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自動運転車の中身はスタートアップの塊だった

CBINSIGHTS
3万点もの部品から作られる自動車は、完成車メーカーを頂点に部品メーカーが連なる産業ピラミッドを築いてきた。いかに膨大な種類の部品を擦り合わせるかが、自動車メーカーの競争力を左右してきた。「走るスーパーコンピューター」と言われる自動運転車ではどうか。自動運転車を解体してみれば、新たなテクノロジーを担うのはスタートアップ企業だった。もはや自動車メーカーだけの手に負えず、「ピラミッド」の姿も変わりつつある。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

自動運転車は周囲の状況を把握し、それに対応するため様々なテクノロジーを組み合わせている。こうした技術を手掛ける企業には、特定の部品に特化し、自動車メーカーや1次部品メーカーと提携して自社製品を拡大する会社もあれば、米Zoox(ズークス)や米Nuro(ニューロ)のように全てを自前で設計する企業もある。

今回のリポートで紹介する市場マップは未上場の現存企業のみが対象で、すべてを網羅しているわけではない。カテゴリーは一部重複しており、各社は主な用途に応じて配置されている。

自動運転車を徹底解剖する

モノの認識(パーセプション)

自動運転車は信号や標識に加え、他の車や自転車、歩行者も認識できなくてはならない。接近してくる物体の距離や速度も感知し、対応できるようにしておく必要もある。

自動運転車は通常、カメラやレーダー、「ライダー」といったセンサーを使っており、それぞれに一長一短がある。

こうしたセンサーが集めたデータを「センサーフュージョン」という技術で融合し、周囲の状況をできるだけ正確に表す。それぞれの特徴を見ていこう。

まずはカメラ。自動運転車や先進運転支援システム搭載車で広く使われている。色やフォントを識別できるため、交通標識や信号、路面の標示の検知を助ける。もっとも、「目」の届く範囲や距離ではライダーにかなわない。

できるだけ鮮明な画像を抽出できる自動車用カメラを開発しようと、多くのスタートアップ企業がしのぎを削っている。

16個のレンズを搭載したライトのカメラ「L16」(出典:ライト)

7月にシリーズDの資金調達ラウンドで1億2100万ドルを調達した米Light(ライト)は、ライダーに匹敵する精度を持つよう設計されたカメラを開発した。16個のレンズで撮影した画像をつなぎ合わせ、極めて正確な3D画像を抽出する。

カメラが捉えたデータの処理にはコンピュータービジョンソフトが使われる。車線の色やパターンなどを識別し、自動運転車が最適な交通ルールを判断する。

多くのスタートアップ企業がより高度で優秀なコンピュータービジョン技術の開発に取り組んでいる。

米DeepScale(ディープスケール)などは認知機能を高め、誤検知率を低く抑えるために、ディープニューラルネットワークの開発を進めている。

仏Prophesee(プロフェシー)は不要なデータを最小限に減らす「イベント駆動型」と呼ぶマシンビジョンを開発した。同社のディープラーニング(深層学習)技術では、人間の脳が網膜で捉えた画像を処理する方法が人工的に再現されている。

標準的なカメラに搭載されているフレーム(コマ)方式のセンサーでは、それぞれの画素が1枚の画像を全て同時に記録し、コマごとに画像を処理する。これに対して、イベント駆動型のセンサーでは画素が互いに独立して動くため、動きを連続した情報の流れとして捉えられる。一連のコマの画像を処理する従来のカメラよりもデータ量を抑えられるのだ。

出典:プロフェシー

プロフェシーはこのマシンビジョン機能を自動運転車だけでなく、工場の自動化や医療などにも展開したい考えだ。同社は2月、シリーズBの追加ラウンドで1900万ドルを調達した。

自動運転車では通常、カメラの視覚機能を高めるためにレーダーとライダーも併用される。

自動運転車は、あらゆるセンサーからの情報を融合して一貫性のある周囲の像をつくり出すソフトウエア「センサーフュージョン」を使い、センサーで集めたデータを処理する。

こうした視覚センサー以外にも、多くのスタートアップ企業や自動車メーカーが、車が他のネット接続機器と無線通信できる「V2X(ビークル・ツー・エブリシング)」の開発に取り組んでいる。

