富士フイルム、「チェキ」20周年で挑む世界

2018/11/22 18:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

富士フイルムはインスタントカメラ「チェキ」で米人気歌手、テイラー・スウィフトさんと組みグローバル市場で勝負する。動画広告をしかけるほか、コラボ商品の販売や交流サイト(SNS)などメディアミックスで全世界にブランドを浸透させる。トレンドをつかみ販売を積み上げてきたチェキ。最強のインフルエンサーと過去最高の1000万台超えに挑む。

「Are you ready for it?(準備はいい?)」。20日の午後7時半、東京ドーム。テイラー・スウィフトさんがステージに登場し、巨大なスクリーンにマイクを持った姿が映し出された。歌い始めると、会場は割れるような歓声があがった。

テイラー・スウィフトさんのコンサート会場でチェキをPR

テイラー・スウィフトさんのコンサート会場でチェキをPR

世界的に10~20代の女性を中心に絶大な人気を誇る。アルバムの売上枚数やミュージックビデオの再生回数など次々と記録を塗り替えている。インスタグラムのフォロワーは1億1320万人。11月の中間選挙ではインスタで民主党支持を表明。トランプ大統領は音楽を「25パーセントほど好きじゃなくなった」と応じるほど絶大な影響力を持つ。

■5月からプロモーション起用

富士フイルムはチェキのプロモーションに5月から起用。世界ツアーでチェキを販促するほか、日本でのコンサートでもスポンサーになった。

彼女がデザインを監修したコラボ商品を10月に発売。20日のコンサート会場ではコラボ商品を手にしたファンが目立った。大阪市からコンサートに訪れた大学生の女性(23)は「テイラーが使っていたのでチェキに憧れがあった。コラボ商品を知ってすぐに購入を決めた」と話す。

テイラー・スウィフトさんとコラボ商品

テイラー・スウィフトさんとコラボ商品

富士フイルムはコンサート会場の内外にブースを設置した。コラボ商品を販売したほか、テイラーさんのパネルと一緒にチェキの写真を無料で撮影できるようにした。チェキを持参した人に非売品ポスターも配った。ブースには開演直前まで長蛇の列が続いていた。

富士フイルムにとってチェキの成長伸びしろは海外だ。イメージング事業部の高井隆一郎マネージャーは「グローバルで文化として定着させるために、大々的にアピールしたい」と考えた。欧米だけでなくアジアや中南米、アフリカでの影響力がある人は――。世界最強のインフルエンサーにラブコールを送った。

実は彼女みずからが、もともとチェキの大ファン。自身のインスタにチェキの写真を何度も投稿していた。高井氏は「今の瞬間を大事にするというチェキの考え方に共鳴してもらえるパートナーだと思った」と話す。チェキの利用層、テイラーファンが重なることも決め手となった。

歌手のテイラー・スウィフトさんのチェキ

歌手のテイラー・スウィフトさんのチェキ

■「Z世代」にアピール

プロモーションに対して、富士フイルムはあれこれと干渉しない。1995年以降生まれの「Z世代」と呼ばれる年代は、ビジネス色が強い宣伝を押しつけられることを嫌うとされる。10~20代女性にアピールするには、認知度が高いタレントに商品の魅力を「言わせる」だけでは響かない。

例えば動画広告。スウィフトさんがチェキを使いながら「二度とない魔法みたいな瞬間をいつまでも大切にしたいの」とコメントする。あえて事前に台本を用意しなかった。「どきどきしたが、言ってほしいことを伝えてくれた」(高井氏)。広告としてメッセージを意識するのはもちろんだが、なるべくみずからの言葉で語ってもらった。

インスタの投稿にも口出ししない。200万件以上の「いいね!」がつくことも珍しくない。富士フイルムにとっては手に入れたい潜在顧客だが、チェキについての投稿であってもテイラー本人に任せている。

もっとも、やっぱり「テイラー効果」はすごい。富士フイルムが彼女の写真や映像を自社のアカウントに投稿したところ、過去最高のリピート回数や視聴効果を更新しているという。こうしたプロモーションをきっかけに商品を取り扱い始めた新興国もある。誕生から20年のロングセラー商品。トレンドの波をつかまえ、デジタルの世界で飛躍する。

■チェキ人気は「第3の波」

今回のチェキ人気は「第3の波」。最初の波は1998年の発売直後だ。撮った写真をその場でプリントできるインスタントカメラの魅力が消費者に支持された。ターゲットの中心は女子高生で、歌手の滝沢秀明さんをプロモーションに起用していた。

販売台数は02年度に100万台までに順調に伸ばしたが、ここで逆風が吹いた。カメラ付き携帯電話やデジタルカメラの登場。海外の街で旅行者の写真を撮るプロカメラマンを除き、需要が低迷した。販売はわずか2年で10分の1になった。

次の転機は07年。韓国の恋愛ドラマのワンシーンで使われた。現地の販売会社にチェキの問い合わせがいきなり増えた。その後は富士フイルムも戦略的に韓国ドラマで使ってもらった。人気はアジアに広がり、チェキの潜在力が見直された。

11年度に127万台とかつてのピークを超える。世界の家電量販店や雑貨店など販路を拡大した。商品の種類を増やして幅広い層にリーチした。こうした戦略が成功し、18年度は過去最高の1000万台と前年と比べて3割増えると見込む。

■時代切り取りロングセラー

チェキはフィルムの購入で安定した収益を見込める。デジタルカメラとレンズを除いた写真関連事業の売上高は約2500億円で、チェキ関連はそのうち3分の1程度を占めるとみられる。多額の広告宣伝費を投じられる余力も生まれた。巧みなマーケティングで時代を切り取ってきたチェキ。商品名の由来は英語「check it」。次の一手にも注目。(企業報道部 清水孝輔)

[日経産業新聞 2018年11月26日付]

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