ふるさと納税の非効率(大機小機)
ふるさと納税制度を巡って、一部の自治体の返礼品が高額すぎることが問題になっている。魅力的な返礼品を用意できない都市部の自治体では、多くの住民が他の自治体にふるさと納税してしまうことで税収が大幅に減少し、行政サービスの維持がままならなくなっている。
実は、制度の導入当初からこうした事態を懸念する人はいた。海外の大学に在籍するある経済学者は「税収を得るための方法としてあまりにも分かりやすい間違い。(悪例として)教科書に載せるべきだ」と力説していた。ふるさと納税制度が「自治体によるレントシーキング(超過利潤獲得競争)を誘発し、社会的資源を浪費する典型的な政策」だからである。
前出の経済学者は、人間(納税者と自治体のふるさと納税担当者)が「合理的な利己主義者」ならばレントシーキングが過熱する、と予想した。誰もが制度の趣旨を理解し、紳士的に行動するだろうという期待は「素朴すぎる性善説だ」というわけである。
具体例を考えよう。
ある自治体Aが自治体Bの住民から10万円の寄付を受けて3万円の返礼品を贈るとする。自治体Aの収入は7万円だ。一方、自治体Bの住民は、自分の住む自治体Bに税を納める場合に比べて3万円も得をする。
自治体Bは本来得られたはずの10万円が得られないので大損だが、自治体Aは返礼品代を除いた金額がまるまる利益になる。だが、自治体Aと自治体Bを合計した税収は、10万円から7万円に減ってしまう。
返礼品の代金が寄付額を超えない限り、ふるさと納税を受ける自治体は必ず税収が増える。だから、寄付を得ようとする自治体の間で、返礼品の金額つり上げ競争が起こる。
自治体Aと自治体Bが10万円の寄付を巡って争えば、理論的には返礼品の金額が9万9999円になるまで競争が続く。この結果、自治体Aと自治体Bの合計の税収は1円になり、本来は税収になったはずの9万9999円は返礼品となって消える。これがレントシーキングの非効率だ。
非効率の発生は、極めて単純な理屈で予想されていたことだ。どんな制度も、人間が「合理的な利己主義者」であることを理解したうえで設計することが必要なのである。
(風都)
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