このテクノロジーはまだ初期の段階だが、車からは見えない近くの車や自転車、歩行者のライブ映像が、車に配信されるようになる可能性がある。

レーダーは電波を送って車に接近してくる物体の距離や速度を検知する役割を担う。検知できる距離が長く、回転部品を使うライダーよりも信頼性が高いとみなされる。ライダーの回転部品はまだ誤検知も多いからだ。コストも低いため広く使われている。

9月に実施したシードラウンドで独BMWと中国のネット検索最大手百度(バイドゥ)から500万ドルを調達した米Lunewave(ルーンウエーブ)は、検知できる範囲が広く、精度も高いさらに強力なアンテナを3Dプリンターで作製しようとしている。ベースになる技術は、なんと1940年代に開発された独ルネベルグのアンテナ技術だという。

米Metawave(メタウエーブ)もレーダーの機能向上に取り組んでいる。メタマテリアルという人工物質を使い、広い範囲をより迅速に検知できるアナログアンテナを開発している。

メタウエーブのレーダー技術(出典:メタウエーブ)

メタウエーブが5月に実施した追加のシードラウンド(調達額1000万ドル)には、デンソートヨタ自動車、韓国・現代自動車など大手メーカーに加え、ベンチャーキャピタル(VC)の米コースラ・ベンチャーズなどが参加した。メタウエーブは8月、独半導体大手のインフィニオンから出資を受けることも発表した。

ライダーは最先端のセンサーとみなされる。車の周囲の3D描画を作成できるほど精度が高く、物体検知を支える。

ライダー技術で作製した車の周囲の3D描画(出典:ベロダイン・ライダー)

ライダーは赤外線センサーを使って物体の距離を判断する。レーザー光線のパルスを高速照射し、光線が戻ってくるまでにかかった時間を計測する仕組みだ。

従来のライダーユニットでは車の周囲の全方位を捉える回転部品を多く使っていた。こうした部品はコストが高く、静止部品よりも信頼性が低い場合が多い。そこで各社はライダーセンサーの精度を維持しつつも、低コスト化を進めようとしている。

解決策の一つは半導体技術や光学技術で機構部を置き換える「ソリッドステート型」のライダーユニットだ。回転部品が使われておらず、実装コストも低い。

イスラエルの新興企業Innoviz(イノビズ・テクノロジー)は価格を「数百ドル」に抑えたソリッドステート型ライダーを開発した。128個のレーダーを使う米ベロダイン・ライダーの7万5000ドルに比べると微々たる額だ。

イノビズは4月、BMWとカナダの部品メーカー、マグナ・インターナショナルと提携し、自社製品をBMWの自動運転車に搭載することを明らかにした。

イノビズのライダーユニット「イノビズ・プロ」(出典:イノビズ)

米Aeva(エーバ)もソリッドステート型ライダーの開発に取り組んでいる。10月にはシリーズAで4500万ドルを調達した。エーバによると、同社のライダーは半径200メートルを検知できる上に、価格も200~300ドルと安い。従来のライダーのようなパルスではなく、連続波光を照射する。

中国のRobosense(ロボセンス)もソリッドステート型ライダーの開発を進めている。10月に実施したシリーズCでは、中国のライダー企業の1回の資金調達ラウンドとしては過去最高となる4330万ドルを調達した。このラウンドには中国アリババ集団の物流部門である菜鳥網絡や、自動車メーカーの上海汽車集団と北京汽車集団が参加した。

V2X(ビークル・ツー・エブリシング)は、車とネット接続機器との無線通信を可能にする技術だ。まだまだ初期の段階だが、ライダーやレーダー、カメラなどの視覚センサーの弱点を補う可能性がある。

V2Xセンサーは路上の障害物や交通渋滞、接近しつつある死角を検知できる。

イスラエルのスタートアップ企業Autotalks(オートトークス)は現代自動車と提携し、V2Xセンサー技術の量産化に取り組んでいる。同社は韓国・サムスン電子からも出資を受けている。

