2019年7月23日(火)

「高専生よ、視野を広げろ」 教養学び一段の高みへ
東工大の益一哉学長に聞く

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
2018/11/16 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

高い技術力と専門性をもつ高専生こそイノベーションの原動力になりうる――。こう語る東京工業大学の益一哉学長は高等専門学校出身だ。高専生の長所と短所、イノベーションに向けた課題は何か。自身の青春時代の思い出も踏まえて、高専生にかける期待を語ってもらった。

ます・かずや 1954年生まれ、75年に神戸市立高専を卒業。東工大博士(工学)、学長。専門は半導体の物理的性質。

ます・かずや 1954年生まれ、75年に神戸市立高専を卒業。東工大博士(工学)、学長。専門は半導体の物理的性質。

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――神戸市立工業高等専門学校に進学したきっかけは。

「小学生の頃から理科が好きだった。当時は高度経済成長期で、技術が日本をよくしていくという時代。技術家庭の授業で真空管のラジオづくりに憧れるなど、ものづくりに関心があった」

「高校進学時に普通の高校に進むよりも早く専門的な技能を身に付けたいと高専を選んだ。2年生くらいから大学レベルの教科書を使うし、専門レベルは5年間で大学4年相当分までやった。大人扱いされるので、少し偉そうな気分に浸れたのも高専ならでは。20歳までの最も多感な5年間を一緒に過ごした同級生とはいまだに仲が良い」

――高専卒業後に東工大に編入します。

「1973年に江崎玲於奈先生が半導体でノーベル賞を受賞した際に、大阪での講演を聞きに行った。ちょうど高専で半導体を勉強したばかりだったが、講演の内容はほとんど分からなかった。コンピュータの勉強をするのもいいなと迷っていたが、結果的にもっと半導体を勉強する道を選ぶきっかけとなった」

「より専門性を高めたいという理由と、受けられる大学が少なかったこともあって東工大を選んだ。講義のレベルは高かったが問題なくついていけた。実験科目など大学の基礎は、高専で学んだことが多かった」

――東工大に編入する高専生はさらに増えています。

「今は毎年40人ほどを受け入れている。全国からえりすぐりの優秀層が集まる。私の時代の高専には貧しい家庭でも地頭が良い人材が集まり、実学的に鍛えられて現場を下支えする技術者を輩出していた。今も即戦力を出している」

「習うより慣れろ、まずやってみるといったものづくりの精神を持つ面では高専生が有利だ。普通高校から進学する学生に比べると、手が動く学生が多い。高専では2、3年生からプログラミングや最先端のものづくり方法を基にした実験を行う。豊富な経験が生きて、人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoTの時代の教育に即応できる」

「東工大は高専の『親玉』のようなもの。早期から専門教育や研究の機会を組み込んでおり、親和性が高い。学部での編入だけでなく、高専の専攻科に進んだ後に大学院に進学する道もある」

「優秀な高専生、専攻科の学生に東工大に来てもらうために、全国を回ってアピールしている。イノベーションに多様性は欠かせない。全国の高専から人材を集める意義は大きい」

「習うより慣れろ、まずやってみるといったものづくりの精神を持つ面では高専生が有利」と東工大の益学長

「習うより慣れろ、まずやってみるといったものづくりの精神を持つ面では高専生が有利」と東工大の益学長

――高専に課題はありますか。

「イノベーションを起こすには、いわゆるリベラルアーツ教育も必要になってくる。高専の短く限られた授業時間の中でも、社会を見る目を養う教養教育を増やして視野を広げるべきだ」

「高校と大学7年分の専門教育を5年で勉強させるために、詰め込み教育にならざるを得ない面もある。僕自身も感じていたが、どうしても高専生は視野が狭くなる傾向にある。東工大の学生にも同じことが言える。多様性をもって人と協調するには教養的な部分も必要と考えている」

――産業界へ要望は。

「優秀な高専生を求めるなら、資金面を含めて共同研究などの形で教育体制の支援をお願いしたい。連携は産業界だけでなく、大学と高専の間でも重要。高専の研究設備は大学に比べると劣る。私の研究室が開発したシミュレーターを富山高専の研究室で活用してもらったり、高専からインターン生を受け入れたりといった経験もある」

■聞き手から一言
 高専出身の益学長は視野が狭くなりがちな高専生の傾向を自分の経験から語ってくれた。東工大は、リベラルアーツ教育を通して社会との接点や社会課題への向き合い方を学生に身に付けさせているが、この方策は共通点が多いという高専にも有効なのではないか。
 「みんな技術は高い。課題やニーズを深掘りできているかで差が付いていた」。10月末に徳島で開かれた全国高専プログラミングコンテストでは複数の審査員からこんな声が聞かれた。高い専門性を社会に実装するために、高専が企業や地域を巻き込みながら外部との接点を創出できるかが、学びの豊かさを左右しそうだ。
(小柳優太)

[日経産業新聞 2018年11月15日付]

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