2019年8月25日(日)

「厳しい質問が出るかと」 村上春樹さんの会見詳報

2018/11/4 20:31 (2018/11/4 21:32更新)
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作家の村上春樹さん(69)が4日、国内では37年ぶりに記者会見に臨んだ。会見での冒頭発言と質疑応答の詳報は次の通り。

記者会見を終えた村上春樹さん(中央)は早大の鎌田薫総長(左)らと記念撮影に応じた(4日午後、東京都新宿区)=共同

記者会見を終えた村上春樹さん(中央)は早大の鎌田薫総長(左)らと記念撮影に応じた(4日午後、東京都新宿区)=共同

【冒頭発言】

あまり大学(の授業)に出ていた記憶はない。僕は学生結婚し、途中から仕事(ジャズバーの経営)も始めたので、余裕がなかった。でも7年かけて卒業させてくれたので、寛容な大学だったんだなと思う。店に先生が来たこともある。君もいろいろ大変だな、と単位をくれた。

卒論は、参考文献を1冊も買わずに1週間で原稿用紙100枚書いた。でっち上げで適当に書いたら、担当教授がAプラスをくれた。「君はものを書く道に進んだ方がいい」とアドバイスをされて、ぼけたことを言ってるなと思っていたけど、当たっていた。感謝しています。当時は、ちゃらんぽらんというか、自由な気風があって、僕の性格に合っていた。

40年近く書き、生原稿や書簡がたまり、うちにも事務所にも置ききれないほど。子供がいないので、僕がいなくなった後、資料が散逸すると困ると思っていた。母校で、アーカイブの管理をしていただけるのはとてもありがたい。日本人でも外国人でも僕の作品を研究したい人の役に立つなら、それに勝る喜びはない。文化交流の一つのきっかけになればと思う。

著書は50カ国以上に翻訳されているし、僕も熱心に(海外文学を)翻訳してきた。翻訳によって助けられて、育てられてきた意識は強くある。日本文学にとどまっていたら、窒息状態になっていたかもしれない。

ゆくゆくは、スカラシップ(奨学金制度)も立ち上げることができたら言うことはない。欲を言えば、僕の集めたレコードや書籍をストックした書斎みたいなスペースを設け、そこでレコードコンサートを開けたらいいですね。僕も積極的に関わっていきたい。

大学内の演劇博物館にはよく通って、古いシナリオを見ていた。映画を見るお金がないときは、頭の中で映像をこしらえていた。そういう体験も小説家になって少しは役に立ったのではないか。そういう寄り道的な場は、大学に必要だと思う。

【質疑応答】

-37年ぶりに記者会見をした理由は。

「37年前は映画『風の歌を聴け』が作られた時。今回は、僕にとってすごく大事なことだし、きちんと話さなきゃいけないと思った」

村上さんがサインし、早大に寄贈される書籍(4日午後、東京都新宿区)=共同

村上さんがサインし、早大に寄贈される書籍(4日午後、東京都新宿区)=共同

―寄贈のきっかけは。

「4、5年前から考えていて、早稲田は母校だし、一番の落ち着きどころという気がした。(海外の)大学もいろいろ考えたけど、やっぱり日本が一番妥当だろうと」

―寄贈資料はどのようなものか。

「レコードは半世紀以上コレクションし、1万何千枚ある。一生懸命集めたので、まとめておきたいなと。本は仕事に関連したものに限られる。翻訳した本や、(海外で刊行された)僕の本や、僕にとって大事な本。まだ生きて仕事をしているので、急に全部持ってくるわけにもいかない。少しずつ移していけたら」

―特に思い入れのあるものは。

「(『風の歌を聴け』で)群像新人文学賞を取ったときの(雑誌)『群像』を見たら懐かしかった。受賞の言葉を見て、やっぱり若かったなと思って。そういうのを見たい人がいたら、見られるようにしたいなと」

―どんな作品の原稿があるのか。

「『風の歌を聴け』はコピーを取らずに(出版社に)送っちゃったので、ないと思う。『ノルウェイの森』は欧州で大学ノートに書いていた。第1稿で、かなり貴重だと思う。あれば寄贈する」

―資料をまとめる意味は。

「1カ所にあった方が便利。米国では大学に個人の作家のアーカイブがあり、行けば生原稿を見せてもらえる。すごくいいなと思った」

―推敲(すいこう)の経過が分かる資料も寄贈するのか。

「いくつかの作品は稿を重ねるごとに、バージョンを残している。あまり見せたくないけれども、研究する人には面白いかもしれない」

―書簡はどんなもの。

「愛憎関係とかはない。他の作家と儀礼的にやりとりしたもので、相手に迷惑がかからないものは、寄贈したい」

―若い作家や文学研究者への期待は。

「小説の主要な力は物語だと思っている。心に響く、すっと入っていく力を持っていたら言語を超えて交換可能だと思う。今はインターネットの時代で、いろんな価値が交換されている。物語を武器にブレークスルーする力を小説は内蔵している。一つの文化の中だけで収まっていては、そういう力は出てこない」

記者会見を終え、記念撮影で笑顔を見せる村上さん(4日午後、東京都新宿区)=共同

記者会見を終え、記念撮影で笑顔を見せる村上さん(4日午後、東京都新宿区)=共同

―村上さんにとっての海外文学とは。

「窓を開けて違う空気を取り込む、違う風景を目にするという気持ちが強かった。日本文学を専門にしていた両親とは違うことをやりたいという思いも強かった。翻訳という、一つの言語から別の言語に等価交換するという作業がものすごく好き。今でも仕事ではなく、趣味でやっているとしか思えない。小説を書く上で、すごく役に立ったと思う。言語が等価交換できるという認識があるだけで、文章も変わってくる。違う言語の人にも読めるんだという認識があるだけで、ずいぶん気持ちは違ってくる」

―音楽が執筆に与える影響は。

「朝4時か4時半に起きて仕事する。枕元に、遠足に行く時置いておくような感じで、前の晩からレコードを選んで出しておく。それを聴きながら仕事するのが楽しみ」

―会見した感想は。

「もっと厳しい質問が出るかと思ったら、みんなが親切でよかった」

〔共同〕

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