ローストしたクマ肉で旋毛虫症 ジビエブームにリスク
クマの肉を食べたことで旋毛虫症を発症した事例が、相次いで3例発生したことが報告された。いずれも同じ1頭のクマの肉が原因食品で、うち2例はローストして食べ、1例はカツにして食べていた。市立札幌病院感染症内科の児玉文宏氏らが、第67回日本感染症学会東日本地方会学術集会(2018年10月24~26日、東京)で報告した。同氏らは、野生鳥獣肉(ジビエ)ブームの中、旋毛虫症などの感染症リスクが高まっているとし、一般消費者へのさらなる啓蒙が必要と指摘している。
症例1の経緯はこうだ。特記すべき既往歴のない北海道在住の40歳代男性で、2018年春にハンターから譲渡された狩猟直後のクマ肉を1週間程度、冷蔵保存。その後、自宅でロースト調理し食べたという。
喫食から22日後に発熱。その後、かゆみを伴う全身発疹が現れ、咳、呼吸困難感、口唇腫脹、四肢筋肉痛も出現した。近医を受診しアレルギーとして治療後、いったん呼吸困難感や発疹は改善したが、その後かゆみが悪化したため市立札幌病院を受診した。
白血球の一種である好酸球数が多く、また患者からローストしたクマ肉を食べたことが聴取できていたことから、旋毛虫感染症を疑い治療を開始した。その結果、次第に改善し、クマ肉を食べてから10週後に完全に消失した。
治療開始と並行して寄生虫検査も行ったが、当初は抗旋毛虫の抗体価が低く、喫食37日後に陽性となった。また、喫食翌日から冷凍保存されていた同じ個体のクマ肉から旋毛虫が検出され、旋毛虫症と確定した。
患者からの聞き取りで、食べたクマ肉は塊ごと約10分間表面を焼き、その後余熱で加熱していた。表面以外の内部の肉は「赤いまま」だったことが分かっている。
症例2は30歳代女性で、症例1と同じ日に、同じローストしたクマ肉を食べていた。喫食20日後に症例1とほぼ同様の症状、所見を呈した。同じような経過をたどり、症例1と同様の治療により、症状が消失した。

クマ肉の喫食が原因で旋毛虫症を発症した事例が2例と続いたことから、同じクマ肉を食べた人を追跡調査したところ、症例2の母(症例3)が抗旋毛虫抗体価が陽性となった。症例3は、生のクマ肉をカツにして食べていた。1カ月ほどして発熱、四肢・体幹筋肉痛、発疹が出現したが、その後数日で症状は自然消失していた。治療はしていない。
児玉氏は、2016年に茨城県で旋毛虫による集団食中毒が発生したことを受けて、厚生労働省が「クマ肉による旋毛虫(トリヒナ)食中毒事案について」を発信し、改めて「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」(厚労省、2014年)の順守を求めたことに言及。しかし、今回、3例の旋毛虫症例が相次いで発生した背景には「シカ肉と同様に、ローストすればクマ肉も安全との誤解があった」と指摘。ジビエ食による感染症リスクの認識やその予防法が広まっていない可能性があるとし、さらなる啓蒙が必要とまとめた。
(日経メディカル編集委員 三和護)
[日経メディカル Online 2018年11月2日掲載]