2018年12月13日(木)

今年のノーベル賞、抗体薬に脚光
(WAVE)DCIパートナーズ社長・成田宏紀氏

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2018/11/12 6:30
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我々のような投資家にも少なからず影響を与えるノーベル賞の発表から1月程度がたった。報道の内容が関連銘柄の株価にも影響を与えるので注視していたが、その内容がなかなか面白かった。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

本庶佑先生の受賞が決まった翌日などは受賞内容の紹介もあったが、すぐにご本人の人柄が中心の報道に移った。本庶先生は自分が亭主関白だとインタビューでおっしゃっていた。なるほど、毎年候補に挙がるような著名な先生方がなかなか受賞できない理由が理解できた。

しばらく経つと肯定的ではない記事も出てきた。すべての患者さんに効くわけではないし、重篤な副作用を招くリスクもある。関係のない免疫療法にまで期待が集まってしまっている。これらは過剰な期待をしずめる情報なので、本庶先生も歓迎しているのではないだろうか。

一方で実用化に貢献した小野薬品工業とのあつれきも報じられている。

一般論として先生と製薬会社では目的や方法論が異なるため、意見が食い違うことが多い。色々な可能性を試したい先生と、実用化に向けた成功確率を少しでも高めたい製薬企業とでは、「わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい」と願う父親と、お受験一筋の母親くらい考え方が違うのでやむを得ない。そして結局は母親が勝つので不満が募る。実際のところは何があったのか、筆者は存じ上げないが、この辺が不仲の始まりではないかと勘ぐってしまう。

さて、ここまでの内容だとゴシップにも満たないので、別の切り口から今年のノーベル賞を紹介してみたい。

日本人が受賞しないとほとんど報道されないのが残念だが、今年は物理学賞、化学賞でも生命科学の分野に深い関わりのある研究の受賞が決まっている。物理学賞を受賞する「光ピンセット」は生命科学が最もその恩恵を受けているし、化学賞を受賞する「ファージディスプレー」法などは生理学・医学賞として受賞していてもおかしくない技術である。

ファージディスプレー法は、現代のバイオ医薬品の主力である抗体医薬品の作成において重要な役割を果たしており、抗体医薬の基礎を成している。一方で、生理学・医学賞の研究成果である、がん治療薬「オプジーボ」は実は抗体医薬品であり、抗体医薬の応用の最先端なのである。こういった点から、今年のノーベル賞は抗体医薬の総決算として節目の年であると感じている。

本庶先生の研究内容はがん免疫に関するものであり、本質的には抗体医薬と関係ない。しかし、抗体医薬の恩恵を受けていなければ数年は実用化が遅れていただろうし、最悪の場合、実用化に失敗していたかもしれない。ノーベル財団の選考は厳しいので、実用化なくして受賞はあっただろうか。

さて「オプジーボ」は目覚ましい成果であるが、弱点がないわけではない。免疫力が弱っている患者さんには効果が期待できないからだ。私の投資先はこの弱点をものともしない技術の開発を目指している。ポスト「オプジーボ」で数年後のノーベル賞を狙うために、まずは亭主関白から始めたいと思う。

[日経産業新聞 2018年11月8日付]

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