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今日も走ろう(鏑木毅)

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幼少期の「師」との出会い 一生を左右する一大事

2018/11/15 6:30
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小学3年生の時に印象深い女性の先生に出会えた。

専業農家に生まれた私は、両親の忙しさのためよく言えば放任主義だが、ある意味まったくのほったらかしで育てられた。一例を挙げると、両親はひらがなは小学校で学ぶものと思い込んでおり、小学校入学時には自分の名前すら書くことができなかった。しかも生来ののんびりした性格のせいで、典型的ないじめられっ子として小学校低学年を過ごした。そのような状況で、全てに自信をなくしていたときに出会ったのがその先生である。

プロランナーになったのも小学校教師との出会いが遠因と思える(富士山でのトレーニング)

プロランナーになったのも小学校教師との出会いが遠因と思える(富士山でのトレーニング)

今でも覚えているのは、晴れた日に地面から5センチと10センチの深さの地中ではどちらの温度が高いのかという問題を議論していた理科の授業中のことだ。大半の生徒が太陽の光により近い5センチの方が暖かいと考えていた。1人だけ手を挙げられずにいた私は、先生が発言を促したので仕方なく「地球の奥にあるマグマがあるから深い方が暖かい」と自信なさげに答えた。

教室中がざわめいた。すかさず先生は「ユニークな答えね。この問題では違うけれどそういう考え方は大切にしてね」と優しかった。ポカポカした日には春の風情を感じましょうと、算数の時間に急きょ近くの野原に出かけてみたり、国語の時間は自身の学生時代のユニークな体験談を語ったりと異色の先生だった。両親から後に聞いたところによると、既定の学習課程から離れた授業をするために学校内ではちょっとした問題になっていたようだった。

ただ、その先生の影響で私はそれ以来、もっと幅広く自由に考え、行動していいのだと感じ、勉強だけでなくさまざまな面で積極的になった。先生は子どもを一つの型にはめ込もうとせずに、いつもいろいろな考え方を優しいまなざしで見守り、尊重してくれた。発する言葉と実際の行動にはいつも慈愛がこもっていたように記憶している。

残念ながらその先生はわずか1年で学校を去った。それでもこの出会いが、私の人生に大きな影響を及ぼしているのを痛感する。トレイルランニングという全く新しいスポーツの先駆者として40歳で安定した公務員の職を辞したこと、自分と異なる考えに耳を傾けることの大切さをごく自然に受け入れるようになったこと。すべては先生と過ごした小学校3年生のあの1年が大きい。

いつの時代にも次世代を担う子どもたちの教育には大きな関心が寄せられている。2年後の2020年には本格的な人工知能(AI)時代の到来に対応すべく大きな教育改革が実施されるそうだ。これまでもいわゆるゆとり教育に代表されるように、その時代状況に応じて教育は変革してきた。ただどのように制度が変わろうとも、子どもには普遍的な情熱と優しさ、そして全てを受けとめてくれる広い心を持った先生の存在が不可欠だ。子どもたちの一生を左右する一大事でもある。

(プロトレイルランナー)

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