ラジオで得たもの 僕のホームグラウンド(井上芳雄)
第33回
井上芳雄です。前回は僕のラジオ番組『井上芳雄 by MYSELF』(TBSラジオ)から生まれたスペシャルライブの話をしました。その番組が始まったのが昨年の4月。1年半続けてきて思うのは、自分のホームグラウンドを得たような感覚です。

僕が元祖というわけではないのですが、ミュージカル俳優で自分のラジオ番組を持つ人が増えています。一緒にStarSというユニットを結成している山崎育三郎くんと浦井健治くんもそう。やはり自分の番組を持つのは特別なことだと思うので、それだけミュージカルが世の中で注目されるようになったのかなと感じています。
相性ということで言えば、ミュージカル俳優はラジオ向きなのかもしれません。僕の番組でやっているようにスタジオで生で歌うこともできるし、おしゃべりが大好きだったり、サービス精神に富んだ人もたくさんいますから。
僕はもともと仲間にも、俳優にもトーク力が必要だとずっと言ってきました。トークは才能というよりも、慣れや経験で培われると思うので、そういう場があって、しかも楽しくやれるのなら、すごくいいことだと思います。実際、自分がラジオ番組を始めてからがそうでした。
振り返ってみると、1年半続けてきてよかったと思うのは、まずホームグラウンドのような場所ができたこと。自分の名前を冠した番組ですし、番組を基に先日のようなライブをやったり、ほかの番組に出たりと、名刺代わりみたいな場所を持った感じです。
定期的にリスナーやファンの方と交流できる場ができたのも大きいですね。番組を通じて僕の近況を伝えられるし、メールやファクスでリスナーの人の気持ちやメッセージを知ることができる。そういうやりとりのなかから『幸せのピース』という番組発のオリジナル曲も生まれました。
僕はSNS(交流サイト)でがんがん発信するというタイプでもないので、番組は感じたことや考えたことを言える貴重な場になっています。この1年半の間には、世の中では災害もあったし、僕自身にも飼っていた鳥が死んだりとか、いろいろありました。自分の生活や人生と一緒に歩んでいる感覚なので、自分のこともできるだけ包み隠さずに正直に伝えてきました。プライベートを何でも話せばいいとは決して思っていませんが、僕はあまりうそをつけないし、ありのままの自分を知ってもらえる場になれば、という思いです。
■「みんなと一緒に考える」のも役割
番組を始めてから、世界が広がったのもよかったこと。なにより、ほかのラジオ番組をよく聴くようになりました。ほかの人はどうやっているのか興味があるし、共演する人で自分の番組を持っている人も多いので。
ゲストに来てくれた人の輪が広がるのも楽しいですね。最近だと、山内惠介君が出てくれたときは、同郷で同世代ということもあり、その後、飲みにも行きました。仕事だと大勢の中での出会いが多いものですが、自分の番組にゲストで来てもらい、1対1でしゃべってとなると、仲も深まりやすいのかなと感じています。先日は同じTBSラジオでやっている爆笑問題さんの番組の公開生放送に出させてもらったのですが、それも初めての経験。そうやって番組を起点に、いろんなつながりが広がっていきます。
そう考えると、今のところ、いいことしか思い浮かびません。大物の芸人さんでラジオを長く続けられている方も多いと思うのですが、それもわかる気がします。番組を続けることで、得られるものが大きいのでしょう。
僕たち俳優はミュージカルのこととか、自分のやっていることを語ることが多いのですが、もっと世の中とかかわってもいいのかな、とも最近は思っています。夕方のラジオを聴いていると、ひとつの社会問題、例えば公立の学校にクーラーを設置するのは是か非かみたいなことをずっと語りあっている番組があったりします。「みんなと一緒に考える」のもラジオの役割なんですね。
そう思うと、僕にももっとやれることがあるのかな、と。もちろん全部を今の番組でやる必要はないでしょうが、ラジオにはまだまだいろんな可能性がある。あらためて、面白いメディアだなと、すごく実感しています。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第34回は12月1日(土)の予定です。
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