2019年5月26日(日)

広がる感染症、難しい水際対策 (グローバルViews)
国際アジア部 押野真也

グローバルViews
コラム(国際・アジア)
2018/11/14 5:50
保存
共有
印刷
その他

感染症が世界で拡大している。ヒトやモノの往来が活発になったことで感染症の原因となるウイルスや細菌も国境を越えて移動し、各地で感染症の流行を引き起こしている。各国の空港や港湾では検疫を強化するなどして対応しているものの、完全に食い止めるのは難しいのが実情だ。感染症の中にはワクチンの接種で防ぐことができるものも多い。日本では2020年の東京五輪に向けてさらにヒトの往来は増えそうで、各人が自衛策を講じる必要がありそうだ。

「相当に強い危機感を持っている」。国立感染症研究所感染症疫学センター第三室の多屋馨子室長は国内で発生する風疹の患者数推移を見ながら、険しい表情で語る。国内の風疹患者の数は18年夏ごろから急増。感染研は13日、11月4日までの1週間で新たに154人の風疹患者が報告され、今年の累計患者数が1884人になったと発表した。

国内では、1万4千人以上が感染した13年が直近のピークで流行は収まっていたが、再流行した形だ。感染源は特定されていないものの、「海外から持ち込まれた風疹ウイルスが国内で広がった」(多屋室長)とみられている。日本に入国した外国人か、海外に出かけた日本人が感染して国内で広がったようだ。

妊婦が風疹にかかると赤ちゃんに難聴や心臓病などの障害が起きる先天性風疹症候群(CRS)を引き起こすリスクがあり、12~13年の流行時には45例が報告された。米国疾病対策センター(CDC)は米国民に対し、予防対策をしていない妊婦は日本への渡航を避けるべきだと警告している。

風疹は2度のワクチン接種で感染を防ぐことができる。今回の感染の中心は30~50代の男性が中心。この世代は過去にワクチン接種をしていない可能性が高いが、「なかなか自主的に抗体検査などを受けてくれない」(多屋室長)。24日に都内で開く風疹の市民講座に自ら出席してワクチン接種を呼びかける方針だ。

サーモグラフィーの画面を調べる係官(10月31日、羽田空港)

サーモグラフィーの画面を調べる係官(10月31日、羽田空港)

風疹に限らず、感染症は海外から持ち込まれるケースが多い。羽田空港の国際線到着ロビーでは、入国審査前の検疫ブースに、サーモグラフィーを設置。入国者がカメラの前を通ると、係官の手元にあるパソコン画面に人影が映る。画像の人影はほとんどが平熱を示す灰色で表示される。高熱の場合は人影が赤くなり、発熱を感知する。

多くの感染症は発熱を伴う。羽田空港では、発熱症状の入国者が1日に数人見つかるという。空港ではサーモグラフィーのほか、入国者の中で体調が悪そうな人に対しては声がけをしているという。東京検疫所東京空港検疫所支所の高倉俊二支所長は「空港は感染症の拡大を防ぐ最初の関門だ。20年の東京五輪に向けて体制を充実させたい」と話す。

ただ、空港や港湾の検疫では、潜伏期間などで症状がない場合には感染者を見つけることは難しい。日本政府は感染症の中で、結核について入国前の検査を義務付ける方針を打ち出した。結核患者が多いフィリピンや中国、ベトナムなどアジアの6カ国について、90日以上のビザを取得する際に結核の検査結果の提出を義務付ける内容だ。

結核は世界では10大死因の1つ。年間に約170万人が死亡しているとされ、日本では現在でも年間1万7千人以上の結核患者が発生している。世界的に対策を求める声が強まっており、9月の国連総会では初めて結核に関するハイレベル会合が開かれた。会合では、結核対策として130億ドル(約1兆4700億円)を投じる政治宣言が採択された。

ただ、日本政府が新たに導入する入国前審査の実施は簡単ではない。対象国の6カ国は医療機関の水準にばらつきがあり、日本側が指定した医療機関での検査が必要になる。事実上の入国制限にもつながるため、対象国との調整も必要となり、実施時期はまだ決まっていない。

コンゴではエボラ出血熱が繰り返し流行している(同国東部で住民の体温を測る世界保健機関の職員)=ロイター

コンゴではエボラ出血熱が繰り返し流行している(同国東部で住民の体温を測る世界保健機関の職員)=ロイター

感染症は一度流行すると経済的な損失にもつながる。14~16年にエボラ出血熱が流行したアフリカのリベリアとシエラレオネ、ギニアの3カ国では、各国の主要航空会社が運航を停止。周辺国は感染拡大を恐れて陸路も封鎖したことで物流が滞った。この間の経済損失は3カ国合計で28億ドル(約3200億円)とされる。

感染症の封じ込めは1カ国では難しく、多国間の枠組みが欠かせない。日本ではインバウンドによる外国人観光客の増加や20年の東京五輪開催で、これまで以上にヒトやモノの往来が増えることが予想される。予防可能な感染症に対してはワクチン接種を徹底するとともに、多国間での協調体制をいかに築くかが課題となりそうだ。

感染症
 ウイルスや細菌などによって引き起こされる疾患のこと。インフルエンザや赤痢などのように人から人へと連鎖的に感染する伝染性の感染症と、破傷風やマラリアなどのような非伝染性の感染症がある。日本では感染症法により、感染症の種類に応じて診断した医師が患者の発生を最寄りの保健所などに届け出る義務を規定している。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報