運転手のデータ、シミュレーション

公道での走行テストやシミュレーションは、自動運転技術の開発に不可欠だ。これを使って走行を指示するアルゴリズムを訓練するからだ。

米ランド研究所によると、自動運転車が安全性を証明するには、数億~数十億マイルの走行が必要になる。実験車両でこれほど長い距離のデータを収集しようとすると、何年もかかってしまう。

そこで、各社はシミュレーションで走行距離を稼いでいる。

シミュレーションを手掛けるスタートアップ企業と自動運転車を開発する各社は、人工知能(AI)を活用して自動運転車を訓練するシンプルなデータセットを作ったり、改良したりしている。まぶしい日差しや停車している車の背後から飛び出す歩行者など、危険だがそれほど頻繁には起きない状況での自動運転車の訓練に特に有用だ。

イスラエルのスタートアップ企業Cognata(コグナタ)は、自動運転試験の様々なシナリオを提供する3Dシミュレーションシステムを開発している。

コグナタの3Dシミュレーションシステム(出典:コグナタ)

コグナタは10月に実施したシリーズBで、欧州エアバスやイスラエルのVCマニブ・モビリティなどから1850万ドルを調達した。

米半導体エヌビディアはシミュレーションの最先端を走る大手企業の一つだ。5月にはクラウドを使ったシミュレーションシステム「Drive Constellation(ドライブコンステレーション)」をリリースした。このシステムには同社の画像処理半導体(GPU)が搭載されており、自動運転システムに処理させるセンサーデータを生成する。エヌビディアは数十億マイル分の特別シナリオで、自動運転のアルゴリズムの訓練を提供できる。

エヌビディアは9月、このシステムをコグナタや米Parallel Domain(パラレルドメイン)、独シーメンスなどの提携各社に公開した。

運転手データの収集に絡むもう一つの課題は、「画像アノテーション」だ。自動運転車が物体を認識・識別できるようにデータをラベル付けすることを指す。

学習データの生成を手掛ける米スタートアップ企業MightyAI(マイティAI)は、コンピュータービジョンモデルの開発企業と共同で、自社システムの訓練に使うデータのラベル付けに取り組んでいる。マイティAIはデータの管理やアノテーション、妥当性検証ツールも手掛ける。

マイティAIが収集されたデータを意味づけするために使っているテクニックの一つが、動画をピクセル単位に分割し、精緻な処理を可能にする「画像セグメンテーション」だ。

出典:ミディアム

百度も自社の自動運転車向けデータセットのために、画像セグメンテーションソフト「アポロスケープ」を開発している。

アポロスケープは車、歩行者、自転車、ビル、街灯など画像を最大26種類に意味づけし、自動運転車が路上の運転可能なエリアや、接近してくる障害物を認識できるようにする。

ローカライゼーション(自車の位置を特定)

自動運転車は判断を下したり、走行ルートを計画したりするために、自らの正確な位置も把握しなくてはならない。

これにはGPS(全地球測位システム)からの信号が使われることが多いが、1~2メートルものずれが生じることがある。自転車専用道路の幅が平均1.2メートルであることを考えると、誤差としては大きすぎる。

このため、各社は既成の地図などのテクノロジーを駆使し、誤差を1メートル未満に抑えている。

自動運転車は走行中、周囲の状況を車載メモリーに保存されているデジタルマップと比較している。

こうしたHD(高精細)マップは、個人用ナビゲーションソフトで使われているデジタルマップよりも精度が高い。車線の幅や横断歩道、道路標識などの道路情報が盛り込まれており、車の外部センサーから収集したデータでさらに機能を強化している。

出典:アルステクニカ

多くのスタートアップ企業がデジタルマップの製作に必要なハード(センサーなど)やソフトを手掛けている。

米DeepMap(ディープマップ)は地図作製ソフトを開発し、これを自動車メーカーや自動運転車の開発に取り組むテクノロジー企業にライセンス供与したいと考えている。同社は8月、独ボッシュから資金を調達した。これに先立ち、米VCのアンドリーセンホロウィッツやアクセル・パートナーズからも出資を受けている。

