2018年12月18日(火)

セブンカフェに高専の力、技術のブレンドで50億杯
高専に任せろ!2018

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
自動車・機械
サービス・食品
2018/11/25 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

全国に約50万人を数える高専出身者。学生時代に培った技術に裏打ちされた人材は様々な舞台で活躍している。「高専に任せろ!2018 第4部」では、高専魂の浸透ぶりを紹介。まずは日本最大の"コーヒーチェーン"に瞬く間に成長した「セブンカフェ」だ。生みの親ともいえる2人の高専出身者の今をお伝えする。

セブンカフェのコーヒーマシン

セブンカフェのコーヒーマシン

「2人の活躍がなければセブンカフェは誕生しなかった」。セブン―イレブン・ジャパンの100円いれ立てコーヒー「セブンカフェ」の責任者、商品本部総括マネジャーの高橋広隆氏がこう言って憚(はばか)らない人物がいる。

味の素AGF事業推進部参事の伊藤文雄さん(61)と、富士電機の食品流通事業本部課長補佐の砂山恵子さん(38)だ。豆の選定から味の組み立てまで担う伊藤さん。その味をコーヒーマシンで再現する砂山さん。2人の技のブレンドが、今年度で累計50億杯を突破するお化け商品を支える。奇(く)しくも共に高専出身(伊藤さんが鈴鹿高専、砂山さんが釧路高専)。高専で培った根気と努力の結晶がセブンイレブンをうならせた。

■マシンを刷新

2人は今新しいステージに立つ。12月からコーヒーマシンを全面刷新。使い勝手を格段に高め、味にも磨きかける。1杯のコーヒーを抽出する時間が45秒から39秒になる。たった6秒と言うなかれ。待ち時間短縮で、利用者の不満が軽減。10人いれば1分の節約だ。

ではどうやって6秒を短縮したのか。マシンの上部にはコーヒー豆を収納するスペース。そこから豆がミルに落ちて挽(ひ)かれる。お湯で蒸らし、空気を入れて撹拌(かくはん)。最後にろ過紙を通ってカップに注ぐ。この各機構の連係動作をコンマ単位で縮めることで6秒を積み上げた。

マシンの内部にはコントローラーがあり、動作を制御する。新マシンは従来機に比べて設定項目を3倍に増やし、より細部にまで目配りして制御できるようになった。1杯あたりの豆の量も1割増やし、香りやコクが増した。ただし豆の量を増やせばそれだけでおいしくなる訳ではない。

伊藤さんの理想の味を再現するため、砂山さんはマシンの機構や制御に試行錯誤を重ねた。「コーヒーを試飲しすぎて寝られなくなるほど」。気が遠くなるような仕事だが、「ソフトとハードの仕組みやモノが動く原理を突き詰めるのは楽しい」と笑顔で話す。砂山さんはセブンカフェのプロジェクトに最初から加わり、店頭と製造現場の双方を熟知している。機械いじりがすきな生粋の「理系女子」で、子供のころから高専ロボットコンテストや鳥人間コンテストを家族とテレビで見ていたという。

13年1月の本格発売に先立つこと2年。企画がスタートした時点で、セブンイレブンのカウンターに収まるようなコーヒーマシンは存在しなかった。砂山さんたち富士電機の開発陣は、紙コップ式の自動販売機から抽出機構を取り出し、試作機20台を製作した。しかし都内のセブンイレブンで試験販売を始めたところトラブルが続出。メンテナンスがうまくいかず、サービスマンが奔走する事態に陥った。

「20台なら対応できるが店は全国に1万3000店(当時)もある。パンクするのは目に見えていました」(砂山さん)。販売数は1店につき1日20~30杯と現在の1~2割。機械がとまっている時間が長かった。「砂山さんは現場の状況を毎週報告書にまとめ、改善点を書き記していました」(セブンイレブンの高橋さん)

コンビニのマシンは消費者だけでなく、店にとっても扱いやすくしなければならない――。そう気付いた開発陣は清掃のためにネジを使って部品を取り外す機構をやめ、爪で取り外せるようにした。これで清掃やメンテが格段に楽になった。

■あくなき挑戦

マシンの開発と同時並行して、コーヒー鑑定士の資格を持つ伊藤さんも「究極の一杯」の追求に動いていた。使命はマシンでも手挽き並みにおいしくなる味の設計だ。セブンイレブンから、おいしさを「見える化」したエビデンス(証拠)を示すことを求められていた。そこで「官能テスト」と呼ばれる試験を繰り返し、味を定量化する取り組みに挑んだ。

鈴鹿高専で化学を修めた伊藤さんの知見が生きる分野だ。研究室でレシピ作りに没頭。気づいたら朝になっていたこともしばしばだった。「感性と工学的アプローチでコーヒーの味を最適化した」と伊藤さん。化学的見地から様々な条件で豆を焙煎し、味を設計。最後は「自分の五感でとことん味を突き詰めた」。最終的に消費者の嗜好のど真ん中という王道の味に仕上がった。

最終的な仕上げの作業は微細な調整を可能にするコントローラー開発にもつながった。砂山さんは開発拠点の富士電機鈴鹿工場(三重県鈴鹿市)で技術者と検討を重ねた。マシンに手が入るたびにコーヒーを伊藤さんが試飲。そのやり取りを繰り返し、理想の一杯が完成した。「製造現場は得てして保守的になる。砂山さんは品質を上げることにとことん応えてくれた」と伊藤さんは称賛する。

全国販売となると、安定供給も必要。大手商社2社からの豆の調達と、焙煎(ばいせん)やブレンドの組み合わせで乗り切る見通しもついた。

販売前、砂山さんはセブンイレブンのユニホームを着て、全国のセブンカフェ導入説明会に参加した。砂山さんが出向いた地域の反響はずぬけていたという。売れ過ぎて「マシンで湯を沸かす時間が確保できるのかが心配になり、改良に乗り出した」ほどだ。

新マシン導入は12月から本格化するが、セブンイレブンからはすでに「さらにおいしい一杯を」という要望が寄せられている。2人の絶妙なブレンドに終わりはない。

(編集委員 田中陽、企業報道部 薬袋大輝)

[日経産業新聞 2018年11月19日付]

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