シオイさんが投資で見つけた居場所(投信ブロガー)
「シオイ」さんは金融関係の会社で社内IT(情報技術)関連の業務に携わる30歳代後半の男性。共働きの妻と長女(未就学児)の3人家族で、首都圏の自宅マンション(住宅ローンあり)で暮らしている。日々の仕事と家庭の生活、それ以外のもう一つの自分の「居場所」を探す中で始めたブログ「お気楽インデックス投資ジャーニー」には、指数連動型のインデックス投資を始めたいきさつや運用内容が書き込まれ、特に、似たような生活を営む同世代の人たちの参考になればと話す。シオイさんが見つけた3つ目の居場所について聞いた。
衝撃の「毎月分配型」で投資デビュー
――投資を始めたきっかけを教えてください。
「社会人5年目だった2006年の夏休みのことです。転勤先の名古屋から群馬の実家へ帰省した時に、母親が購入していた毎月分配型ファンドの分配金支払い明細書を見て衝撃を受けました。『預金だとこれほどの利息が付かないのに、毎月こんなに分配金がもらえるのか』という驚きです」
「ちょうど生活費とは別にしてためていた預金があったので、母のまねをして当時絶大な人気を誇っていた毎月分配型ファンド2本を合わせて100万円ほど一括購入しました。ネット銀行で購入したので、誰からも勧誘や説明は受けていません」
「その時はただただ毎月の分配金を受け取るだけで喜んでいました。分配金を受け取る度に税金がかかるなど、毎月分配型ファンドが長期投資に向かないとは知るよしもありませんでした。要するに金融商品の中身に疎かったのです」
「そのうち仕事が忙しくなり、悪い意味でしばらくほったらかしていましたが、リーマン・ショックを経てファンドが若干含み損を抱えたので、『このまま放置してはまずい』と感じ始めていました」
「周りで結婚ラッシュが起こり『そろそろ自分も』と考えるようになったのもこの頃です。東京への転勤が決まり、まとまったお金もたまっていたので、所帯を持つことでその先の老後も見据えた資産形成に切り替えなければと思い、これを機に投資内容も見直すことにしました」
著名FPの伝授を受けインデックス投資の道へ
――どうやって見直しましたか。
「まずは、投資に関する書籍やブログを読みあさったところ、インデックス投資やドルコスト平均法による時間分散の考え方を知り、自分に合っているような気がしました。ただ、保有する毎月分配型ファンドをどうしたものか判断できなかったので、ファイナンシャルプランナー(FP)の有料相談を受けることにしたのです」
「初めて相談したFPから提案されたのは、ブラジル関連株ファンド中心の3本への切り替えです。かなりハイリスクなアクティブ(積極運用)型ファンドで、自分の求めるインデックス投資とはかけ離れており、残念な相談結果に終わりました」
「次に相談してみたのが、インデックス投資を薦めることで知られている著名FPです。インデックスファンドの運用方法や、アセット・アロケーション(資産配分)の考え方などについて説明を受けました。短期的なもうけではなく長期投資を前提とした内容には説得力と納得感がありました」
「これが私のインデックス投資ジャーニーの始まりです。10年7月から、積み立て投資を開始し、低コストのインデックスファンドに徐々に切り替えていきました」
住宅ローンの繰り上げ返済に活用
――資産配分が当初と大きく変わっていますね。
「インデックス投資を始めた10年時点では、株式と債券が半々ずつの配分でした。国内債券に3割を投資していましたが、その後の東日本大震災で日本への信用不安を感じるようになりました」
「リスク資産とは別に、生活防衛資金を含めた現預金を確保できていたので、有料セミナーで教わったことも参考にして12年には国内債券を外し、長期的なインフレを想定したポートフォリオに組み替えました」
「国際分散投資という観点で、先進国債券や新興国債券、先進国不動産投資信託(REIT)にも投資していますが、積み立てファンドが『楽天・全世界株式インデックスファンド』主体なので、全体の地域配分は全世界の株式市場の時価総額比率に近くなっています(図A)」

