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就任1年目にWシリーズ制した レ軍監督の手腕
スポーツライター 杉浦大介

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2018/11/5 6:30
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ワールドシリーズでのコーラ監督の名采配は投手陣の起用法だけにとどまらなかった。第1戦ではエドゥアルド・ヌネス、第4戦ではミッチ・モアランドがそれぞれ代打本塁打。同じく第4戦の九回にはラファエル・デバーズが代打起用で殊勲の勝ち越し打を放つなど、用兵は次々と的中していった。確固たるレギュラーですらなかったスティーブ・ピアースを4試合で3番に起用し、35歳の「ジャーニーマン(いくつものチームを渡り歩く選手)」が期待に応えて3本塁打、8打点でシリーズ最優秀選手(MVP)に輝いたのは象徴的といっていい。

ピアース(中)は3本塁打、8打点の活躍でシリーズMVPに輝いた=AP

ピアース(中)は3本塁打、8打点の活躍でシリーズMVPに輝いた=AP

細やかなコミュニケーション技術

極端ないい方をすれば、多くの選手たちを"駒"のように使いこなすコーラ監督の大胆な起用法が功を奏した。その戦術眼に脱帽するのと同時に、実績ある選手たちをこのように起用できるのは、常日ごろからの信頼関係があったからだと考えずにはいられない。

「AC(コーラ監督のイニシャル)は春季キャンプの初日から僕たちにはやり遂げられると伝えてくれた。僕たちは自身を信じ、彼を信じた。そして実際にやってのけたんだ」

レギュラーシーズンのMVP候補になったムーキー・ベッツがそう述べれば、セールは「(コーラ監督は)最高の男だ」と絶賛する。投打の軸であるこの2人をはじめ、指揮官に対するチーム内の称賛の声は枚挙にいとまがない。

「何かを話す必要があるときは、隣に座って直接話す。その方法が適切と感じている。怒鳴りつけるような監督には出会ったことがないし、これまでの監督は誰もが対話が得意だった。彼らから学んだことを私も生かそうとしているんだ」

第5戦前にそう明言していた通り、英語が母国語でないにもかかわらず、コーラ監督の直接的で細やかなコミュニケーション技術に対する評価は高い。就任1年目で見事に頂点に立ったコーラ監督の何よりも特筆すべきは、その部分だろう。

昨季終了時点で、米スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」のトム・バードゥッチ記者は現代の監督に必要な条件として以下の2つを挙げていた。

 ・若い選手たちと通じ合えるパーソナリティーを持っていること

 ・データ分析に精通し、戦術に応用できること

ゼネラルマネジャー(GM)、球団社長といったフロントが大きな影響力を持つ昨今の大リーグでは、重宝されるのは百戦錬磨の策士より、様々な年齢や人種の選手と心を通わせる対話技術と、データを扱う聡明(そうめい)さを持った人物。そういった意味で現役選手たちとまだ年齢も近く、英語、スペイン語を流ちょうに話し、多くのスター選手とも話ができるコーラ監督は理想に近い指揮官だったのだろう。

コーラ監督は選手との対話を大切にし、プライスら先発投手を巧みに救援に起用した=AP

コーラ監督は選手との対話を大切にし、プライスら先発投手を巧みに救援に起用した=AP

14年間の現役時代は6チームでプレーし、平均打率2割4分3厘のコーラ監督は典型的なユーティリティー(便利屋)選手だった。スター選手ではなくとも、長いキャリアの中で多くを学び、引退後もコーチとして監督に必要な素養を身につけていった。そんな下地がなければ、80万ドル(約9000万円)という低い年俸の監督が年俸総額2億2800万ドル(約258億円)のスター軍団を率いていくことは難しかったはずだ。

レッドソックスの選手だった07年、アストロズのベンチコーチだった昨季に続き、これでコーラ監督は3つの異なる立場でワールドシリーズを制したことになる。所属チームの上位進出には運も必要だが、コーラ監督の成功は単純に「幸運」という言葉だけでは片付けられまい。そのコミュニケーション技術、信頼関係に裏打ちされた起用法は語り継がれ、現代の監督の成功例としても記憶されていくに違いない。

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