2019年6月26日(水)

バスや鉄道 事故の芽摘み取れ(熱撮西風)

2018/11/8 2:00
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バスや鉄道などの公共交通機関で、乗客の安全を守る取り組みが進んでいる。バス会社では増えるお年寄りの乗客に対応し、高齢者疑似体験の研修を重ねる。鉄道会社はベテラン社員の経験を共有し、安全対策に生かす。

近鉄バス(大阪府東大阪市)は高齢の乗客への安全対策に力を入れる。お年寄りが多い団地近くを走る路線では「70歳くらいの娘が母親を連れて乗車する姿も見られ」(担当者)、運転手は車内での転倒事故を想定し、ドアの開閉や運転に配慮する。視野が狭くなるゴーグルと重りを身につけ、高齢者を疑似体験する研修なども行う。

専用器具をつけ高齢者を疑似体験する近鉄バスの運転手たち(大阪府摂津市)=超広角レンズ使用

専用器具をつけ高齢者を疑似体験する近鉄バスの運転手たち(大阪府摂津市)=超広角レンズ使用

運転手の体調不良による事故が後を絶たない。事故原因で最も多いのが脳疾患だ。大阪―東京間などで高速バスを運行するWILLER EXPRESS(東京・江東)は、今年4月から脳MRI(磁気共鳴画像装置)検査とスマートフォン(スマホ)を組み合わせた健康管理を導入した。東京まで長距離を走った運転手が受診すると結果が通知され、本人はスマホで検査画像や所見を閲覧できる。

高速バスのWILLER EXPRESSは受診した脳MRIの画像をスマホで確認できる健康管理を始めた(堺市)。右は健康起因事故の疾病別内訳

高速バスのWILLER EXPRESSは受診した脳MRIの画像をスマホで確認できる健康管理を始めた(堺市)。右は健康起因事故の疾病別内訳

JR西日本は2006年度から17年度まで安全対策に計1兆1432億円を費やした。JR福知山線脱線事故以降、社員の安全研修を重視している。今年4月からは車掌の訓練に視線を分析する機器を導入した。経験豊かな車掌と若手がホームのどこをどのくらいの時間見ていたか映像で記録して比較し、事故防止に生かす。

専用メガネを使い若手車掌の視線を熟練車掌と比較し、ホームでの安全確認技術を学ぶJR西日本の研修(大阪市)

専用メガネを使い若手車掌の視線を熟練車掌と比較し、ホームでの安全確認技術を学ぶJR西日本の研修(大阪市)

大阪のJR吹田駅では速度体感研修が行われた。柵が設けられた専用スペースに立ち、時速約130キロメートルで通過する列車の風圧を体感する。保守担当から事務系の社員まで研修を受け、走行車両の危険性を身をもって経験する。

走行する電車の風圧を体感するJR西日本の社員ら(大阪府)

走行する電車の風圧を体感するJR西日本の社員ら(大阪府)

脱線事故の犠牲になった当時大学生の下浦善弘さんの父、邦弘さん(70)は、なくならない事故に落胆の色を隠せない。JR西日本の安全対策について「上っ面で終わってほしくない。社員の安全への意識改革ができるようになってほしい」と冷静に現状を見つめる。

乗客の命を預かる公共交通事業者の安全運行は、社員ひとりひとりの安全意識の向上に支えられている。

乗客の安全対策と同時に企業が事故を起こした時の対応も重要だ。国は被害者支援の計画策定を公共交通事業者に求めているが、現状はなかなか進んでいない。

事故時には企業が素早く対応に当たるとともに、国土交通省も円滑な情報提供などを行い被害者を支援する。公共交通事故被害者支援室では、目線の高さを合わせて説明するといった研修をロールプレイング形式で行っている。

全国の国交省担当者がロールプレイ研修で事故遺族らへの対応を学ぶ(千葉県柏市)

全国の国交省担当者がロールプレイ研修で事故遺族らへの対応を学ぶ(千葉県柏市)

国交省によると2018年10月末現在、全国約8000事業者のうち国が定める事故被害者の支援計画を策定しているのは233事業者だけで、全体の約2.9%にとどまる。特に中小のバス事業者の計画策定に遅れが目立つ。

(大阪写真部 小川望)

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