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「神様は優しくなかった」 はやぶさ2の大冒険

53枚のりゅうぐうの写真をつなぎ合わせて作成=はやぶさ2が18年6月から9月にかけ撮影し、JAXAなどが提供

JAXAは2月22日、日本の無人探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」への着陸に成功したと発表した。極めて高い精度の着陸をなし遂げ、プロジェクトチームの盛り上がりは最高潮に。しかし旅路は想定外が連続し、極めて困難なものだった。

地球から3億キロメートルかなたの小惑星りゅうぐう。はやぶさ2がたどり着いてみると、想像を絶する光景が広がっていた。巨大な岩石が折り重なり、長く伸びた陰影が不気味な雰囲気を漂わせる。りゅうぐうは、太陽系が生まれた46億年前の痕跡を残すタイムカプセル。なんとしても着陸し、生命誕生の謎に迫る岩石のかけらを地球に持ち帰らなければならない――。挑戦の軌跡を、写真・映像と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の津田雄一プロジェクトマネージャらのコメントでたどる。

「初代はやぶさのように、はらはらする場面はなくていい」

探査機「はやぶさ2」と小惑星「りゅうぐう」の距離は、地球から月までの距離より近くなった。津田雄一プロジェクトマネージャは「楽しみが半分。緊張が半分。はらはらする場面がなくても、はやぶさ2に興味を持ってもらいたい」(2018年4月、単独インタビューで)

りゅうぐう到着前に描かれた想像図。当初、表面は月面のように滑らかだと考えられていた=池下章裕氏・JAXA提供

「あれ、角張っている」

はやぶさ2のカメラがりゅうぐうの姿をとらえた。点のような大きさだった。「ほぼ球形」と推定されていたが、吉川真ミッションマネージャは「少し角張っている感じがする。もっと詳しい画像を撮らないと分からない」(18年6月13日)

はやぶさ2のカメラが撮影したりゅうぐう(18年6月13日)=JAXAなど提供

「日本からブラジルの的を狙う精度が必要」

りゅうぐう到着まで750キロメートル。はやぶさ2をりゅうぐうに送り込むのは「日本からブラジルにある6センチメートルの的を狙うくらいの精度が必要」(吉川氏、18年6月14日)

「宇宙人などいやしないから大丈夫」

津田氏は「りゅうぐうに向かうのが怖いかって?『りゅうぐう星人』がいるわけではないから大丈夫。慎重にやりたい」(18年6月23日)

「着陸は大変」

りゅうぐうへの到着が18年6月27日になると発表した。プロジェクトチームは「(くぼ地や岩石の塊が多いとみられ)着地場所を探すのは大変かもしれない」(18年6月25日)

はやぶさ2がとらえた、りゅうぐうの自転の様子=JAXAなど提供
はやぶさ2の運用をする管制室(神奈川県相模原市の宇宙科学研究所)=矢後衛撮影

「神様は優しくはなかった」

とうとう、りゅうぐうから20キロメートルの目標地点に到着した。津田氏は「人類未到の宇宙科学探査の入り口に立つことができた」「本当にうれしい。今日だけはもろ手を挙げて喜びたい」。

だが、到着後に待ち受けていたのは、りゅうぐうの「予想外の形」だった。赤道付近は独楽のようにふくらみ、表面には、クレーターのようなくぼ地や岩石の塊が数多く見える。津田氏は「(着陸は)難易度が高い。神様は優しくはなかった」(18年6月27日)

「なぜ巨大な岩があるんだ」

到着後、初めてりゅうぐうの詳細な様子がわかった。表面は極めて暗く、130メートル大の巨大な岩もあった。岩の塊がある場所は100カ所以上。プロジェクトチームは「りゅうぐうは小さいわりに大きな岩の塊がある」(18年7月19日)

計測データをもとに作成したりゅうぐうの形状モデル=JAXAなど提供

水が無い。意外だ」

りゅうぐう表面の9割以上を観測したが、水分を含む鉱物を確認できなかったと発表した。プロジェクトチームは「水分が見つからないとは、意外だ」(18年8月2日)

