人に頼る「弱いロボ」 豊橋技科大教授、岡田美智男さん
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人工知能(AI)を搭載したり、ビッグデータを活用したりする高機能のロボットの開発にメーカーや研究者たちがしのぎを削るなか、豊橋技術科学大(愛知県豊橋市)の研究者、岡田美智男さん(58)の作るロボットは一風変わっている。

「ゴミ箱ロボット」。姿形はゴミ箱そのものだが、モーター駆動で床を走り、人を見つけると近づいてくる。すごい! と思いきや、足元のゴミを拾うアームがない。紙くずを前に体を振り、困った様子だ。
仕方なく、ソファから腰をあげて紙くずをロボットの中に放り込む。ここがミソだ。これは部屋をきれいにするため、人の助けを引き出すロボットなのだ。
「アイ・ボーンズ」というロボットの得意技は、街角でのティッシュ配り。ティッシュを差し出す動きは緩慢で、人々は速足で通り過ぎる。見かねたのか、通行人の一人が腰をかがめてティッシュを受け取ると、礼を言うように頭を垂れる。
研究室はこれらを「弱いロボット」と呼び、商品化やメーカーとの共同開発の話もある。なぜこんなロボットをと記者が尋ねると「『弱さ』の社会実装に興味がある」という。どういうこと?
近年、導入が進む車の衝突回避システムなどは「能力の高さ」を誇示しがち。だが、機械任せで運転中の注意がおろそかになるなど、人が本来できることも放棄してしまう恐れもある。逆に「弱さ」を示し、人の力も引き出して協働するのが、好ましい社会なのではないかと考える。
身近な例は最近普及したロボット掃除機。スムーズに掃除できるよう、持ち主は邪魔なコードや段差をなくそうとする。掃除機と人の協働で、よい結果が生まれるわけだ。
ぽつりぽつりと語る岡田さんは口の重い方だ。民間企業にいた20年ほど前にロボットを作りたいと思ったが、うまく説明できずに上司が一蹴。そこで黙って作って展示会に出すと評判を呼び、ゴーサインが出た。
研究室ではロボットの説明は学生が担う。「主に学生が作るのに、前に出るのも変ですから」
「まわりに委ねちゃうんです」。自分でうまく言えなくても、ロボットが人を引きつけ、それぞれに面白さを口にしてくれる。するとプロジェクトが前に進む。「ロボットが私に似たのか、私がロボットに似たのか。わかりませんね」
(蓑輪星使)

麻袋の中から手と足の先と、カメラがのぞく。遠隔操作のカメラが上下左右に動くと、バネで全体がプルルンと揺れる。制御し切らずにバネの動きに身を委ねる。今につながる「弱さ」がある。制作費用は3万円。