしてしまえば後は契約者からお金が入る。そのお金でゼネコンにマンションの建設費を支払っていけばいい。わざわざ日本や米国などの金融機関や投資家から巨額の資金を調達、円やドルをドンに換え為替リスクを抱え込む必要はない。手持ちの資金で十分にプロジェクトを回していけるわけだ。

この資金効率の良さこそ「ベトナムのプロジェクトの面白さ」と宗吉。アンギアの社長グエン・バ・サンとは最近、「ずっと組んでやっていこう。ガンガン」と約束したという。=敬称略

(企業報道部 前野雅弥)

[日経産業新聞 2018年11月27日]

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