タニノクロウ、城崎で滞在制作 漁港を舞台 魚までリアル(もっと関西)
カルチャー

2018/11/16 11:30
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欧州でも注目される劇作家・演出家、タニノクロウが主宰する「庭劇団(にわげきだん)ペニノ」(拠点・東京)が5日から、兵庫県豊岡市の城崎温泉で「笑顔の砦(とりで)」を制作中だ。関西の俳優を中心にキャストを組み、城崎温泉近辺を舞台にした物語を同地と大阪で上演する。豊岡市は世界に通用する舞台芸術作品の制作拠点を目指しており、地域の風情を織り込んだ良質の作品は同市にとって願ってもない企画だ。

「笑顔の砦」では俳優がよく触る壁の部分に手あかを濃くするなど、生活感漂う舞台美術を施す

「笑顔の砦」では俳優がよく触る壁の部分に手あかを濃くするなど、生活感漂う舞台美術を施す

タニノが城崎温泉の城崎国際アートセンターで滞在制作するのは今回で2回目。同センターは大ホール(最大1000人収容)と6つのスタジオや宿泊棟を備え、公募で選ばれた利用者は最長3カ月間、24時間無料で自由に使えるのが売りの施設だ。

■2軒長屋を再現

「笑顔の砦」は2軒長屋の1軒に暮らす独り者の漁船船長と配下の漁師たちの日常を、隣に引っ越してきた介護が必要な母親を抱える家族と対比させながら描く。2006年に東京、07年に大阪で上演した作品。約10年ぶりの再演にあたり、出演者に合わせて登場人物の年齢設定などを変更。物語に一層リアリティーをもたせるため、舞台の地も城崎近辺を思わせる漁港町に改めた。

役者に稽古をつけるタニノクロウ

役者に稽古をつけるタニノクロウ

本番会場の大ホールに入ると、実物大の古い2軒長屋に目を引き付けられた。これは劇団が稽古初日に組んだ舞台セット。2軒はそれぞれ6畳ほどの1室と押し入れなどからなり、観客が縁側方向から2軒の室内を見渡せるように立てている。

室内には冷蔵庫や机などが置かれ、流し台に換気扇が付く。同劇団は緻密な舞台セットで知られるが、瓦224枚を葺(ふ)いた長屋の屋根(重量150キロ弱)一つとっても「超」の付くリアルさ。タニノは「これから俳優が劇中でよく触れる壁の部分に、手あかを濃くする舞台美術などを施すから、もっと生活感が漂ったものになる」と笑う。

タニノは新作を手掛ける場合、本番の舞台セットを組んで稽古をし、そこで公演する手法をとってきた。「納得のいく作品を作る一番の方法」と考えているからで、それができるため同センターを再び制作場所に選んだ。

今回は大ホールを稽古から本番終了まで3週間ほど使う。同センターの田口幹也館長は「今年度は海外の5団体を含め計18団体が滞在制作する。庭劇団ペニノがここで前回作った作品は評判が良く、また来てほしい劇団だった」と話す。

城崎国際アートセンター(兵庫県豊岡市)

城崎国際アートセンター(兵庫県豊岡市)

■日常の言葉追求

タニノは毎日の稽古で、場面ごとに俳優が動き出すタイミングを入念に確認。一つ一つのセリフの心持ちについて、台本の前後の流れから推測するのではなく、あれこれ思いながら発するように俳優に求め続けた。日ごろの生活では何気なく言葉を交わすことが多く、観客にそうした日常を垣間見ているように感じさせたいとの演出だろう。

舞台セットとともに、調理の場面もリアルさを重視している。過去の洋食店を舞台にした作品はオムライスなどを実際に作る場面を入れたが、今回は漁師役が魚をさばいて刺し身にしたり、甘露煮を作ったりするくだりを用意した。本番は醤油(しょうゆ)や魚の臭いが観客席に漂うはずだ。「舞台は視覚や臭覚も重要。観客は後日、調理の香りから舞台の記憶をよみがえらせてくれるかもしれない」と調理場面に凝る理由を話す。

「笑顔の砦」作・演出のタニノクロウ

「笑顔の砦」作・演出のタニノクロウ

タニノはタイトルに「砦」を付けた理由を、「主人公にとって自身のチームは大切な存在で、誰にも壊されたくないと思っていることを描きたかったから」と話す。それだけに、物語は前向きな結末にしたようだ。また、舞台セットの面でも結末に、観客の記憶に残るだろう仕掛けを用意しているという。

同作は24.25日に城崎国際アートセンターで上演。29日から12月2日まで、大阪市のインディペンデントシアター2ndで上演。

(編集委員 小橋弘之)

タニノクロウ 1976年富山県生まれ。2000年、大学医学部在学中に「庭劇団ペニノ」を旗揚げ。以後、全作品の脚本と演出を手掛ける。16年に「地獄谷温泉 無明ノ宿」で岸田國士戯曲賞を受賞。欧州の演劇祭にも度々、招かれて上演している。

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