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スポーツビジネスの制度設計は「商品設計」

FIFAコンサルタント 杉原海太

国際サッカー連盟(FIFA)でコンサルタントの仕事をしていると話すと、「具体的にどういうことをしているんですか?」と聞かれることが多い。「主に制度設計です」と答えると「制度設計って何ですか?」。タマネギの皮をむくように問いはさらに奥へと進む。

実は私も3年くらい前からずっと自問自答を続けている。「ガバナンスの構築が主な仕事です」と答えていたが、その説明だと法令順守・コンプライアンスのような要素が強い仕事と日本では受け取られることに気づき、制度設計と説明するようになった。

そういう話をすると、制度設計というのはルール、レギュレーション、規約、理事会がどうとか、四角四面というか無味乾燥な組織論に聞こえてしまうかもしれない。が、現在の私の実感としては、スポーツビジネスにおける制度設計は、特に商業性の強いプロリーグに関していえば、商品設計も包含する広い概念である気がしている。リーグやクラブや選手の在り方をどうしたいのか。どうすることが、顧客であるファンやサポーターの求めとマッチし、ビジネスとして大きく広がり、持続できるのか。そういう感覚を抜きに制度設計を語ることはできなくなっているように思う。

魅力ある商品へ「攻め」のツール

何か成し遂げたい目的があって、それを実現させるために必要なものをどうそろえて積み上げていくか。スポーツビジネスの場合、ファンやサポーターに「買いたい」と思ってもらえるものに仕上げないと意味はないのだから、制度設計はルールで固めて「守り」に徹するだけではなく、魅力ある商品にするための「攻め」のツールにもなると私は考えている。

現在のプロスポーツの競争相手は国内の他競技だけではない。サッカーの場合でいえば、この20年くらいのうちにリーグ間の国際競争は激しくなり、世界市場でセールスできるビッグクラブを抱えたリーグが断然有利という環境になっている。放送権料収入の多寡が集められる選手の質を左右するリーグ間競争に、否も応もなくJリーグも巻き込まれるようになった。そういう激烈な競争に生き残るために、先を見すえた国際戦略と、それを可能にする制度(商品)設計の重要性はかつてないほど増しているように思う。

制度設計の面白さ、重要性について、プロ野球とJリーグを例にして簡単に述べてみたい。

ご存じのとおり、プロ野球とJリーグは運営のスタイルがかなり異なる。日本のファンは当たり前のように受け取っているが、実は、一つの国の中で、異なる制度設計のプロスポーツが立派に稼働している例というのはあまりない。

たとえば、米国の4大プロスポーツ(野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケー)と5番目のプロスポーツとして着実に根を張ってきたメジャーリーグサッカー(MLS)はどれもほぼ同じ構造をしている。各球団のフランチャイズにおける既得権益を認めつつ、リーグ全体の発展と成長を追求するつくりになっている。欧州サッカーのようにリーグに上部と下部があり、成績によって昇降格させるような仕組みにもしていない。米国のプロ球団はどんなに成績がひどくても「降格」という扱いを受けることはない。裏返せば、新規参入を簡単には許さない閉じたリーグともいえる。

このほか、(特に全国ネットの)テレビ放映権のリーグによる一括管理、ドラフトによる戦力均衡、球団によって年俸に差が広がりすぎないようにする制度(ぜいたく税やサラリーキャップ)など、米国のプロスポーツは米国独特のルールの下に運営されている。国単位で見れば独特ではあるが、米国の中ではどのスポーツもほぼ同じ制度設計の下にあるといえる。オーストラリアのプロスポーツも実は米国型である。

一方、欧州はサッカーに限らず、いろんな競技のリーグに昇降格制度を設けていることが多い。実力があれば最底辺のリーグから昇格を続け、頂点のリーグに参入することも可能だ。米国型が「閉じた」リーグなら、欧州の基本設計は「開放型」といえる。

日本のリーグにある種の"ねじれ"

興味深いのは日本である。プロ野球は閉鎖型の米国を、Jリーグは開放型の欧州をフォローしているが、単純にそうと割り切れないところがある。リーグの在り方と経営の仕方にある種の"ねじれ"があるのだ。

