分身ロボ実用化へ準備着々 メルティンMMI
ロボットの遠隔操作技術を開発するメルティンMMI(東京・新宿)は、大日本住友製薬など3社から20億2000万円を調達した。分身ロボットを2021年に実用化する計画で、開発費に充てる。人とロボットが融合する「サイボーグ技術」。SFのような世界が本当にやってくるのか。粕谷昌宏最高経営責任者(CEO)に聞いた。

――サイボーグ技術とはなんですか。
「筋肉が発する電気信号や脳波などの生体信号と、ロボットでできた人工的な体を組み合わせたのがサイボーグ。最終目標は、脳さえあればあらゆる身体行動ができ、体による制約を突破することだ。とっぴに聞こえるかもしれないが、生身の人ではなくサイボーグが危険な環境で作業をする。体が不自由になった人からも求めている技術だ」
――技術的な独自性はどこにありますか。
「生体信号の処理は難しい。人によって体の使い方や癖が違い、それぞれ独特な波形をしているためだ。例えばピアニストと一般の人とでは、同じ動きをしても信号の波形は異なる。我々は長年蓄積した知見により、波形のどの特徴に注目して解析すべきなのかわかっており、それをアルゴリズムに落とし込んだ」
「ロボットを動かす技術にも独自性がある。通常は動く部分にモーターを取り付けるが、人の指先の繊細な動きなどは再現できない。当社はワイヤでロボットの指や手を動かしており、指先にモーターをつけずに済む。ワイヤの素材やどんな経路で引くかなどに独自性がある」

――調達資金の用途は。
「開発費に充てる。20年に遠隔操作ができるロボットの量産モデルを開発し、21年に本格的に市場を投入する計画だ。今回資本参加した大日本住友製薬と、医療機器を共同開発するのにも活用する」
――21年に遠隔操作ロボの市場は立ち上がっているのでしょうか。
「最初に導入を目指しているのは、危険だったり極限だったりする環境だ。人が命を落とすリスクを考えれば、導入の機運は高まるだろう。必ずしも全身タイプではなく、左右の腕だけの可能性もある。普及し定着するには、導入現場のニーズをくみ取ったものを開発しなければならない」
「23年には宇宙などあらゆる場所で使えるようにしたい。ANAホールディングスと宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトに参加しているほか、JAXAとは国際宇宙ステーションの作業を人に代わって遠隔操作ロボでできないか実験している」
――実用化した際、収益は何になるのでしょうか。
「ロボットの販売と通信プラットフォームの提供だけではなく、ロボットを使ったサービスを提供することも考えられる。ロボットを通じた新たな就労の形が生まれるので、作業員のあっせんなどで収益を得るのも選択肢となるだろう」
■ ■ 記者の目 ■ ■ ■
メルティンMMIのワイヤ駆動のロボットの手はペットボトルのふたを開けるなど細かい作業にも対応する。ロボットの体を動かせるようになると、人は何ができるのか。
粕谷氏は「これまで人の身体的な構造や能力でできる作業が決まったが、将来はやりたい作業にあわせて身体機能を拡張することができるようになる」という。これまでに顔につけたセンサーでロボットでできた腕を操作し、自分の両手と3本目の腕を操りながらはんだ付けをする実験を披露したこともある。
既存の概念や常識を大きく変えるため、危険利用などのリスクを回避するための倫理観が必要だとして、株主であるリアルテック・ファンドらと「国際サイボーグ倫理委員会」を設立。哲学、人類学、歴史学などの専門家と、サイボーグが存在する社会の課題を議論する。
SFの世界で描かれた「サイボーグ技術」を現実の社会に定着させるためには、20年代の実用化の際に手の届く価格帯で信頼性のある製品をつくり、導入事例を増やすしかない。収益を生み出して持続的な事業に育てるかも問われる。 (若杉朋子)
[日経産業新聞 2018年11月6日付]

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