高度約1000メートルから撮影したりゅうぐうの表面。巨大な岩だらけだ(18年8月7日)=JAXAなど提供

「誰も行ったことがない天体の探査はこういうことか…」

はやぶさ2が18年10月下旬にりゅうぐうの赤道付近に最初の着陸をすると発表した。津田氏は「安心できない地形だ。誰も行ったことのない天体を探査する経験とはこういうことなのか」(18年8月23日)

「ハードルが残っている」

はやぶさ2が探査ロボット2台をりゅうぐうに投入した。津田氏は「りゅうぐうの表面はでこぼこ。はやぶさ2の着陸には、ハードルが残っている」(18年9月21日)

はやぶさ2が投下した探査ロボットが撮影したりゅうぐうの地表(18年9月23日)=JAXAなど提供

「大きな自信になった」

探査ロボットがりゅうぐうに着陸した。津田氏は「探査ロボットの着陸に2回連続で成功し、大きな自信になった。りゅうぐうの地形はでこぼこだが、はやぶさ2の着陸に向けて着実に運用を進めたい」。気持ちを奮い立たせた。(18年10月3日)

「りゅうぐうが牙をむいてきた」

「着陸は2019年1月後半以降に延期する」。突然の発表だった。はやぶさ2のりゅうぐうへの着陸は18年10月下旬に迫っていた。記者会見に臨んだ津田氏は「着陸できる平らなところが1つもない。りゅうぐうが牙をむいてきた。このままでは歯が立たない」と語った。(18年10月11日)

りゅうぐうの地表は険しい岩で覆われている(18年10月20日、JAXA提供)

不安増す「誤差15.4メートル」

着陸にふさわしい候補地は100メートル四方との期待は裏切られ、安全に降り立てるのは直径20メートルの範囲に限られた。18年10月25日、はやぶさ2は着陸の目印となるボール型装置「ターゲットマーカ」を候補地を狙って落としたが、中心から15.4メートルも外れた。着陸への不安が増した。(18年10月25日)

着陸のリハーサル時に、りゅうぐう表面から約20メートルの地点で撮影された画像を連続再生(18年10月25日)=JAXA提供
着陸候補地点付近を撮影した画像を組み合わせたもの。平らな部分がほとんどない=JAXAなど提供

「何もあきらめてはいない」

りゅうぐうの険しい地形に立ちすくんでばかりはいられない。津田氏は「何が何でも着陸させて帰還を目指したい」(18年11月19日、単独インタビューで)

「失敗は許されない」

英科学誌「ネイチャー」は18年12月19日、18年に世界で注目を集めた10人に吉川真ミッションマネージャを選んだ。はやぶさ2計画に10年以上かかわってきた。はやぶさ2の行方を世界が見守るなか、「着陸は、必ず成功させなければならない」(吉川氏、18年12月19日)

「どちらを信じて良いかわからない」

JAXAは2019年1月8日、2月18日の週に着陸を目指すと発表した。「広くても岩が点在する場所」か、「狭いが岩が小さい場所」か。候補地はなお1カ所に絞り込めず、2カ所のどちらにするかで混迷が深まった。「どちらの地形を信じたらいいのか現時点ではわからない」。究極の二者択一に、JAXAの久保田孝・研究総主幹は胸の内を明かした。

りゅうぐうへの着陸候補地点(赤と緑の円内)が示された=JAXA提供

「りゅうぐうが支配する世界」へ突入

「2月22日に着陸する」。はやぶさ2が地球を離れてから、すでに4年が過ぎた。りゅうぐう周辺に着いてから、着陸の決行までに約8カ月。ついにそのときがきた。はやぶさ2がりゅうぐうに近づき、歓喜の声があがるなかで、プロジェクトチームの1人は「りゅうぐうが支配する世界にいよいよ入る」とつぶやいた。

「人類の手が新しい星に」

「本日、人類の手が新しい星に届きました」。はやぶさ2が、ついにりゅうぐうへの着陸に成功。JAXAで運用チームを務める津田雄一プロジェクトマネージャは高揚した表情で喜びをかみしめた。(2月22日)

着陸をなし遂げ、はやぶさ2の模型を背に記念撮影するJAXAの津田雄一プロジェクトマネージャ(中)ら(2月22日、相模原市)=笹津敏暉撮影

(科学技術部 加藤宏志、制作:写真部 松本勇、寺沢将幸、アニメーション制作:デザイン編集部 久保庭華子)

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