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これがオールスター? 日米野球の行き着く先とは

スポーツライター 丹羽政善

1934年の日米野球には、ベーブ・ルース、ルー・ゲーリッグらが出場した。来日を渋ったルースに、鈴木惣太郎氏が渡米し、床屋で口説いたという有名なエピソードもある。2002年にはバリー・ボンズ、ジェイソン・ジアンビらが参加。投手陣もバートロ・コロン、マーク・バーリー、エリック・ガニエら当時のエース格が顔を揃えていた。

彼らは紛れもなくオールスターであり、「MLBオールスターチーム」の名にふさわしいメンバーだった。が、もはやそれは過去の話。11月9日に開幕した今回の日米野球の来日メンバーには、オールスターどころか、大リーガーと呼べるのか、というレベルの選手さえ交じっている。

第1戦の試合前のセレモニーで、MLBの松井コーチとタッチを交わすモリーナ(左端)。今回、真のオールスターと呼べるのは彼くらいだ=共同

今回のメンバーで、真のオールスターと呼べるのはヤディエル・モリーナ(カージナルス)ぐらいではないか。過去9回のオールスターゲーム出場を誇り、ゴールドグラブ賞受賞も今年で9度目となったモリーナ。将来の殿堂入り候補である。

ただ、彼以外は……。もちろん、今年のオールスターゲームに出場したJ・T・リアルミュート(マーリンズ)やエイウヘニオ・スアレス(レッズ)らも来日している。しかし彼らはまだ、名実ともに"オールスター"と呼べるレベルではないだろう。リース・ホスキンス(フィリーズ)やミッチ・ハニガー(マリナーズ)も好選手だが、日本のファンに彼らの名前が浸透しているとは言い難い。

寂しい投手陣、大リーガー?という選手も

それでもまだ、野手に関しては、楽しみな選手もいる。フアン・ソト(ナショナルズ)とロナルド・アクーニャJr.(ブレーブス)は、ともに今年のナ・リーグの新人王候補だ。巨人との練習試合で東京ドームの天井直撃の二塁打を放ったソトは今季、19歳でデビューすると22本塁打をマークするなど、センセーショナルな活躍を続けた。20歳のアクーニャも8月半ばに史上最年少で5試合連続本塁打を記録するなど、やはりインパクトを残した。今後、この2人を揃って日本で見ることはないかもしれない。

一方で、寂しいのは投手陣だ。

9日の初戦に先発したジュニオル・ゲラ(ブルワーズ)は、昨年の開幕投手を務めたが、それまでは独立リーグやイタリアリーグを転々。ユスメイロ・ペティット(アスレチックス)、ダン・オテロ(インディアンス)らも戦力外を何度も経験し、似たようなキャリアをたどってきた。そこからメジャーに這い上がったという点では敬意に値するが、オールスターではもちろんない。

今年のワールドチャンピオンとなったレッドソックスからは、ヘクター・ベラスケス、ブライアン・ジョンソンという2投手が来日しているが、彼らはプレーオフの選手登録から漏れている。だからこそ今、日本にいるとも言える。

第2戦に先発したエラスモ・ラミレス(元マリナーズ)は先日、マイナーへ行くか、フリーエージェント(FA)になるかの選択を迫られ、FAとなった。そんな状態で日米野球に出場するのはリスクがあり、ケガでもすれば来季の契約に影響しかねないが、日本球界への売り込みを考えて、むしろアピールの場と捉えたのではないか。ところが、柳田悠岐(ソフトバンク)に本塁打を許すなど、3回を投げて、6安打5失点。思惑が外れた――というよりは、実力通りか。

いずれにしても投手陣で実績があるといえるのは、前田健太(ドジャース)、コリン・マキュー(アストロズ)ぐらい。第2戦で大量12点を奪われたのも、さもありなん、といったところだ。

年俸の高騰、けがのリスクを敬遠

ではどうして、こうした事態に陥ったのか。

いくつか理由はあるが、一つは年俸の高騰だ。例えば今や、オールスタークラスの先発投手なら、年俸は20億円を超える。そんな投手に日米野球に参加したい、と言われても、多額の投資をしている球団にしてみれば、それは歓迎できないだろう。ケガでもされたら、その損失は甚大だ。

野手に関してはまだケガのリスクが低く、出場許可のハードルは低いとはいえ、4年前の日米野球では、ロビンソン・カノ(マリナーズ)が死球を受けて右足小指を骨折している。そんなことが頭をよぎった球団もあったはずだ。今回も、第2戦でモリーナが左手に死球を受けており、カージナルスの関係者は肝を冷やしたに違いない。

日程の問題もある。

今年はワールドシリーズが第7戦までもつれれば、10月31日に行われる予定だった。日米野球に参加する選手は11月3日にホノルルに集合し、練習することになっていたから、プレーオフに出場したチームの選手らは、勝ち進んだ場合の厳しい日程、疲れを考え、最終的な決断をためらった。

そんな一人が、今年、三冠王にあと一歩と迫ったクリスチャン・イエリチ(ブルワーズ)である。母方の祖母が日本人という縁で、日米野球出場を楽しみにしていたが、チームがプレーオフ出場を決め、勝ち進むにつれて「参加は難しい」と考えるようになっていった。

オフは体を休める

ドジャースとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦の試合前に話を聞くと、「あと2、3日中に返事をするように言われている。でも、この時点では決められない。だって、ワールドシリーズ第7戦まで行けば、休みなく日本へ行かなければならない。そのとき、もう体力は残っていないだろう」と話し、こう続けた。

「たぶん(出場は)あきらめるよ」

結局、1次発表にあった彼の名前は、最終発表で消えた。

第1戦で勝ち越し2ランを放ったソトはナ・リーグの新人王候補=共同

もちろん、プレーオフに出なかったとしても、シーズン中の疲れを考慮し、出場を見合わせた、という選手もいたはず。それもまた一つの大リーグ界のトレンドだ。というのも今や、体を休めることの重要性が幅広く認識されるようになったからだ。

そもそもアスリートとしての自覚がかつてとは異なる。タバコを吸う大リーガーには会ったことがない。朝まで飲んで、二日酔いで次の日の試合に出る、なんて話も過去のことだ。もはや、オフもトレーナーに作ってもらったメニューに沿って体を鍛え、栄養士に食事指導をしてもらう時代なのである。

体のメンテナンスに対する意識の変化は、トレーニングの予定に遅れが生じることや、故障などの日米野球にまつわる潜在的リスクをどうしても遠ざける。もちろん、年俸の高騰が、結果として意識改革を促している面もあるだろう。

2002年の日米野球では、試合が終わるとボンズはトリー・ハンターら若い選手を誘って夜の街に繰り出し、豪快に遊んでいた。おそらく今回、そんな選手はいない。

時代の変化のなかで、日米野球は今後、どこに開催の意義を見いだすのか。最初にリストを目にしたとき、愕然とした今回のメンバーは、それを問いかけている。

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