2019年9月15日(日)

習氏、フィリピン取り込み 東南ア切り崩し図る
ドゥテルテ氏は対中融和で実利

2018/11/20 18:02 (2018/11/20 21:31更新)
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【マニラ=遠藤淳】中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が20日、フィリピンを公式訪問した。ドゥテルテ大統領と会談し、石油・ガス開発での協力の可能性を探ることなどで合意した。習氏はフィリピンを取り込み、南シナ海での領有権を巡って争う東南アジアの切り崩しを図る。ドゥテルテ氏はこれまで進めてきた融和外交の実利を得る狙いで、双方のもくろみが合致した。

20日昼、フィリピン・マニラに到着した中国の習近平国家主席(中央)=ロイター

「両国関係を包括的、戦略的な関係に引き上げることで一致した」。習氏は20日、会談後の共同記者会見で強調した。ドゥテルテ氏は「今回の訪問は地域の平和と安定に向けた弾みとなる」と歓迎した。

両政府は石油・ガス開発のほかに中国の広域経済圏構想「一帯一路」、鉄道などインフラ整備を含む幅広い分野で協力することで合意した。これに先立ち、習氏はマニラ到着後の声明で「今回の訪問が互恵的な協力関係を深めることになるだろう」と述べていた。

習氏のフィリピン訪問はドゥテルテ政権下で初めて。中国の国家主席が首脳会談のために訪れたのは2005年の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏以来13年ぶり。ドゥテルテ氏は大統領就任後、中国を3回訪問しており、フィリピンの強い働きかけに中国が応じた形だ。

中国が狙うのはフィリピンの取り込みだ。両国は南シナ海の島や岩礁などの領有権を巡って争い、アキノ前政権下のフィリピンと中国は激しく対立した。「中国と戦って勝てるわけがない。それなら必要なものを得た方がいい」。ドゥテルテ氏はこう訴え、外交政策を転換、中国に接近した。

ベトナムなども領有権問題を抱えるが、フィリピンは東南アジア諸国連合(ASEAN)などの場で中国に配慮した主張を展開した。議長国だった17年11月には議長声明から南シナ海問題について「懸念」の表現を削除。「ASEAN対中国」の構図を薄めた。

「南シナ海は既に中国の手にある」。ドゥテルテ氏は15日、ASEAN会議で訪れたシンガポールでこう述べた。ASEANの対中包囲網が崩れるなか、南シナ海の紛争回避に向けた「行動規範」の策定について習氏は「3年以内に協議を終えたい」と会見で表明した。ドゥテルテ氏の任期中に有利な形で決着させたい思惑が透ける。

一方、フィリピンは経済支援の早期の具体化を図る。中国に擦り寄ったドゥテルテ氏の念頭にあったのが、前政権のインフラ開発の失敗だ。民間資金を活用して財源不足を補おうとしたが、事業者間の調整がつかず軒並み頓挫した。「そこで目を付けたのが、政府主導で進められる経済支援を中国から獲得することだった」とデ・ラ・サール大学のレナト・カストロ教授は指摘する。

ドゥテルテ氏は16年の習氏との会談で領有権の主張を控えて経済支援の約束を取り付けた。だが進捗は遅く、首脳会談前に借款契約を結んだのは小粒な水利事業1件だけ。地元の有力紙は「ニンジンはぶら下げられたまま。南シナ海問題でおとなしくしているか、じっくり見極めるとのメッセージだ」と論評した。

果実が乏しいなか、対中融和政策に懐疑的な声も出ていた。フィリピンは領有権を巡って中国に勝訴した仲裁裁判所判決を封印。これを好機とばかりに中国は南シナ海の島や岩礁を埋め立てて軍事施設を建設する動きを加速し、脅威が高まっていた。

南シナ海上空で8月、空軍機が中国軍から退去するよう警告を受け、フィリピン国内で衝撃が走った。ドゥテルテ氏は「人工島の上を領空だというのは間違いだ」と批判したが、発言は「中国の一方的な行動に不満を募らせる軍への配慮だった」(カストロ教授)。

9月に実施された世論調査では、中国の海洋進出を傍観するのは「間違いだ」との回答が84%に上り、6月から3ポイント上昇した。習氏が訪問した20日には中国大使館前で南シナ海問題などに抗議するデモが実施された。ドゥテルテ氏は中国を刺激しない程度に強気の姿勢を見せ続け、融和政策の成果を示す必要がある。

米国も警戒を強める。習氏の到着時間にぶつけて、ソン・キム駐フィリピン米大使はマニラの外務省内でフィリピンとの同盟関係について演説した。「自由で開かれたインド太平洋」を掲げるトランプ米政権は南シナ海問題への関与も強める姿勢を示す。打算で接近する中国とフィリピンの間には火種がくすぶったままだ。

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