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博士輝く道、産学で 京都・大阪・神戸3大学シンポ

関西経済人・エコノミスト会議

討論する(左から)吉本氏、山極氏、西尾氏、武田氏(10月19日、大阪市北区)

日本経済新聞社と日本経済研究センターは10月19日、「関西経済人・エコノミスト会議」を開いた。京都大学の山極寿一総長、大阪大学の西尾章治郎総長、神戸大学の武田広学長、産業界から日本電産の吉本浩之社長が出席。「企業が求めるイノベーション人材と大学連携」をテーマに、博士人材の育成や活用などについて議論した。司会は日本経済新聞社大阪本社編集局長・品田卓。(文中敬称略)

司会 大学ができる人材育成や産業界への要望を聞きたい。

京都大学総長 山極寿一氏(やまぎわ・じゅいち)1952年生まれ。80年京都大学大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定退学。理学博士。京大教授などを経て、2014年から現職。

山極 京都、大阪、神戸の3大学とも文理を超えた広い教養を教えている。ただそれを実際に生かす経験が足りない。人と人が切磋琢磨(せっさたくま)する場に学生を送り込む必要がある。学生は修士や博士課程で取り組んだ自分の研究領域にこだわっていてはだめだ。専門教育で鍛えたものは文理を超えて生かせる。企業も博士を採用すれば、使える人材だと分かってもらえると思う。高度専門人材を協力して育てることが重要だ。

西尾 先進国の中で、日本だけが博士後期課程に進む大学院生が減少しており、特異な現象が起きている。日本は高学歴社会のグループから外れつつあるということだ。大学は知と知の融合、社会と知の融合を図る人材を博士人材として今後も輩出していく。企業は是非そういう人材を生かすことを考えてもらいたい。

武田 企業の採用活動で博士教育をどう評価しているかが問題だ。必要なのは専門領域にとどまらず社会に出ても適応できる能力であり、即戦力か課題解決かの二者択一ではない。

司会 日本電産はどの程度、博士を採用しているのか。

吉本 日本の博士採用は少なく、1桁の割合だ。日本の研究所の博士の割合は15%。一方、台湾の研究所は40%を超えている。ただ日本にはモーター学科がない。もしあればごっそり採用するだろう。博士の採用枠はなく、今後は改めないといけない。海外はどんどん博士を採用しており、日本でも博士採用を増やすつもりだ。

西尾氏 給与体系、海外に劣る

大阪大学総長 西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう)1951年生まれ。80年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。大阪大学教授などを経て、2015年から現職。

司会 博士号の価値にプレミアムをつけられるか。

吉本 一人一人の内容をみてからだ。中途採用と同じように扱うとしたら、本人が何をしたか、どういうポテンシャルを持っているかが重要になる。単に博士号を持っているだけでは決められない。

司会 年俸制の導入は検討に値するのではないか。

吉本 一足飛びにはいかないが、構想の段階だ。中途採用は人を見極めて給与を決める。日本電産は、新卒でも初めは同じだが実力に応じて早く昇給させる実力主義にかじを切った。一方で、終身雇用や年功序列でやってきた企業にとっては、急にかじをきるのは簡単ではないだろう。

西尾 日本企業の給与体系はグローバルの観点で通用しない。情報技術分野では米国なら博士号を取得すれば給与が2.7倍、中国やインドは6~7倍になる。博士号を取得し実績を積んだ人は年収4000万円といわれる世界だ。一方、日本の博士号取得者の給与は1・数倍。博士号を持ち卓越した人材にとり日本企業は魅力がなく、給与だけで選べば海外に行ってしまう。

山極 経団連に加盟する企業の多くが終身雇用や年功序列だ。国立大学協会は年俸制を真剣に討論している。企業と大学の人事交流を盛んにするためだ。日本で大学だけ年俸制にしても、企業がついてこないと意味がない。日本の大学には社会人を受け入れ2~3年で企業に戻るリカレント教育が期待されている。給与や雇用の問題を解決すれば、企業もおのずと博士人材の価値を認識できると思う。

