2018年12月11日(火)

アドイノベーション あえて外資傘下、殻破る

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/11/7 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

スマートフォン(スマホ)に特化したマーケティング・広告事業を展開するアドイノベーション(東京・目黒)がイスラエル企業の傘下に入って1年3カ月が経過した。拡大するアドテクノロジー(広告関連の技術)の市場で勝つため、あえて外資企業の懐に飛び込む選択だったが、果たして成果はあったのか。

石森社長は「傘下入りは戦略的選択」と語る

石森社長は「傘下入りは戦略的選択」と語る

「成長の起爆剤にM&A(合併・買収)先の技術力が武器となる」。2017年7月。イスラエル企業タプティカへの傘下入りを発表する前日、石森博光社長(41)は中目黒の本社に約30人の社員を集め、32ページにわたる資料で業績や株主構成、組織図まで詳細に明らかにして説明した。

「強い独自商品がない」「真のグローバル企業になりたい」。課題と傘下入りの効果を説明する石森氏に、大半の社員の反応は「世界が広がりますね」と前向きだった。

アドイノベーションは10年に広告代理店出身の石森氏が創業した。単純な価格競争ではなく「もっと広告主が求めているサービスを提供したい」との思いから起業。モバイルアプリ広告の代理店や広告の効果を分析する事業などに取り組んだ。

スマホの普及期と重なり売り上げは順調に伸びたが、海外勢の参入で広告効果測定事業が伸び悩み始めた。ロシアへの海外進出や新事業の経費もかさんで業績は赤字に転落した。危機感を感じた石森氏は15年に事業の再建に取り組み、自身の給料を半分に削減、取締役も解任した。翌年度には黒字化のめどは立ったが、新規株式公開(IPO)は遠く感じた。

そんな時期に出会ったのがタプティカだ。同社はロンドン証券取引所に上場し、世界に9拠点を展開。米アマゾン・ドット・コムや中国のアリババ集団も顧客に持つ世界的な企業だ。17年の売上高は約2億1000万ドル(約238億円)。とくにモバイル向け広告配信プラットフォーム(DSP)事業に強みを持つ。

DSPは広告主の条件に合う閲覧者がサイトを訪問すると即座に広告を配信する仕組みで、市場が成長している。タプティカは閲覧者に最適な広告を配信する「オプティマイズ」の技術に特に強みがあり、石森社長はこれが武器になると考えた。利幅の少ない広告代理店事業と比べ、DSPなどの自社製品は利益率も高い。タプティカの製品を事業の柱の一つに据えれば、収益面でも効果が生まれる――。

当時、数社からM&Aの打診があったが、タプティカを相手に選んだ。銀行系ベンチャーキャピタル(VC)数社の持ち分と経営陣の株式の一部、計59%のアドイノベーション株がタプティカ側に渡ったが、単純な会社売買とはひと味違う仕組みになっている。

アドイノベーションの社員とタプティカのメンバー

アドイノベーションの社員とタプティカのメンバー

石森社長は一定の経営権や雇用決定権を維持したいと考え、事前に米国の事例などを調査した。約1年をかけて契約を詰め、経営上の独立性に配慮した契約を結んだ。取締役は過半がタプティカ陣営となったが、本社も社長も変わらない。タプティカ側の取締役は日本には常駐せず、3カ月に一度の取締役会はテレビ会議だ。創業メンバー2人は一部株式を手放したものの引き続き2割強を保有し、日本企業の大株主にも残ってもらった。

それから1年もたたずに成果は表れた。アドイノベーションの18年2月期の純利益は前の期の約5倍の約2億6000万円に拡大した。売上高は非公開だが売上高・利益ともに過去最高となった。タプティカは技術面の武器を与えただけなく、海外展開でも営業などの力になっている。

石森氏は傘下入りを「会社を成長させるための戦略的な選択」と位置づけ、引き続き自らが率いて日本でのIPOを視野に入れている。創業メンバーの持ち株比率は下がったが引き続き一定割合を保有し、会社の成長に貢献するモチベーションは十分にある。

スタートアップの資本政策はベンチャーキャピタルなどから調達を繰り返しながら事業を拡大し、IPOまたは他社への売却を狙うのが定石だ。ただこれは成長を続けるのが前提であり、業績が一時的にでも低迷するケースでは、別のストーリーも考える必要が出てくる。

「最近は若手のスタートアップの経営者がM&Aや資本政策に関する相談に来る」と石森氏は明かす。イグジット(出口)を焦るVCの持ち株をいったん事業会社の株主へ移しつつ、創業者は持ち株比率を維持し独立性を保つ。あえて大企業の傘下に入り、シナジー効果で成長を目指す。アドイノベーションの選択は一つのケーススタディーとなりそうだ。

(佐藤史佳)

[日経産業新聞 2018年11月7日付]

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