星野源は鬼才 心開くメロディー生み出す(川谷絵音)
ヒットの理由がありあまる(4)
ゲスの極み乙女。やindigo la Endなど複数のバンドで活躍する川谷絵音が、世間でヒットしている楽曲を同じミュージシャン目線で自筆解説します。

今回は星野源さんの『アイデア』。朝ドラ『半分、青い。』の主題歌でおなじみだが、もうね、星野源印大爆発。というか、皆さん星野源さんのことをちゃんと理解してます?彼はキャッチーさを隠れ蓑にした変態ミュージシャン、いわばセンスの塊、鬼才だ。邦洋問わず様々な音楽を吸収し、それをちゃんとポップスに落とし込むという、ミュージシャン誰もがやりたくてもできないことを完璧にやり遂げているのだ。
ミュージシャンは多くの場合、一般の方より多くの音楽を聴いている。ジャズ、クラシック、パンク、エレクトロニカ、民族音楽、ノイズなどなど。そしてそれをそのままアウトプットし、結果全く売れないパターンがほとんど。日本と海外では音楽の土壌が全く異なっていて、ミュージシャンたちは、「なぜ海外ではあんなにセンスの良い音楽が売れているのに日本では理解されないんだ?」と大体が思っているはず。じゃあ前述のジャズやクラシック、エレクトロニカなどを日本で理解されるポップスに落とし込めばいい。でもそれをヒットさせるのは本当に至難の業で…。なのに、星野源はそれをやってしまう。日本人誰もが心を開くようなメロディーを生み出し、音楽好きがうなるアレンジを入れてくるのだ。
『アイデア』のイントロは、いきなり大ヒット曲『恋』を連想させる弦楽器とマリンバが奏でるメロディーから始まる。これはあえてなんじゃないかと。源さんがマリンバ好きなのは分かるのだが、『恋』と『アイデア』で星野源印を印象付けたかったのでは?一聴しただけで星野源と分かるイントロ。星野源というアーティストが日本のポップアイコンだと言わんばかりだ。ただこんな人が、ここ10年の音楽界にいたかというといない。聴いている僕たちは、イントロで『恋』を連想し、星野源だと思った瞬間にもう負けだ。完全に彼の術中にハマっている。誰が聴いても星野源。これこそポップアイコンだ。
そして1番のサビまでは、バンドサウンドで軽快に攻めたかと思うと、2番からは一気にシンセサイザーや打ち込みの洋楽風アレンジで畳み掛ける。源さんの曲はR&B色の強いアレンジが多い。だが全然いやらしさがないのが特徴だ。日本人がR&B的アレンジをすると、少し背伸びをしているように聴こえるものが多いが、源さんの曲はそこで安心感を覚えるのだ。これは米津玄師にも通じるが、どっちにも寄りすぎないバランス感覚の妙がある。普段ポップスしか聴かないリスナーでも、この洋楽風アレンジは違和感なく聴ける。というよりそう聴かせている。
しかも源さんは、ビブラートを変にかけて歌い上げるような歌い方もしない。日本人のR&Bにありがちな「僕は歌がうまいよ~」という自己主張ありきの歌い方は、何度も聴く気にならない。カロリーが高いからだ。源さんの声は良い意味でカロリーが低く、何度聴いても飽きない。2番のサビ後の間奏で、かなり攻めた打ち込みアレンジを入れた後、Cメロではいきなり、源さんが部屋で歌っているような音質になる。ここで落ち着いたと思いきや、間髪入れずに最後のサビに突入し、またバンドサウンドに戻る。本当にドキドキする展開だ。
そして、アウトロでまたマリンバが鳴る。サビもさることながら、イントロとアウトロの楽器が生み出すメロディーのキャッチーさが実に気持ちいい。終わった頃にはまた再生ボタンを押しているのだ。毎回言ってる「畳み掛けの法則」も入っているし、本当に恐ろしい才能だと思う。
ただ、源さん最強時代になるしかないと思われた矢先に出現したのが米津。ここからはこの2人の新曲から目が離せない。あっ!僕の新曲も結構良いので聴いてね。解説しているだけじゃないんだよ(笑)。

[日経エンタテインメント! 2018年11月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。