AI基盤の必要性
(WAVE)米エヌビディア日本代表・大崎真孝氏

2018/11/21 6:30
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先日、ある有識者会議でエヌビディアの経営戦略と人工知能(AI)の分野での日本の課題点をプレゼンテーションする機会を得た。その中で最も強調した点が、ディープラーニングにおける学習とそれを使った実行環境である。

米エヌビディア日本代表 大崎真孝
日本テキサス・インスツルメンツで20年以上、営業や技術サポートなどに従事。2014年から米エヌビディア日本法人代表兼米国本社副社長。首都大学東京でMBA取得。

我々が「エンド・トゥー・エンド」と呼んでいる環境の一方は人間で言う脳神経細胞であるディープニューラルネットワークを構築する学習環境、つまりスーパーコンピューターやサーバーのビッグデータ側だ。

もう一方が推論して判断する実行環境だ。例えば自動運転やロボットなどのあらゆるモノがネットにつながる「IoT」側。この学習環境と実行環境のループがディープラーニングのシステムである。学習側のシステムが優秀な脳を作り上げ、実行環境側がそれらをリアルタイムで処理する。

私に続いたプレゼンターは、スパコンの世界的権威である理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長だ。東京工業大学の教授でもある松岡氏は、スパコンのノーベル賞とも言われるシドニー・ファーンバック記念賞を受賞されている。

松岡氏が強調したのは諸外国と比較し、日本は学習環境の数が十分ではないということだった。日本の企業は実行環境側に目が行き過ぎて、学習環境への投資が不十分だという。事前に二人ですり合わせたわけではなかったのだが、二人のストーリーに一貫性が生まれた。日本にはAIの学習環境が足りないのである。

米国や中国の多くの研究機関や企業は桁違いの学習基盤を有する。彼らは研究開発からサービスまで、学習と実行のループを成熟させている。その過程で「AI力」を高めている。例えば米国のウォルマートは1時間に2.5兆件の顧客データを発生させ、これらをAIに活用している。

日本はどうしたらいいのか。いくつかの学習基盤の選択肢がある。

ひとつはクラウド事業者が提供するパブリッククラウドの基盤を採用する方法。企業がAI開発を始める敷居を下げている。次に自社専用のプライベート環境を構築する方法だ。そうした環境を提供する事業者もいるし、自社で環境を構築する「オンプレミス」もこれに含まれる。

時期や用途ごとにこれらを使い分ける企業も多い。これらの選択はそのデータの秘匿性、流動性、初期・運用コストなどにより分かれる。

我が国の代表的なAIスタートアップの1社であるプリファードネットワークス(東京・千代田)は、自社の技術開発のために大規模なプライベート環境を事業者を通じて取り入れている。スタートアップが世界に負けない環境を構築していることは、大手も含めて国内企業は参考にすべきだ。

開発者が自身専用のAIマシーンの鼓動を身近に感じる時、仕事の域を超えることが容易に想像できる。そのような環境を創ることが、結果として我が国のAI技術者不足を解消することにつながると考えている。

初期投資を含め、プライベート環境を構築する経営判断をすることは簡単ではないと思う。しかし、その判断は経営者の意志として、現場で働く者たちに必ず伝わると信じている。

[日経産業新聞 2018年11月15日付]

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