プロ野球の閉鎖型は米国をフォローしたものといっても、それは大会の形式上のことであり、ビジネス面を見ると、米大リーグのようにリーグ主導で全体最適を追求するモデルにはなりきれていない。日本のプロ野球は個々の球団が強く、特に巨人戦の放映権料という分け前(部分最適)に預かれるセ・リーグと、そうでないパ・リーグの格差はかつて悲惨なものだった。最近でこそ、パ・リーグを中心に全体最適を考える議論や行動が生まれているが、米大リーグと比べたら、追求の仕方は限定的なレベルにとどまっていると言わざるをえない。

競技面の全体最適も難しい。野球界の人と会って話すと、そのたびに「野球少年が減っている」という嘆きを聞かされる。それで、その原因などを詳しく調べて実態の把握に努めているのかと問うと、野球界としての全体最適な体制が整っていない中ではなかなか難しいようである。一部の特定の球団の放映権料で潤える時代ではもはやないのだから、プロもアマチュアもセ・リーグもパ・リーグも関係なく、野球界を挙げて全体の最適を追求しなければならないように"外野"からは見えるのだが……。

Jリーグはどうか。

昇降格のある全国リーグの在り方などは欧州のフォロワーといっていい。が、ビジネスの仕切りは、放映権の一括管理など全体最適を追う米国型に寄っている。

この折衷的なスタイルは、川淵三郎Jリーグ初代チェアマンたちがプロリーグを立ち上げる際にドイツ・ブンデスリーガなどの規約を参考にしつつ、ビジネスとしては米国のNFL(アメリカンフットボール)などのマーケティングに強く影響されたためとされる。チェアマンに強い権限を持たせる制度設計は、巨人の意向に大きく左右される当時のプロ野球の在り方を反面教師にした部分があると聞いている。

この欧州と米国のいいところを採ったやり方は25年かけて、Jリーグを大きく発展させた。そこに議論の余地はないが、悩ましいのは、米国流の全体最適の追求は閉じた世界の中でビジネスに徹してありとあらゆる手立てを講じていくのに対し、Jリーグの方は公的・協会的発想というか、日本サッカー全体の発展を念頭に、ややもすると護送船団的な発想になりがちなところである。

私個人は、Jリーグも発足から25年がたち、ゲームチェンジのタイミングが来ている気がしている。1993年に10クラブで始まったときに追求できた全体最適と、54までJクラブが増えた今とでは「全体」の意味はおのずと違ってくる。ここまで数が増えれば、中央集権的な運営から、委譲できる権限はクラブに移し、クラブ固有の活力を生かすような方向にシフトする、部分最適の発想を採り入れることも検討していいのではないだろうか。

当事者が垣根越え是々非々で議論を

開放・欧州型、閉鎖・米国型のどちらにもメリットとデメリットがある。だから、どちらかが正しく、どちらかが悪いという話ではない。現状から日本が受け取るべき大きなメッセージは、開放、閉鎖、欧州、米国型がブレンドされながら大きく発展してきた日本のプロスポーツを実証的に研究しながら、もっとオープンに制度設計の議論をしていこうということだろう。

どうも、日本は「オカミ」意識が強く、大切なことは上が考えるから、周りはそれに黙って従えばいいという発想がいまだに抜け切れていないように感じる。スポーツの世界はそれではいけない。プロ野球にしてもJリーグにしても追求できる全体最適と部分最適がまだまだたくさんある。

米国や欧州の最新事例が「どうだ」「こうだ」と話をせずとも、自分たちの足元に極めて興味深いプロスポーツが2つある。球団、クラブ、選手スタッフ、出資企業、スポンサー企業、ファン、サポーター、行政といったステークホルダーとされる当事者たちが垣根を越えて、もっともっと本気になり、是々非々で議論を白熱させていけば、大きな発展につながる道が開けるのではないだろうか。

 すぎはら・かいた 1996年東大院修了。コンサルティング会社を経て国際サッカー連盟(FIFA)運営の大学院を2005年に修了。06年からアジア・サッカー連盟(AFC)に勤めた後、14年から現職。FIFAの戦略立案に携わる。

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