世界最高齢アプリ開発者・若宮正子 80代の勉強法

「世界最高齢プログラマー」として知られる若宮正子さん(83)は、世界で注目を浴びる前から今に至るまで、自然体の学びを続けています。若宮さんはどんな人物なのか、どんな勉強を重ねてきたのか。実像に迫ってみました。
若宮正子さんってどんな人?
1935年生まれ。高校卒業後、「早く自立したい」と大手都市銀行に就職。昇任試験をクリアして企画部門へ。定年時の役職は子会社の副部長。60歳からパソコンを使い始め、ネットを介して多くの人と交流。パソコンやネットを活用したシニアの生きがいづくりや、子供向け教育を支援する複数の団体に参画。活動のなかで取り組んだパソコンの活用方法や開発したアプリが、米マイクロソフトや米アップルの目に留まり、82歳で大ブレーク!
好きなことを学ぶだけ。学びも暮らしも自然体
スマホ向けのひな人形位置当てゲームアプリ「hinadan」を80代で開発した若宮さん。2017年6月、米アップルが開催する世界開発者会議「WWDC 2017」で世界最高齢の女性開発者として特別招待され、世界を驚かせた。
きっとストイックな勉強家に違いないと話を聞いてみたら、学びに対する姿勢も、暮らしぶりもとても自然。「プログラミングは勉強というより、興味があることに挑戦しただけ」と気負いもてらいもない。今は電子工作に挑戦中だ。独身ひとり暮らしで旅も学びも自由に謳歌する。「大人の勉強は道楽。やりたいことをやればいい。ものにならなくても、プラスになりますよ」。
「肌がくすんでくる年寄りこそ、派手な服を着るべき。ここぞという舞台に立つときは、赤やピンクの服を着るようにしているの」。ただし、プチプラ中心。アップルに招かれたときに着ていったのも近所で買った800円のポロシャツ。

75歳からクラシックのピアノ教室に通い始めた。幼い頃からクラシック音楽が好き。「バイオリンを習わせてもらえるはずだったけど、戦争が始まって、それどころではなくなってしまったの」。楽器は異なるが思いを実現。

無理をして寝ないし、無理をして起きることもない。睡眠時間も起床や就寝、食事の時刻もその日次第。「カラダの声に素直に生きているの」。楽しく生きるのが一番。

47歳の香港旅行以来、訪れた国は50カ国以上。特に欧州が好き。パックツアーではなく個人旅行で、現地の人との交流を楽しむのがモットー。今年も北アイルランドへひとりで出かけてきた。

健康のためにウオーキングやジム通いはしたことがない。とはいえ、外出が多いので、1日に1万5000歩くらい歩くことはしょっちゅう。
その1 極めようとしない!
「本格的に」や「基本から」はNG! 楽しみ優先で。楽しみながら学んだことは、ものにならなくてもマイナスにはなりません。
その2 ためらわない!
「この年で始めても……」「仕事で使わないから……」と、制限をかけているのは自分自身では? 学びたいことがあるなら、ためらってはダメ。
その3 どんどん人に聞く!
本でさわりだけ勉強した後は、詳しい人にアクセスして聞く。人に聞くことで新しい人と縁ができ、社会とのつながりも広がるもの。
会社員時代に「英語ができたら便利かな」と思って英会話学校へ。通勤中の耳学習で準1級取得。メンテナンスは特にしていないが、80代になった今も、「英検の勉強の"残り香"で海外旅行も英語スピーチも困らない」とか。

本が大好き。小説、新書、古典、勉強ものなど、近所の書店で面白そうな本を探しては買っている。「特に旅行記が好き。見つけるとつい手に取ってしまうの」。飽きないように何冊かをバッグに入れて持ち歩き、並行して読む。
時間が惜しいので、テレビで見るのはニュースと天気予報くらい。ネットと雑誌『文藝春秋』と『ニューズウィーク日本版』が情報源。
食べたいもの、おいしいと思ったものを食べるだけ。バランスも気にしないし、健康食品も取っていない。自炊にも外食にもこだわりなし。毎食作るのが面倒なので、いろいろと作り置きはしている。
【 若宮さんのITスキル学びの歴史 】
<60~64歳>パソコンとネットの使い方を学ぶ
60歳のとき、ネット上で活動していたシニアのグループに参加したくてパソコンを購入。キーボードの使い方も分からなかったが、毎週末、パソコンショップに通って、店員に教えてもらいながら使い方を習得。お目当てのグループに参加してからは、ネット上の知人からホームページの作り方や、旅行記の公開方法などを学ぶ。
パソコン基本操作/インターネット接続/ホームページ制作/パソコン自作
知識ゼロでパソコンを購入
ショップに通い詰め、店員に教えてもらいながら3カ月間かけてネット接続に成功。ネット人脈が広がっていった。

自分のホームページを開設
ブログやフェイスブックがない当時、情報発信するにはホームページを作るしかない。ソフトを独習して、自力で作り上げた。

<65~74歳>ソフトを使って作品作りに熱中!
同世代の知人に頼まれてパソコン教室を自宅で開催。「Excelに興味を持てない」という参加者のため、セルの装飾機能で模様を作る「Excelアート」を考案。この頃、いろいろなアプリとネットサービスを使いこなし、作品をネットで公開する。シニア代表としてIT関連のシンポジウムで講演するためにPowerPointも習得。
Excel教材の考案/パソコンアニメ制作/YouTubeで動画公開/PowerPointの使い方
パソコンを人に教え始める
同世代向けのパソコン教室を自宅で開催。外部のシニア向け講習会でも講師を務めるようになる。

シニア向け教材としてExcelアートを考案
Excelのマス目で模様を作り、うちわや紙袋を作る。これがマイクロソフトの担当者の目に留まり、「TED×Tokyo」のスピーチにつながる。

<75~82歳>アプリのプログラミングを学ぶ
マイクロソフト主催の東北復興支援イベントに参加。このときに知り合った東北のIT企業社長の勧めで、シニアが楽しめるiPhoneアプリの開発を決意。Macintosh本体と教科書を買い込み、教科書の著者にメールで教えを請いつつ、背中を押したIT企業社長からもネット経由で指導を受けながら、半年でアプリを完成。
【学んだITスキル】
Ustreamを使った動画中継/Macintoshの操作/アプリのプログラミング/3D製図用ソフトの使い方
周囲のサポートでプログラミングを勉強
プログラミングの教科書を4~5冊買ってきて独習。著者にメールで連絡を取って指導も受けた。


皆のサポートで開発したiPhoneアプリ「hinadan」
ひな人形をひな壇に正しく並べるというゲーム。もともとは、シニアグループのひな祭りイベント向けに作った。このアプリが評価され、米アップルが開催する世界開発者会議「WWDC 2017」に出席することに。

<Now!>子供に教えるために学んでいます!
今、学んでいるのは、子供にプログラミングを教えるための電子工作。キーボードとテレビをつないで使う基盤型のコンピューターで、プログラムを組むと指示通りに画面に絵を描いたり、ランプを光らせたりできる。所属団体が国のプロジェクトの協力団体になっており、あちこちで開催される教室でプログラミングを教えている。
プログラミング教室で子供に教える
「カラフルな教材と、講師が高齢女性(若宮さん)のためか、女の子がとても多いの。この間は参加者全員女の子でした」

ランプの点滅などをプログラムで制御できる「IchigoJam」という、子供向けマイコンを使った教育活動で先生役をしている。

(取材・文 日経WOMAN編集部、写真 小野さやか)
[日経ウーマン 2018年10月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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