2019年5月21日(火)

広がるVR、小売り・採用・軍事… 注目19業界

CBインサイツ
コラム(テクノロジー)
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2018/11/26 2:00
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CBINSIGHTS

仮想現実(VR)は熱狂的なゲーマーに受け入れられてきた。だが、ヘッドセット端末の価格が下がり映像も洗練されてきたことで、VRの用途はゲームにとどまらなくなっている。小売りや採用、医療、マーケティング、さらに軍事訓練と利用の裾野を急速に拡大させている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

各分野でVRの普及を促す技術やコンテンツを提供しているのがスタートアップ企業だ。我々は近い将来、日常のあらゆるシーンでVRを使うサービスを目にするのかもしれない。

スタートアップ各社はマーケティングから医療や宇宙探査に至るまで、ゲーム以外の新たな用途の開発に取り組んでいる。VRが変える19の業界に注目する。

1.小売り

店舗の閉店が相次ぐなか、VRは昔ながらの小売りが直面している試練の新たな解決策であると同時に、ネット通販各社が実験を進めている新しい戦略でもある。

各社はVRを活用することで、バーチャル試着室から商品のデザインやカスタマイズまで、あらゆるサービスを顧客に提供できる。消費者は実際に店舗に足を運ばなくても、ヘッドセットを装着して店に入り、仮想空間で買い物ができる。

米Bold Metrics(ボールド・メトリクス)などのスタートアップ企業は、VR技術を使って買い物客の身体の「仮想マップ」を作り、3次元の仮想空間で試着できるサービスを手掛ける。VR技術を使って顧客がその場にいるかのように小売り各社の在庫にアクセスすることも可能だ。

2.軍事・防衛

軍の各部門では、大量のシミュレーション環境を生み出すためにVRや拡張現実(AR)を使って新人を訓練したり、行動を最適化したりしている。

例えば、カナダのScopeAR(スコープAR)はARにより、「コンピュータービジョン技術」を備えた軍の担当者が、機器の保守管理や修理を担えるようにする。

こうした技術はマッピングや通信にも有用だ。米国家地球空間情報局(NGA)では、戦争被害や爆弾が落ちた後など危機発生時の状況をVRでバーチャルに把握し、これを離れた場所にいる担当者と共有して、人員の適切な配置や危機管理戦略の実行に活用する手段を検討しているとされる。

シミュレーションソフトの開発を手掛ける米Bohemia Interactive Simulations(ボヘミア・インタラクティブ・シミュレーションズ)も「陸上、海上、空中での戦術訓練、実験、演習のための仮想訓練」の開発に取り組んでいる。

3.イベント・会議

VRを使えばあたかもその場にいるかのような臨場感が得られる。イベントや会議の主催者はより多くの観客をライブイベントに迎えることができる。

例えば、ビートルズの元メンバー、ポール・マッカートニーさんは、低価格のヘッドセット「グーグル・カードボード」に接続し、コンサートの360度動画を楽しめるVRアプリをリリースした。コンサートのクリエーター向けにVRのハードやソフト、ツール、アプリを開発するため、1億ドル以上を調達している米スタートアップJaunt(ジョウント)がアプリを手掛けた。

VRを同じように使えば仮想会議にも参加できる一方、聴衆に集団体験をさせることも可能だ。

例えば、2017年に開催された世界最大の家電見本市「CES」では、米インテルのブライアン・クルザニッチ最高経営責任者(CEO、当時)がヘッドセット端末を装着した250人の聴衆に、米ネバダ州のモアパリバーインディアン居留地にある2000エーカーの太陽光発電施設の視察をライブ体験してもらった。

4.マーケティング・広告

顧客を自社商品の世界に浸らせたり、顧客とユニークな方法で交流したりするために、VRとARを活用するキャンペーンが増えている。

フランスのチーズ「ブルサン」は食材が詰まった冷蔵庫の中を飛び回るVR動画を制作した。米アパレル「ジョーダン・ブランド」はファン獲得と販売促進のために、米プロバスケットボールNBAのスター選手として知られたマイケル・ジョーダンの「1988年の伝説のフリースローダンク」をARで再現した。

消費者の間にヘッドセットがもっと普及すれば、VRとARは新たな宣伝手段というよりは、体験を通じてブランドやサービスの認知度を高める「経験価値マーケティング」や広告の一般的な手段に進化するだろう。

例えば、米OmniVirt(オムニバート)はブランドや開発者、メディアがVRコンテンツを収益化したり、発信したりできる「360度VR広告プラットフォーム」を手掛ける。同社はこのほど、米ターナー・ブロードキャスティングと共同でVR広告「アダルトスイム」を制作した。

5.警察

警察も軍と同様に米VirTra(バートラ)など各社のVR・ARツールを活用し、ほえる犬や町の騒々しさ、射撃の反動まで視覚、聴覚、物理的刺激がそろったシミュレーションで警官を訓練している。

この技術では、シミュレーションに登場する人物と訓練者のやり取りをエスカレートさせたり、沈静化させたりすることも可能だ。訓練者はストレスを受けながら、極めて重要な決断を下す練習ができる。

VRの訓練環境は現実と同じような対応を引き出すため、警察はVR訓練により実際の状況で警官にかかるストレスをより正確に理解できる。

米アラバマ大学の研究グループは警察と共同で、VR訓練を受けている最中の警官の脳波を計測した。研究者はVRの活用で「警官の訓練や採用プロセスに良い影響をもたらす可能性がある」と述べている。

6.採用活動・人材開発・人事

企業の文化になじむ「カルチャーフィット」は全ての企業にとって重要になりつつある。VRはほぼ全ての業種の採用や人事業務に使われ、採用面接やスキル評価の新たな手段となりうる。

英銀行大手ロイズ・バンキング・グループは「グラデュエート・リーダーシップ・プログラム」の候補者を評価するためにVRを活用している。新入社員にVR環境でパズルを解かせ、「グループの将来のリーダーに求められる胆力や能力」があるかを判断する。

消費者の間でVR機器が本格的に普及すれば、VRを活用した人事業務は企業側だけでなく、求職者にも恩恵をもたらす可能性がある。

例えば、就職活動の際、ある企業の仮想オフィスでしばらく過ごすことで、求職者はその組織の一員になりたいかどうかを自己診断できる。就職した後もVRを使って遠く離れた現場の労働者と効率的にやりとりし、チームの絆を強め、離職率を下げる効果が期待できるようになるかもしれない。ベルギーのMimesys(ミミシス)はVRを使った遠隔会議を手掛けるスタートアップの一つだ。

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