山極氏 挑戦の機会をもっと

司会 博士号の価値が十分に分かっていない企業に、どう訴えかけるべきか。

山極 文学や数学の博士号取得者は企業から敬遠されがちだが、変な思い込みがあると思う。博士課程で深く追究して考えた経験を持つ人は、専門分野に限らず課題を与えられたら様々な引き出しを開けて解決するはずだ。博士論文というハードルを越えてきたのだから、常識を破る能力を必ず持っている。企業はどんどん課題を与えていい。博士人材の価値はその人としばらく付き合うと分かる。企業は博士人材に挑戦させてほしい。

司会 企業と大学の間には就職活動の問題もある。

吉本 私の感覚では通年採用は問題ない。ただし、これまでの慣例があり、変えようとすると批判される。

神戸大学学長 武田広氏(たけだ・ひろし)1949年生まれ。78年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。神戸大学教授などを経て、2015年から現職。

武田 日本社会では学生に自主性や自律性を求めるが、大学では3年生のある時期に一斉に就職活動を始める。大学は4年間みっちり教育してから社会に送り出したい。(就職活動の日程に関する指針の廃止を決めた)経団連の動きもあり、今後は就活時期が野放しになってしまう。学業が終わってから就職活動をするのが理想だ。ただし留学生の場合は、大学を卒業してから就職する間の身分をどう位置づけるか、ビザの問題が残る。

吉本氏 有給インターン検討

司会 インターンシップは日本ではどうして期間が短いのか。

吉本 企業側も受け入れる人をチェックする必要があり、通常業務にプラスアルファしなくてはいけない。2~3週間が限度だ。一方で学生の方も束縛が嫌、単位も認められないなどの問題があり、2~3週間ぐらいがちょうどいい期間だ。日本電産は基本的に採用目的のインターンシップをやっているが、今後は拡大を考えている。

司会 無給でやっているのか。

吉本 今は無給だ。今後は半年~1年ぐらい続けることがあると思う。専門性とポテンシャルがあるということを入り口で最初に見たうえで、契約社員という形などで契約をして給料を支払う。その分、仕事で成果を出してもらわないといけないが、検討に値する。

司会 企業に受け入れてもらえる具体的な提案はあるか。

山極 やはり新卒一括採用ではなく、能力本位でいろいろな企業を渡り歩くというマインドをつけさせないといけない。文化を創っていかないといけない。産学で連携して進めていくべきだ。

司会 博士が契約社員になるという発想をどう考えるか。

西尾 博士は自ら課題を設定し、それに挑戦して成果を出す人材という証しだ。社会の産業構造が劇的に変わっている。学生も意識を改革して、備えたものを生かしていくべきだ。企業も何らかの対価をインターンシップで払わないといけない。海外の企業は対価を払う。有能な人は海外企業でインターンシップをしており、懸念している。

司会 地域の人材育成についてはどう考えるか。企業の努力だけでは不十分か。

山極 もっと行政がからむべきだ。地元がまず中心になって、国公私立の大学や産業界と地域連携の基盤をつくる。その中で人材を育成する。行政が絡み、地域の産業界が積極的に支援し、それに対して税を控除する。大学も積極的に人を送り込んで人を育てるという構図をつくらないといけない。

武田氏 共同研究、経費支援を

司会 連携を具体化する段階で、何かアイデアはないか。

山極 一例として課題となっている(国連が定めた)「持続可能な開発目標(SDGs)」について提案したい。企業のSDGsの計画には学術的な視点が入っていない。世界に進出しようとしている企業がSDGsをどのようにブランドマークにして世界に示したらいいかを大学に投げてもらいたい。

吉本 非常にいいアイデアだと思う。日本電産はけいはんな学研都市に生産技術研究所を構えており、川崎市にも研究所がある。地域の大学や行政と協力し、関西と関東でお互いいい意味での競争心を刺激しながら研究開発を進めている。また中小企業が持っている技術でも、企業間でシナジーを起こせれば非常にいい。

西尾 関西は古代から日本のウオーターフロントだ。新しいものを生み出す力を持っている。産業界は知識の幅が不足している。今こそ大学と産業界がより密に連携することが関西の成功の鍵だ。シンガポール、シリコンバレーは地域と大学が密接に関わっている。企業は大学側に対して未来を見据えた包括的な交渉をしてくれないかと思っている。

武田 大学の懐が厳しくなっていく中で、間接経費をもう一度見直してもらえないか。国からの経費は約30%の間接経費が含まれている。企業が米国の大学と共同研究をする場合、約50~100%、間接経費を負担している。日本の大学と組む場合、10%でも渋い顔をされる。光熱費や人件費も入れ、減価償却を入れると50%になるところもある。せめて国並みの30%に上げてもらいたい。

