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効率化、残るフロンティアは国

(生産性考)

「役所の窓口に行くことはほとんどなくなった。何でも家でできるからね」。デンマークの首都、コペンハーゲン郊外で暮らすヤコブ・デン・ウィンザーさんは2月に生まれたばかりの娘をあやしながら、自宅のパソコンに向かう。

デンマークではキャッシュレスの割合が8割にのぼる=ロイター

画面に映し出されていた市民ポータルサイトでは、娘の保育所探しから納税情報の閲覧まで、700を超すサービスを簡単に済ませられる。公共機関からの文書は、すべてこのサイトにある自分の「電子私書箱」に届く。

「今後20年間、少ない人数でサービスを維持するためにデジタル化が必要だ」。デジタル化庁のアダム・レベック氏は、福祉国家として効率化が欠かせないと語る。2015年までの5年間では、行政コストを約14億8千万ユーロ(約1910億円)削った。

デンマークは政府部門が大きくなりがちだからこそ、効率化に知恵を絞る。同国は18年、国連の電子政府ランキングで首位になった。「キャッシュレス化」も加速させており、店頭での現金払いの比率は全体の2割にまで下がっている。

キャッシュレスのメリットは紙幣の印刷やATMの維持、脱税による政府の税収減少など現金流通に伴う費用を削れることだ。野村総合研究所の木内登英エコノミストは「日本で導入すれば15兆円のコスト削減になる」とはじく。

世界でインターネットが浸透したことを起点にデジタル革命が進み、あらゆる企業がビジネスの生産性を向上させ始めている。企業にできるなら、行政も劇的に高められるはずだ。そのフロンティアはあちこちに広がっている。

「8千人分の処理がこれだけ速いとは驚いた」。さいたま市役所の仲陽平主事は、AIを使った実験についてこう話した。実験では、市民にどこの認可保育所に入ってもらうか、それぞれの家庭の条件に基づいて割り当てるプロセスを自動化した。これまでは年に1回、職員30人が手作業で50時間かけて処理していた。だが、AIはたった数秒でこなしてしまった。

日本の公務員数は333万人で、労働力人口の5%にあたる。郵政民営化などで減ってはいるが、日本の総人口はこれから50年近くで3割減り、9千万人を割り込む見通し。減らすべきところを減らして、サイバーセキュリティーの対応部門などニーズが高まるところできちんと確保できるかどうか。

「行政もやり方を変えるときだ」。自治体行政のあり方を議論する会議で座長を務めた清家篤前慶応義塾長は、技術革新を生かして行政は政策立案など本来の仕事に戻るべきだと指摘する。国の予算は約550兆円の国内総生産(GDP)の2割にのぼり、国・地方の公的債務は1千兆円を超えた。財政余力に乏しい現状だからこそ、公的部門の生産性向上に向けた取り組みが欠かせない。

この10年、金融緩和をテコに経済を回してきた世界では、小さな政府を巡る議論は下火だった。デジタル革命が暮らしや経済の隅々まで変える時代に政府が担う役割は何か、考える時期に来ている。

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