2019年9月16日(月)

日本企業、「賠償応じず」で足並み
元徴用工判決の衝撃(下)

2018/11/3 2:00
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10月30日の元徴用工を巡る裁判で敗訴した新日鉄住金。同社の幹部は「今後の対応は政府と協議しながら検討していく」と口をそろえる。経済産業省や国土交通省の担当者も提訴された企業を回り、今後とも官民で歩調をあわせて韓国側と当たることを確認した。

日本政府や訴訟を抱える企業が懸念するのが、賠償や和解に応じる企業が出てくることだ。1社でもそうした企業が出れば、それが「アリの一穴」となり、韓国側の主張を認めることになりかねないからだ。

今では官民が連携して対応しているが、それまでは様々な経緯があった。

2016年夏。韓国側から訴えられた企業が経産省に招集された。その席で担当官が徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだとする日本政府の見解を説明。賠償や和解に応じないように促した。

ただ、多くの企業の経営陣は明確な方針を決めておらず、会議は重苦しい空気に包まれた。結局、その場では代表者の一人が議論をリードして政府方針を守ることを確認したが、中長期にわたって一致した対応ができるか不安を残した。

30日の裁判の前にも、両省は企業に個別に連絡を入れ、賠償に応じない意思を再確認した。現段階では日本企業の足並みに乱れはみえないが、懸念がなくなったわけではない。

ポスコは戦後の賠償資金を元に設立された(ポスコの浦項製鉄所)

ポスコは戦後の賠償資金を元に設立された(ポスコの浦項製鉄所)

敗訴した新日鉄住金の場合、原告側弁護士は30日の記者会見で、差し押さえの対象として同社が3%超を保有する韓国製鉄大手のポスコ株を名指しした。だが新日鉄住金が持っているのはポスコ株の現物ではなくADR(米国預託証券)というニューヨーク市場で取引されている証券で、差し押さえが可能な「韓国内の資産」には該当しないとみられる。

三菱重工業については原告側弁護士が「韓国に財産がある」としたが、実際は皆無に等しい。同社は今年3月、韓国の現地法人を清算している。

ただ、すべての企業がこの2社のように突っぱねられるかどうかは不透明だ。韓国とのビジネスが大きい企業では経営判断として賠償や和解をするよう求める株主などからの圧力が強まる可能性もある。

元徴用工との訴訟を抱える機械メーカーの不二越は2000年、韓国人の元女子挺身(ていしん)隊員に「解決金」を支払うことで和解した。同社は韓国企業に工作機械や産業ロボットを販売していることが影響したとの見方が出た。

かつて新日鉄がポスコに、三菱重工傘下だった三菱自動車が現代自動車にそれぞれ技術支援をしていたが、今はほとんど交流はない。一方、半導体製造装置や電気自動車(EV)の電池材料など日本のメーカーと、サムスン電子やLG電子など韓国経済をけん引するIT(情報技術)企業との相互依存の度合いは強まっている。日韓両国の経済界は表向き「政治と経済とは別」と話すが、対日感情の悪化で日本製品の売れ行きが落ちる懸念を抱くメーカーもある。

日本の対韓直接投資は昨年、5年ぶりに増加した。就職難に悩む韓国の大学生を支援するため、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)などが開く就活フェアも今年は昨年より60社ほど多い227社の日本企業が参加。毎年規模は大きくなっている。今回の判決で「回復してきた日韓交流がしぼまなければいいが」(日本の商社幹部)と懸念する声は少なくない。

(川上梓、ソウル=鈴木壮太郎)

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