優しく磨く 虹色の輝き トモイの貝ボタン(もっと関西)
ここに技あり

2018/11/12 11:30
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作るパターンは約6万種。加えてアパレルメーカーなどからの「別注」に応じて貝を削る。奈良県川西町のトモイは、高級シャツなどに使われる貝ボタン製造の国内トップメーカーだ。オシャレの一端を担う上品な光沢は、盆地の田園地帯、古墳にほど近い工場で生み出される。

ずらりと並ぶ黒蝶貝のボタン。光の具合で虹色に輝くものも

ずらりと並ぶ黒蝶貝のボタン。光の具合で虹色に輝くものも

貝からくりぬいた円盤状の素材(ブランク)を右手の親指で型にセットし、左手でテコを手際よく動かすと白い粉が飛び散る。高速回転する旋盤に取り付けた超硬合金の刃(バイト)が素材を削り、表の真ん中がくぼんだ、おなじみのボタンの形状になる。

「型付け」と呼ばれるこの工程は、現在も直径23ミリ以上の場合は一つ一つ「手挽(び)き」で行う。少しでも手元が狂うと欠けたり割れたり。機械やバイトのメンテナンスも重要だ。30年以上携わる中川安彦さん(72)は「割れるのはこわい。仕上がりを見つつ1日に何度もバイトを研ぐこともある」と話す。

川西町の貝ボタンは全国シェアの7~8割を占める。明治期にドイツ人が製造技術を神戸にもたらし、農閑期の家内工業として関西や四国に広がった。ボタンに適した巻き貝の高瀬貝や白蝶(ちょう)、黒蝶貝は赤道付近で獲れるため原材料は当初から輸入。海の有無は関係なく、川西町商工会の吉岡清訓事務局長は「ここで定着したのは『暇な時に何もしないのはもったいない』という勤勉な気質があったからでは」と推測する。

各戸が分業体制で取り組んだことも奏功したようだ。ブランクをくりぬく「刳(く)り場」、削って表面をなめらかにして厚みも調節する「摺(す)り場」、そして「挽き場(型付け)」。デザインによっては彫刻の工程などもある。戦後、300戸のうち200戸が貝ボタン製造に従事した地区もあったという。高度成長期にポリエステル製の大量生産のボタンが主流となり、現在は20事業所程度が残るのみになった。

トモイではブランクを製品にまで仕上げる。最後のつや出しはボタンと「伊保田蝋(いぼたろう)」というロウを付着させたモミを木箱に入れ、1時間程回転させる。細かなキズをチェックする検品は人の眼力が頼り。工場には最新のレーザー彫刻機とともに昔ながらの工具が並び、貝ボタンが大量生産品でないことを思い出させてくれる。

近年は「本物の良さ」が求められ、「デザイナーのこだわりか種類がどんどん増えている」(伴井比呂志社長)。同社は昨年9月、貝ボタンの本場、イタリアへの販路を新たに開拓した。日本製の美しさと対応の丁寧さが評価され、売り上げは順調に推移しているという。

文 奈良支局長 岡田直子

写真 小川望

カメラマンひとこと 個数の確認でマス目状の道具に敷きつめられた黒蝶貝のボタン。立体感を出すため逆光気味にストロボをたく。サイドからもLEDライトを当て、表面がきれいな色になる角度を探る。本物の貝が材料なだけに一つ一つ風合いが異なり、光の当たり具合でそれぞれが色彩を変える。試行錯誤していると、虹色の輝きを放つボタンを見つけた。
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