出典:ディープマップ

米Civil Maps(シビル・マップス)も完全自動運転車向けの3Dマップ作製技術を開発している。センサーで集めた生データを、AIを活用して地図情報に加工する。

データを販売するためにHDマップの開発を手掛けている企業もある。

マッピング分野の二大プレーヤーは、米HERE Maps(ヒアマップ)とオランダのTomTom(トムトム)だ。ヒアマップは15年12月、ドイツの自動車メーカーコンソーシアム(アウディ、BMW、ダイムラー)に買収された。トムトムは自社が保有する欧米の地図と百度が持つ中国の地図を統合するため、今年1月に百度と提携した。

米グーグルもこの分野で著しい進歩を遂げつつある。スウェーデンのボルボ・カーは10月、地図システムをトムトムからグーグルに切り替える方針を明らかにした。グーグルの自動運転部門である米ウェイモも実証実験で収集したデータを活用し、独自のHDマップの開発に取り組んでいる。

百度は自動運転車向けソフト「アポロ」で使うHDマップを開発している。これを自動車メーカーに販売し、サービス料を徴収するか、車両価格に地図の代金を含めることで収益化しようとしている。百度はHDマップ事業がいずれ、現時点では中国最大の検索事業をしのぐようになると期待を寄せている。

フルシステム

特定の部品ではなく、自動運転システム全体を手掛けている企業も多い。

こうした企業の大半は自動運転技術に特化し、自動車メーカーと提携して自社技術を展開しようとしている。一方、自社で車体も含めた全てを開発している企業もわずかながら存在する。

自動運転システム

フルシステムの開発を進めている企業の大半は、コンピュータービジョンとセンサーフュージョンソフト、自動運転に必須のハードウエアをセット販売している。こうしたシステムは自動運転車の「脳」にあたる。

この分野のスタートアップ企業は通常、自動車メーカーと提携して自社技術を展開する。既存の車に自動運転技術を後付けできるようにしている場合もある。

例えば、米Drive.ai(ドライブAI)は自社の自動運転システムを活用した改造キットを手掛けている。テキサス州フリスコで数カ月にわたり自動運転サービスを実証実験した後、10月にはこのサービスをテキサス州アーリントンにも拡大した。

ドライブAIは17年9月、米ライドシェア大手リフトと提携。自社システムをリフトのオープンソースソフトに搭載した自動運転車を開発した。

出典:ドライブAI

中国企業も自動運転システムを手掛けている。

北京に拠点を置くMomenta(初速度科技、モメンタ)は10月、シリーズCで電気自動車メーカーNIO(ニーオ)やネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)から資金を調達し、ユニコーン(企業価値が10億ドル超の未公開企業)となった。モメンタは蘇州市と提携し、試験車を大規模に展開したり、蘇州市内にスマート交通システムを構築したりする。

Pony.ai(小馬智行)もユニコーンの地位に達した。同社は完全自動運転システムを展開するために国内2位の自動車メーカー、広州汽車と提携。シリーズAで1億200万ドルを調達したわずか3カ月後の9月、広州で自動運転車の展開に乗り出した。

車体も自前で開発

ズークスやニューロなど、自動運転車を全て自前で開発している企業もある。

ズークスの試作車は従来の車とは大きく異なる。ハンドルやダッシュボードはなく、車内にはベンチシートが向き合うように置かれている。

出典:ズークス

ズークスの車はまだ公道走行の許可を受けていないため、今はトヨタの大型多目的スポーツ車(SUV)「ハイランダー」で技術をテストしている。

ズークスのユニークなアプローチは投資家から注目を集めている。共同創業者兼最高経営責任者(CEO)の電撃解任を受け、ここ数カ月はメディアにも頻繁に登場した。

ズークスは7月のシリーズBで企業価値が32億ドルと評価されて5億ドルを調達し、累積調達額が8億ドルになった。20年には配車サービスで自動運転車を展開する計画だ。

ニューロの自動運転車は人ではなく荷物を運ぶように設計されており、多くの小売企業にとって頭痛の種であるラストワンマイルの配送問題に対処している。

出典:ニューロ

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