「16年にはリスク資産が700万円以上に積み上がりましたが、購入した分譲マンションの住宅ローンの一部繰り上げ返済をするため、17年に600万円ほど換金しました。現在のリスク資産額は300万円ほどですが、生活防衛資金をその4~5倍保有しています。理想はリスク資産と無リスク資産の比率が1対1なので、今はリスク資産を買い増ししている最中です」
投資ジャーニーをコツコツ歩む
――投資対象はインデックスファンドだけですか。
「アクティブ型は運用コストが高く、過去の運用成績がインデックス型に負けていることが多いので、インデックスファンドのみに投資しています」
「インデックス投資は仕組みを作ってしまえば後はすることがないのがメリットなのですが、正直退屈です。2年ほど前、試しに個別株にも手を出しましたが損切りする羽目になりました。今は株主優待制度の特典として、買い物するごとにキャッシュバックを受けられるイオン株だけを保有しています」
――具体的な投資ファンドを教えてください。
「投資しているファンドは全部で11本ほどで、そのうち5本を積み立て中です。また、妻と長女がそれぞれの口座で積み立て投資をしています(図B)」

――目標とするリターンやリスクはありますか。
「リスクは最悪で元本半減までをイメージしています。資産配分でリスクを取り過ぎないようにしていますが、リターンはそれほど意識していません。ざっくりで年率4~5%のリターンがあれば十分です。よそ見せずにコツコツと投資ジャーニーを歩んでいって、ふと振り返ってみた時に大きく育ち、遠くまで旅することができればいいなと考えています」
ジュニアNISAで生きた投資教育
――非課税制度を利用していますか。
「非課税枠はフル活用しています。『つみたてNISA』に毎月3万3000円程度、『iDeCo(個人型の確定拠出年金)』に毎月1万2000円を積み立て、余裕があれば特定口座で不定期に購入しています。妻も5月から『つみたてNISA』を始めました」
「娘のために1年前から未成年者向けの『ジュニアNISA』を利用しています。お年玉や臨時のお小遣いが入るたびに、ジュニアNISAと銀行口座に半分ずつ入金しています」
「将来、娘が成人した時に、銀行口座に寝かせたお金とジュニアNISAで投資したお金を比べるのはきっと、生きた投資教育になるはずです」
――投資のこだわりは何ですか。
「シンプルな投資を心掛けています。仮に自身で投資判断ができなくなっても家族が困らないように商品数はあまり増やさず、分かりやすい投資内容にしたいと考えています。何より、リターンを確実に低下させる要因になるコストは安く抑えたいです」
ブログは第三の居場所
――ブログをはじめたきっかけを教えてください。
「15年の5月からブログを始めました。毎日家と仕事場の往復ばかりで、もう一つの居場所を探していました。投資を始めた頃は孤独を感じていましたが、ツイッターやブログで情報発信をしている投信ブロガーの様子を見て、自分もブログで居場所を作ろうと思い立ちました」
「ブログタイトルには『長期投資は長い旅になるので気楽にいきたい』という気持ちを込めました。投資情報だけでなく、趣味のラーメンの食べ歩きや子育てなど気付いたこともつづっています」
――これまでの成果はどうですか。
「住宅ローンの返済金など、預金では絶対に増やすことができない資産額を達成できたうえ、運用コストや税制にも目を向けるようになりました。他の投信ブロガーの方々との交流を通じて仕事と家以外の第三の居場所を見つけることができたこともあり、インデックス投資を始めて本当に良かったです」
つみたてNISAは初心者向け
――これから投資に踏み出す人たちへ一言を。
「一昔前までは投資商品を選ぶのが難しく、信頼できる情報が少なかったかもしれませんが、今は国が前面に出て税制優遇制度を推進しています。つみたてNISAは金融庁が制度の普及に努め、採用ファンドも運用コストなどの制約条件を課しています。1年の投資上限額が40万円なので、失敗しても損失は比較的少額に抑えられます」
「インデックス投資は市場の平均値狙いで、短期で大もうけはできませんが、手間がかからず誰が投資しても大きな差がつかない投資手法です。初心者には、つみたてNISAでのインデックスファンドの積み立て投資がおススメです」
「私自身は第三の居場所から、インデックス投資のコツコツ旅の道中について気楽に発信していきます」
(QUICK資産運用研究所 聞き手は笹倉友香子、高瀬浩)