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「サブツー」に挑む 人類はどこまで速くなるのか
編集委員 北川和徳

2018/11/14 6:30
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9月16日のベルリン・マラソンで2時間1分39秒の衝撃的な世界記録をマークしたエリウド・キプチョゲ(34、ケニア)がこのほど来日した。彼にシューズを提供するスポーツ用品大手ナイキが東京で開催するイベントに参加するためで、学生を中心に日本の若手ランナーたちを指導、トークショーでは世界で戦うための考え方やトレーニングのノウハウを披露するという。驚異的な速さと強さの秘密の一端がわかるのではないかと期待して10日、イベントが開催された駒沢大学玉川キャンパス(東京・世田谷)に足を運んだ。

9月のベルリン・マラソンで2時間1分台の世界新を出したキプチョゲ=ロイター

9月のベルリン・マラソンで2時間1分台の世界新を出したキプチョゲ=ロイター

残念ながら、驚くような発見は何もなかった。平均で1週間200キロくらいという走行距離は日本のトップ選手と比べると平均か少ない方ではないか。マラソンのレース出場は年2回と決めている。綿密なスケジュールを立て、長い距離(40キロ)を走る時期、短い距離のスピード練習の時期、回復期を組み合わせてピークをそこに持っていく。「勝つことではなく、勝つための準備をすることが大事なんだ」とキプチョゲ。ここまで迷いなくレースの準備を進める日本選手は少ないだろうが、練習の内容自体は目新しいものではなかった。

イベントの後半ではグラウンドでキプチョゲが学生ランナーたちと一緒にウオーミングアップをした。彼のすぐ後ろを走ったランナーが「ジョギングなのに腕の振りの引き込みがすごく大きい」と驚いていた。身長170センチと小柄だが歩幅もかなり広い。意識して大きく走っているわけではない。キプチョゲは「走るときは手足を自由に動かすようにしている」。結局、速くて強いのは能力が段違い、エンジンが違うということだろう。

10日、学生らとウオーミングアップするキプチョゲ(前列右から2人目)。「勝つことではなく、勝つための準備をすることが大事」と強調する

10日、学生らとウオーミングアップするキプチョゲ(前列右から2人目)。「勝つことではなく、勝つための準備をすることが大事」と強調する

マラソンに転向後、11戦10勝。2016年リオデジャネイロ五輪も優勝したキプチョゲには東京で五輪連覇が期待される。だが、それ以上に注目されるのが2時間の壁突破、人類初の「サブツー」への挑戦である。

17年5月、ナイキが2時間突破のために企画したレース「ブレーキング2」で42.195キロを2時間0分25秒で走った。平たんなイタリアのサーキットが舞台、風よけとなるペースメーカーが交代で終始先導するなど特別な条件下で行われ、もちろん記録は公認されていない。

2時間突破には、机上の計算では各5キロで14分13秒の平均ラップが必要となる。このときは最初の5キロが14分14秒、中間地点は1時間を切る想定通りの59分57秒で通過したが、後半はペースが維持できなかった。

一方、2カ月前に世界記録を一気に1分18秒短縮したレースは、ペースメーカーが外れて独走となった後半にペースが上がった。40キロからゴールまでの2.195キロはなんと6分7秒。5キロに換算すると13分台の超ハイペースとなり、余力を残してスパートしたとわかる。

ベルリンのレース直後、キプチョゲは「(2時間突破は)壮大な科学の力が必要なほど難しいものではない」と語っている。そして、「自分に限界があるとは思わない。体の声に耳を傾け、大丈夫と思えるときにバリアーを乗り越える挑戦を体に仕掛ける」

脳は限界を超えて体が壊れると判断すると、勝手にストップをかけるといわれている。彼はそのリミッターのスイッチを自らの意思でオフにする能力を持っているのかもしれない。サブツーはすでに夢の記録ではなくなっている。

(20年東京五輪開幕まであと618日)

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