「投資撤退」は万能なのか(一目均衡)
欧州総局 篠崎健太

2018/11/5 15:28
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化石燃料やタバコなどに関わる企業から投資を引き揚げる「ダイベストメント(投資撤退)」が広がっている。環境・社会・企業統治を重んじるESG投資で先行する欧州ではブームとも言える盛況ぶりだ。持続可能な社会への変革を投資家の圧力で促せる意義は確かに大きい。だが皆が「売って終わり」へ走る先に死角はないだろうか。

「持続可能社会のリーダーになる野心を示すものだ」。欧州運用大手カンドリアムは9月、石炭やタバコ、兵器などに関わる企業を投資対象から一掃すると表明した。社会的責任投資(SRI)のファンドでは約20年前から除外してきたが、年末までに総額1210億ユーロ(約15兆6千億円)の運用資産全てに広げる。

米運用助言会社アラベラ・アドバイザーズによると化石燃料関連からの撤退を宣言した機関投資家の運用総額は、世界で6兆2400億ドル(約700兆円)に上る。2014年の520億ドルから120倍に急増した。7月にはアイルランド議会が政府系ファンドの化石燃料関連資産を5年以内に全て処分する法律を通した。うねりは公的機関も巻き込んで強まってきた。

投資撤退は地球環境や社会、健康を脅かしかねない企業への資金供給を止め、持続可能なビジネスへの転換を促す。規制強化などで業績が将来悪化する恐れがある企業への運用リスクを落とすという経済合理的な意味もある。

総論としては反対が出にくい立派な理念だからこそ、あえて課題を考えたい。まず「関連企業」を一様に切り捨てていいのかという疑問だ。

10月10日、英ロンドン。世界のエネルギー業界幹部らが集う催しで、英石油大手BPのボブ・ダドリー最高経営責任者(CEO)が、当事者として反対の論陣を張った。

BPの予測では世界のエネルギー需要を支える再生可能エネの比率が、40年に3分の1に達する可能性がある。ダドリー氏は一方で、依然4割は石油・ガスが賄い、数兆ドル規模の投資が今後要ると強調。「(投資撤退は)低炭素社会への移行過程でも続く貢献を無視している」と述べた。

洋上風力発電に注力する北欧石油最大手エクイノール(ノルウェー)のように、伝統的な企業も低炭素化を急いでいる。化石関連として一律に排除すれば、こうした努力に水を差すことになる。

もう一つは、対話を重視してきた企業統治改革の流れと矛盾しないかという点だ。仏運用大手アクサ・インベストメント・マネージャーズの企業統治担当ヘッド、シェード・ダフィー氏は「機関投資家には手段と影響力がある。ダイベストメントを第1の選択肢とすべきではない」と話す。投資撤退はあくまで最終手段との立場だ。

社会変革の理念を持つ機関投資家が全て株式を売っても誰かが株主に残る。問題意識を持った投資家が去り、低質な企業が市場で放置されるリスクも皆無ではない。売り払って終わりで本当に良いのか。横並びで飛びつく前に一呼吸おいて考えたい。

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