2018年12月14日(金)

イノベーション人材育成 挑む関西3大学

関西
科学&新技術
2018/11/12 16:59
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京都大、オープンイノベーションのための体制整備 大型案件特化の新組織

京都大学は2018年6月、産学連携を促進する新会社、京大オリジナル(京都市)を発足した。京大の研究者と企業を結びつけ、研究開発や商品開発を促す。山極寿一総長は「大学の知を社会に発信する」と意気込む。

京大は17年6月、文部科学省から、東京大学、東北大学とともに世界最高水準の研究や教育を目指す「指定国立大学法人」に指定された。新法人だけに認められる特例を生かし、他大学に先駆けて設立されたのが京大オリジナルだ。

同社は18年9月に池田泉州銀行、10月には京都市内で産業振興拠点を運営する京都リサーチパーク(KRP、京都市)と相次ぎ提携を発表した。両社が持つ企業ネットワークを活用し、学内に約3000人いる研究者のシーズを企業のニーズと結びつけ、産学連携の促進やオープンイノベーションの活性化を目指す。

京大は産学連携を促す子会社として、知的財産の戦略的管理を目指す技術移転機関の関西TLO(京都市)、京大発の技術系スタートアップ企業を支援するベンチャーキャピタル(VC)の京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP、京都市)も持つ。

京都iCAPは国立大学VCとしては初めて、海外の同業と提携した。中国・広州市を拠点とする広州民営投資で、京大発スタートアップに中国などの販売先を紹介したり、現地進出を手助けしたりする。

さらに来年度には産学連携体制に新組織が加わる。学内で企業との大型の共同研究を支援する「オープンイノベーション機構」だ。日本では数百万円など「お付き合い」のような小規模な共同研究が多い。これに対し、新組織では数千万~1億円といった大型案件に対応するため、部局を超えて研究者チームを組織。専門知識を持つ人材がプロジェクトの進捗を管理する。

国の支援を受け、東大や早稲田大学など全国8大学で同様の組織が立ち上がるが、関西では京大のみ。さらに京大では有望な案件について研究者が60歳の定年を迎えても研究を続けられるようにするなど、学内を「特区」と位置付けて成果につなげることを目指す。

大阪大、生命医科学分野で社会還元する人材育成 産官と磨く課題解決力

大阪大学は博士人材の育成の一環として、「生命医科学の社会実装を推進する卓越人材の涵養(かんよう)」が国の卓越大学院プログラムに選ばれた。日本の大学が新たに取得した特許は米国の約40%に達する一方、そのライセンス収入は米国の数%にすぎない状況が続く。大学の優れた研究成果が社会実装しきれていない現状を変革するための人材育成を急いでいる。

西尾章治郎総長は「社会で生かすためには卓抜な研究成果が必要だが、同時に研究成果を目利きできる人材が欠かせない」と説く。独創性や優位性を判断する能力は、主体的に研究成果をあげた経験がないと身につけるのが難しいという。

阪大のプログラムは医・歯・薬・生命科学分野で、研究実践力と成果を素早く効果的に社会還元するための社会実装力を兼ね備えた知のプロフェッショナルを育成する。実習やインターンシップなどを重視しており、厚生労働省系の機関や製薬会社など外部機関にも協力を要請。経済、法律、情報工学などのセミナー受講を通じた文理融合教育も進めている。社会と知の統合で、複雑で困難な課題解決につなげるのが目標だ。

大学が社会と一体になって新たな知を創造するため、阪大が強く打ち出しているのが「共創」だ。阪大は10月23日、世界最高水準の研究や教育を目指す「指定国立大学法人」の指定を文部科学相から受けた。

指定国立法人になると子会社を使った事業展開や、優れた研究者をこれまでより高い額を払って確保することなどが可能になる。共創の実践を通じ、「社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学を目指す」(西尾総長)方針だ。

阪大は2018年1月に設立した共創機構を司令塔に、免疫学や生命医科学など4領域で世界的な研究拠点の形成を進める。大学と企業の組織同士の連携も増やす。ビッグデータ解析などにも力を入れる。子会社設立も検討中だ。

海外とのネットワークも強化する。欧米や中国などの大学との連携で国際共創を生み出すほか、東南アジアの大学と共同研究組織などを設け、現地ニーズに即した教育研究も実施する。

神戸大、文理を融合し先端研究を起業につなげる バイオや医療まず3社

神戸大学は文系・理系の融合によりイノベーション人材を育てる取り組みを加速している。

2016年春に新設した大学院科学技術イノベーション研究科には18年4月、博士課程も設けた。同研究科は先端の医療やIT(情報技術)の研究開発といった理系分野と、起業の戦略構築など社会科学系の教育研究の融合を狙う。博士課程には10人の定員を超える応募があり、実際にスタートアップ企業を起こすアイデアを院生が教員に示すなどしているという。

同研究科の成果を生かした起業を支援するため、科学技術アントレプレナーシップという会社もあり、既にスタートアップ企業が3社立ち上がった。遺伝子を効率よく改変する「ゲノム編集」を安全性高くできる技術の事業化をめざすバイオパレット(神戸市)など、バイオ・医療分野での先進的な取り組みが目立つ。

バイオパレットは17年、米系ベンチャーキャピタルから約4億円を調達した。同研究科設立の背景にはイノベーション人材の育成とともに、スタートアップが収益をあげて「大学側へ資金の還流が起きれば」(武田広学長)との期待もある。

ビッグデータ関連では、教育研究や産学連携を全学的に進めるため、昨年末に数理・データサイエンスセンターを設置。今春には数理・データサイエンスのカリキュラムコースを設けた。このコースも文系・理系の枠を超えた幅広い分野の学生への教育を進める。

神戸市が整備する医療産業都市には、神戸大も国際がん医療・研究センターや先端的な研究拠点を置く。周辺の研究機関との連携などで「ここをイノベーションアイランドとしたい」との考えを武田学長は持つ。

科学技術イノベーション研究科の取り組みから起業した3社は、いずれも教員らの成果を生かしており、同研究科の学生による起業は今後の課題だ。学生の大企業志向は依然強く、起業育成に力を入れる神戸市との連携など、起業への関心を高める工夫が必要だ。今後、博士課程の学生のほか、大企業に一旦就職した卒業生が起業する例が増えれば、イノベーション人材の育成に弾みが付きそうだ。

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