MaaSで激変 トヨタ自動運転開発トップが見通す未来
「約20分間。これは、我々が都市部で駐車場を探すために日々費やしている時間だ」――。トヨタ自動車の自動運転ソフトウエアの先行開発会社であるTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)社長のジェームス・カフナー氏はこう語る。

同氏によれば、移動手段をサービスとして提供する「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス、マース)」のような自動運転技術を搭載した車両の普及で交通網の効率を高められれば、都市はこれまでと全く違う姿に変貌する可能性を持つという。カフナー氏は「日経 xTECH EXPO 2018」(2018年10月17~19日、東京ビッグサイト)の基調講演に登壇し、トヨタグループとして未来の都市計画をどう見ているのか展望を示した。
駐車スペースを減らせる
都市にとって、自動運転車両が普及したときの最大の利点は、駐車スペースを減らせること。駐車場のために割いている既存の空間は膨大だ。例えば米国には約10億個の駐車スペースがあり、一方で走るクルマは約2.5億台。クルマよりも4倍多い駐車スペースが存在していることになり、効率的な土地利用とは言えない。米カリフォルニア州ロサンゼルス郡で15年に実施した調査によると、同地区の約14%に相当する面積が駐車スペースになっているという。
自動運転車両の登場によって、これらの土地を有効に使うチャンスが得られる。「(トヨタとしては)新たな居住地や商業施設を建設したり、公園などの自然エリアとして活用したりする案がある」(カフナー氏)という。排ガスを発生させない自転車など代替モビリティーの専用道路を造ることも想定する。クルマが通る主要な道路を地下に通せば、騒音や排ガスの問題を生活から減らせる可能性が高い。

「完全な自動運転技術はMaaS用の車両から本格的に適用が始まる」――。カフナー氏を含めた自動車メーカー首脳陣は口をそろえてこう話す。MaaSのような商用車は、乗用車に比べて動作条件を制限しやすい。良い天気の時だけ、高速道路だけなど、走行する時間や場所を選ぶことができる。
これにより、周辺の認知に使う3次元レーザースキャナー「LiDAR」のような車載機器で、乗用車用に比べて性能を抑えた安価な機器を採用できる。自動運転で稼働率を高められれば得られる収益は増える。機器やシステムなどの開発投資を回収しやすい。
自動運転、商用車が先行
市場への投入も乗用車に比べて早いとみる。トヨタの場合は、サービス用車両「eパレットコンセプト」を使った実証実験を、20年夏の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて開始する。市場投入は20年代の前半になりそうだ。
「自動運転車両を早期に実現するために重要なのはシミュレーションを重ねること」(カフナー氏)だという。開発期間を短くして全体のコストを抑えるために、シミュレーションは必須となる。日中や夜間、雨天や霧など、あらゆる交通状況を想定できる。
シミュレーションを重ねた技術を使って先行開発を進めるのがTRI-ADの役割だ。人工知能(AI)研究の米国子会社であるTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)が開発した試作技術を形にする。TRI-ADが形にした技術を、トヨタが量産する流れだ。その後はOTA(オーバー・ジ・エア)などの手法で更新しながら使っていく。
TRI-ADの設立は18年3月。資本金は5000万円で、出資比率はトヨタが90%、アイシン精機が5%、デンソーが5%である。本社を東京都中央区日本橋に構えている。
(日経 xTECH 窪野薫)
[日経 xTECH 2018年10月26日掲載]