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マラソンの着地、足先から? かかとから?

ランニングインストラクター 斉藤太郎

2018年の秋、人類の限界の数値ともいえるフルマラソンの記録が塗り替えられました。9月16日のベルリン・マラソンでエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)により世界記録が2時間1分39秒に更新されました。10月7日のシカゴ・マラソンでは大迫傑選手(ナイキ)が2時間5分50秒の日本新記録を達成。日本のランナーやファンにとって興味深い記録ラッシュとなったことを受け、今回は走法についての考察を紹介したいと思います。

埋めがたい5秒あまりの差

今回樹立された世界記録と日本記録、さらには一般ランナーの記録などをまとめたのが表です。1キロごとのタイムは世界記録が2分53秒、日本記録が2分58秒あまり。5秒以上の差があるのが現実です。キプチョゲ選手が世界記録を更新した後、大迫選手は自身のインスタグラムに次のように書きました。「追い付けないかもしれないけど、追いかけないと近づけもしない」

一般ランナーの世界で「サブ4」(4時間を切ってフィニッシュ)を達成できるランナーの割合は男性で約3割、女性で約1割といわれています。キプチョゲ選手はそのほぼ2倍のスピードで42キロを走り通してしまうレベル。2時間を切る夢の世界まで、ちょうど100秒というところまで近づいたことになります。100秒ということは、現在の世界記録からさらに1キロあたり2秒強を削らなくてはなりません。あくまで計算上の話ですが。

フォームの種類

快記録に触発されてランニングフォームを大きく変えようと思う方がいるかもしれませんが、急にできることではありません。「はやっているから」「シューズに合った走りにしたいから」という理由でフォームを変更することはよいこととは思えません。人それぞれ体形や体の特性、身のこなしにちょうどよい走り方があると思います。

走法については以下の3つに大別できます。

・かかとから着地する「ヒールストライク走法」
・足裏全体で地面をとらえる「ミッドフット走法」
・足先から接地する「フォアフット走法」

いずれも一長一短ありますが、一つ気になるのが、好記録を出している選手に多いフォアフット走法の取り上げられ方です。キプチョゲ選手の紹介映像では主に腰から下と足先にスポットが当てられていました。頭までも含めた全体があっての足運びだということを、もう少し説明してもらえたらと感じました。そうでなければ子どもたちや一般ランナーに誤解を与えかねません。つま先からの接地に焦点を当てるばかり、安易に体の先端部分の筋力強化に流れては本末転倒だと考えます。

部位ごとの重さの比率を調べたところ、一般的に次のような割合になっているそうです。

・頭+首+胴体(胸から骨盤)=5割強
・両腕=12%前後
・両脚=30%前後

このことをふまえて、今回は頭+首+胴体、いわゆる「上半身」の部分に注目したいと思います。

かかとからの着地走法

多くの日本人ランナーは上半身をほぼ垂直にして走ります。骨盤が後方に傾き、頭を前に出す猫背型のランナーもここから派生したタイプと扱います。

ここでの足運びは、自然とかかとからの着地になると考えます。着地した足が体の真下にきたタイミングで最も強く地面に力が伝わり、その反発力を生かして前に進みます。その後は、体より後ろで足先が地面から離れていく。体の真下で足運びのサイクルが繰り返され、上手に体を前方へ運ぶ走り方です。

フォアフット走法

上半身が垂直の状態で、足先から着地するフォアフットに変えるとどうなるでしょうか。足先を地面に突き刺すような形になり、強いブレーキがかかってしまいます。効率的とはいえず、けがのリスクを伴います。

フォアフット走法でまず重視したいのは、足先ではなく、軸を保ったまま上半身を前傾させること。体重の半分以上を占める上半身が前方向にバランスを崩せば、体はつまずくように傾き、自然と足が前に振り出されて着地します。左右の足がつまずかないように地面をとらえて体を支える走り方。上半身の前への移動はとても速く、どんどん前に進みます。足は上半身よりもやや後ろで回転し、自然と足先から着地することになります。このバランスでは、かかとから着地する方が不自然です。

私は、リラックスして走る際には「頭+背骨」をまち針のように意識しています。両腕と両足はそのまち針から生えているロープのイメージ。まち針が前方に崩れることで両腕と両足がスイングされます。傾きが大きいほどスイングは速くなります。

前方向に上半身が崩れ続けるマラソンと対照的に、対人スポーツでは左右に移動する局面が多々あります。上半身を飛行機の操縦かんに例えてみましょう。いきなり脚で左右に進もうとするのではなく、進みたい方向に操縦かんを倒し、後から脚がついてくる。そんな順序の身のこなしを私は推奨しています。

枝葉にすぎない足先からの着地だけを見るのでは、記録向上には結びつかないと考えます。つま先からの着地を成り立たせているのは上半身の傾き。鍛錬が足りない人や体重が絞り切れていないランナーは、前傾をつくろうとしてもおなかがゆがみ、軸をキープできません。

キプチョゲ選手の紹介で聞く「異次元の走り」「筋力があってなしえている」などの言葉が指しているのは、上半身の軸が曲がらず適度な崩れをキープし続けられる体幹深層の筋力と、それとつりあったスピード。大きくいって、この2点だと考えます。繰り返しますが、つま先で走り続けようとして、足首やふくらはぎといった末端部分の筋力強化に流れるのはいいとはいえません。

日ごろのトレーニングはもちろん、日常生活で歩くときから上半身の重たさを自覚し、その傾きやバランスを意識しながらいろいろと試してみてください。そうして自分に合った走り方を見つけ、快走を目指していただけたらと思います。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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