だますAI VS 見抜くAI フェイク動画を見破る
日経サイエンス

2018/11/24 6:30
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人工知能(AI)が厄介ないたずらに使われ始めた。本物そっくりの合成動画「フェイク動画」の作成だ。政治家が言ってもいないことを言ったように見せかけたり、有名な俳優を出演していない映画に登場させたりする動画がインターネット上に出回るようになっている。動画制作の専門的な知識がなくても、AIを使って画像データを処理すれば簡単にこうした動画が作れてしまう。

「Face2Face」の手法を使ってフェイク動画を作成した。表情を作る人(今回は筆者)がカメラの前で顔を動かすだけで、リアルタイムでトランプ大統領の表情が変わる(日経サイエンス提供)

「Face2Face」の手法を使ってフェイク動画を作成した。表情を作る人(今回は筆者)がカメラの前で顔を動かすだけで、リアルタイムでトランプ大統領の表情が変わる(日経サイエンス提供)

日経サイエンス編集部でも、日本経済新聞社の研究組織「日経イノベーション・ラボ」の協力を得て実際にフェイク動画を作った。使ったのはリアルタイムで自分の表情を別人の顔に移し替えることができる「Face2Face」と呼ぶ手法だ。動画のデータをうまく圧縮し、異なる条件で再現すればフェイク動画を生成できる。トランプ大統領の会見動画を素材にして、筆者の顔の動きどおりにトランプ大統領の表情が変わる動画を作ることができた。

「Face2Face」の手法を使ってフェイク動画を作成した。このように筆者がカメラの前で顔を動かすだけで、リアルタイムでトランプ大統領の表情が変わる(日経サイエンス提供)

「Face2Face」の手法を使ってフェイク動画を作成した。このように筆者がカメラの前で顔を動かすだけで、リアルタイムでトランプ大統領の表情が変わる(日経サイエンス提供)

システムを開発した日経イノベーション・ラボの中島寛人上席研究員は「システムは1週間ほどで完成した」と話す。標準的な技能を持つ職業エンジニアなら誰でもできてしまうという。

作成手法が簡単になると、今後精巧なフェイク動画が大量に出回るかもしれない。政治家の講演や監視カメラの動画が信用できなくなれば、社会にとって大きな脅威だ。

そんな時代に備えたフェイク動画の判別技術を、国立情報学研究所(NII)が手掛けている。フェイク動画を作るのがAIなら、見抜くのもAIだ。NIIの山岸順一准教授らは、ディープラーニング(深層学習)の手法を使い、本物とフェイクを見抜く技術を開発した。

開発した深層学習のニューラルネットワークは、98%の確率で正しくフェイクを見抜ける。人の目では一見フェイクだと分からない動画もお見通しだ。学習済みのニューラルネットワークを解析して、判別AIが何を手がかりにフェイクを見分けているのかも明らかになってきた。

今のところ、フェイク動画を作るAIと判別するAIの競争は後者に軍配があがるようだ。しかし、だます側と見抜く側のいたちごっこは続くだろう。フェイクを見抜くために、精巧なフェイク動画を生み出す研究も大阪大学などで始まった。フェイク動画をめぐる技術開発の動向から目が離せない。

(詳細は25日発売の日経サイエンス1月号に掲載)

日経サイエンス 2019年 01 月号 [雑誌]

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,440円 (税込み)

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