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勝利はお金で買えるか 「適正年俸」を考える

野球データアナリスト 岡田友輔

プロ野球は日本シリーズが終わり、ストーブリーグが本格化する。複数の有力選手がフリーエージェント(FA)宣言したこのオフは熱い争奪戦が繰り広げられ、大型契約が結ばれるだろう。しかし低年俸の選手が大活躍することもあれば、その逆も起こるのがプロ野球だ。今回は投資と勝利の関係について考えてみたい。

ソフトバンクは2年連続9度目の日本一に輝いた

まずは2002~18年における12球団の勝率と推定年俸を調べてみた。大まかな結論としては「お金をかけるほどチームは強くなる」という考え方は大筋で正しいということだ。05年の参入以来、最も多くの投資をしてきたソフトバンクは勝率でもトップに立っている。それに迫る水準の年俸を払ってきた巨人は勝率も2位だ。上位2球団とは差があるものの、年俸3位の阪神も勝率で4位につけている。

それなりに差がある費用対効果

とはいえ、年俸と勝率は完全に比例するわけでもない。最低レベルの年俸で最強チームをつくることはできなくても、費用対効果にはそれなりに差がある。効率的な投資をしているのは西武で、年俸では5位ながら勝率は3位だ。日本ハムも年俸額から予想される期待勝率を大きく上回り、広島はもっとも少額の投資なのに勝率では7位につけている。一方、オリックスは年俸では9位だが勝率は最下位と元を取れていない。

やりくりのうまい球団はFA前の選手を中心にチームを編成している。FA市場に出ていない選手は「未公開株」のようなものだ。需給バランスで価格が決まる「上場株」に比べれば概して割安になると考えていい。西武、日本ハム、広島がFAやポスティングで専ら選手を「供給する側」にいるのは、こうした現実を反映している。

それでは選手の働きに基づいた「適正価格」についてはどのように考えればいいだろうか。役に立つのはこれまでにも紹介した「WAR(Wins Above Replacement)」という概念だ。野手であれば走攻守、投手であれば投球を得点価値に換算し、その選手が試合に出ることで、控えレベルが起用された場合に比べてどれほどの勝利を上積みしたかを測る数字だ。

柳田は今季、推定年俸以上の働きをした計算になる=共同

細かい計算は省略するが、控え選手の年俸を1軍規定下限の1500万円程度と仮定したうえで現在の総年俸を当てはめると、1勝をもたらす「1WAR」あたりの値段は約1億円になる。今季、球界最高の8.9WAR(算出はDELTA。以下同じ)を記録した柳田悠岐(ソフトバンク)なら約9億円、7.6WARの菅野智之(巨人)なら8億円弱の働きをしたことになる。推定年俸は柳田が5億5000万円、菅野が4億5000万円と既に球界トップクラスだが、チームにすればそれでもお釣りがくるほどだった。

しかし株式市場と同様、こうした年俸の"理論値"がそのまま実際の取引価格になるわけではない。契約には有形無形の多くの要素が絡む。安打1本、アウト1つの価値が試合の局面によって変わるのと同じように、0.5ゲーム差で優勝を逃したチームにとって1勝の重みは、最下位チームとは比較にならない。どうしても必要な勝利のためであれば、適正価格以上の投資をすべきときもあるだろう。

このオフ、FA宣言した主な選手の今季のWARは丸佳浩(広島)が7.1、浅村栄斗(西武)が6.6、西勇輝(オリックス)が3.7だった。丸や浅村が移籍し、新チームの同ポジションの選手が控えレベルであった場合、7勝前後の上積みをもたらす。つまり彼らは借金7のチームを貯金7に変えるほどのインパクトを持っているということだ。そのうえ、同一リーグ内での移籍なら、ライバルの戦力を大幅にダウンさせる効果もある。もしも今季最下位だった楽天が浅村を、阪神が丸を獲得し、2人が今季並みの成績を残したとすれば、順位を2つから3つ上げることも現実的にみえてくる。

FA宣言した広島・丸の動向はセ・リーグの勢力図を左右する=共同

このレベルの選手がそろってFA市場に出てくることはめったにないから、中堅手や二塁手に悩む球団なら獲得を検討しない手はない。ただし、複数年の大型契約を結べば、不振や故障のリスクも高まる。移籍初年度は環境の変化で成績を落とす可能性も考えられるが、年俸の減額幅には制限があり、これも判断を難しくする。過去数年の平均的な実績、年齢なども考慮したうえでどのようなオファーを出すかは球団の考え方次第。杓子(しゃくし)定規の適正価格があるわけではない。

安定した強さ築くための武器は?

最近、お金をかけない自前の育成が過度に評価される傾向があるのは気になるところだ。選手獲得にはドラフトのほかにもFA、トレード、外国人といろいろなチャネルがある。ドラフトをベースにした育成がチーム編成の根幹なのは間違いないが、長期間にわたってドラフトですべての補強を賄うのは無理があるし、育成が思うように進まないこともある。そんなとき、ドラフト以外の補強手段をもっていることは、安定した強さを築くうえで大きな武器になる。

日本ハムは23年に自前の新球場をオープンする方向で動いている=共同

日本ハムは23年に自前の新球場をオープンする方向で動いている。効率的な投資でそれなりの成果を挙げてきたチームだが、新球場が完成し、飲食や広告の収入が球団に入るようになれば、選手への投資も増やせる。これまでのように選手を「供給する側」だけでなく、必要に応じて「獲得する側」にもなれる。

日本シリーズ連覇を果たしたソフトバンクは育成出身の甲斐拓也が最優秀選手に輝いたほか、バンデンハークやデスパイネ、FA組の内川聖一と異なるルートで獲得した選手たちが活躍した。活用できるチャネルはやはり多いに越したことはない。

 岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。「デルタ・ベースボール・リポート2」を10月発売。

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