司会 大学は企業にもっと支援してほしいと言っているが。

吉本 お金の話はまた別途させていただきたい。日本電産は一律に近い仕組みだが、これが悪いところで、成果に対して正当な対価を支払うのが本来の姿だ。そこは考えていかないといけない。

司会 関西はどこが中心になって動けばいいのか。

山極 けいはんな学研都市は、東京の一極集中とはまったく違う。筑波研究学園都市は全部、東京に吸い上げられている。けいはんなにはいろいろな企業が入り、つくり上げてきた歴史がある。東京を見習ってはいけない。東京にはない関西の良さを生かすことが必要だ。

西尾 関西から考え方やシステムを発信していくことが大事だ。京都、大阪、神戸の3大学はそれぞれ建学の精神に立ち返り、個性を発揮すれば関西の強さになる。その上で連携して発展していくことが重要だ。

吉本 日本の中の関西ではなく世界の中の関西との位置付けで、産学一緒になって盛り上げていきたい。世界と肩を並べて戦う関西にしていきたい。大学には世界中の学生を惹きつけてもらいたい。企業との連携や、優秀な学生に企業に来てもらうことで競争力を高められるようにしていきたい。

問題提起・グローバル企業の人材、多様性認め合意形成 日本電産社長 吉本浩之氏

日本電産社長 吉本浩之氏(よしもと・ひろゆき)1967年生まれ。91年大阪大学人間科学部卒、日商岩井(現双日)入社。2002年米カーネギーメロン大学経営学修士(MBA)。カルソニックカンセイ、日産自動車を経て、18年6月から現職。

日本電産グループは日本、米国、欧州、アジアに研究開発拠点を置くグローバル企業だ。世界で計6000人の開発人員がいる。国内は、川崎市に中央モーター基礎技術研究所、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の京都府精華町に生産技術研究所がある。

産学連携も積極的だ。今年度は22の大学・機関と25テーマで一緒に研究開発をしている。当社だけでは解決できない技術課題に取り組める利点がある。一方、大学は産業界の抱える課題について実践的な環境で研究開発の経験を積める。

優れた技術・イノベーションをビジネスにしていくのが企業の責務。その我々が求める人材は、理系だからといって自分の専門だけを研究をしていればいいということにはならない。技術をいかに形にし、ビジネスにしていくかという経営の基本スキルも必要だ。

世界のビジネス環境では、パートナーとしてふさわしいかを常に周りから値踏みされる。会議の前後や会食の際の雑談などで、一般教養を含めた人間的な幅広さによって相手の信頼を得ることができるか。実際のビジネスでは意外とこういうことが決め手になる。

大学教育には、偏差値教育の延長線上で知識や理論の暗記にたけた人材でなく、身につけた技術・専門性によって世界で勝てる人材の基礎づくりをお願いしたい。自ら論理的に物事を考え、それが相手に受け入れられるようコミュニケーションする力が必要だ。プレゼンテーションや討論の能力は訓練しないと身につかない。英語で討論するぐらいの語学力も要る。

世界のビジネス環境はダイバーシティ(多様性)そのものだ。文化的背景、価値観の異なる人たちと議論し、合意を得る必要がある。多様な学生集団で課題に取り組むなど、ダイバーシティを意識した教育が重要ではないか。技術で勝ってビジネスでも勝つために産学がタッグを組んでできることはたくさんある。

ポストドクター 国は1996~2000年度に博士号を取得した研究者(ポストドクター)を1万人創出する計画を打ち出し、05年度には1万5000人を突破した。しかし大学の若手研究者のポスト減少に加え、企業も博士の採用に消極的で、就職できないポスドクが増加。06年度から博士人材を大学や公的研究機関だけでなく、企業などにも就職するよう、支援策を打ち出した。

インターンシップ 学生が企業・自治体などで就業体験を行う取り組みがインターンシップだ。もともと実施企業は外資系が中心だったが、国が1997年に推進に乗り出し、やがて全国に広がった。国内では短期・無給で実施するケースが多い。人材不足が深刻になる中、学生に仕事体験の場を提供するという目的から、就職活動の入り口へと性格が変化している。

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