2019年5月24日(金)

乾燥ばっちり 耳澄まし 梅薫堂の手作り線香(もっと関西)
ここに技あり

関西タイムライン
コラム(地域)
2018/10/29 11:30
保存
共有
印刷
その他

 「まだ鈍い。あと5、6時間かかる」。10月中旬、兵庫県淡路市江井地区にある線香メーカー「梅薫堂」の工場で、鯉住清八郎さん(78)がつぶやいた。板にびっしりと並んだ線香の先端を反らしては、指ではじく。「パチ、パチ」という、板に当たる小さな音に耳を澄まし、線香の乾燥状態を音で確かめる。

 鯉住さんは同地区で数少なくなった線香の手作り職人。この道約50年のベテランだ。線香は乾燥させたタブノキなどを粉末状にし、調合した香料と水を混ぜて原材料をつくる。ここからの工程が鯉住さんの持ち場。機械から約70本の細い棒状となって押し出される原材料を竹べらを使って板に隙間なく並べ、同じ長さに切りそろえて乾燥させるまでを担当する。

乾燥中の線香を指ではじき、音で湿気を確かめる(兵庫県淡路市)

乾燥中の線香を指ではじき、音で湿気を確かめる(兵庫県淡路市)

 乾燥の作業場は2階。数十枚の板を積み上げた台車が所狭しと並ぶ。それぞれの板には乾燥中の線香が置かれている。江井地区は播磨灘に面した漁港で、乾燥に適した西風が吹く。2階の窓にガラスはなく、木枠の格子をスライドさせて風の量を調節する。

 線香は乾燥を誤ると変色したり折れたりして商品にならない。鯉住さんは満遍なく乾くよう台車を回転させたり移動させたりする。「乾燥は最も難しい作業。一日に何度も風の様子を確認し、台車の置き場所を考える」と話す。

 梅薫堂の吉井康人社長(67)によると、乾燥の期間は約2週間。カビの生えにくい水分量は約13%といい、鯉住さんはこの状態を音で聞き分ける。吉井社長は「長年の経験とセンスがなければ務まる仕事ではない」と説明する。

 淡路島では1850年、線香の産地だった堺から製造技法が伝わった。風など気候にも恵まれ、職人が技術を磨いて発展してきた。兵庫県は線香の生産額が全国トップの4割で、そのほとんどが淡路島産だ。県線香協同組合(淡路市)に加入する島内のメーカーは14社。線香の調合から仕上げまでをデザインする経営者らを「香司(こうし)」と認定する制度を設け、ブランド化を図っている。

 同組合によると、熟練の職人が支えてきた生産現場は20~30年ほど前から機械化が進んだ。だが、吉井社長は「手作りは品質や技術にこだわることができる」と強調する。機械で作ると線香の表面は粗くなり、なでる作業を伴う手作りはつやが出る。機械と比べて原材料を有効に使えるのも特長。同じ長さにカットする際に余った部分を再利用でき、廃棄はほぼゼロという。

 高級品も手掛ける鯉住さんは「手作りは一本一本見ないといけない」と自らに言い聞かせるように話す。丹精込めてつくった線香は全国各地で愛用されている。

文 大阪社会部 今井孝芳

写真 目良友樹

カメラマンひとこと 初めての町だが漂う香りに懐かしさを覚えた。訪れたのは製造工場。2階の乾燥場に上がると、「ベカコ」と呼ばれる格子窓から穏やかな海風が入ってくる。聞こえてくるのは職人が指先で線香をはじくかすかな音。ゆっくりとした時間が流れる。うっすらとたゆたう一条の煙を思いながら、心を落ち着かせ静かにシャッターを切った。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報