スマホ充電できるスーツケース「Away」の開発視点
創業2年半、米で爆発的な人気
いま米国で爆発的に売れているスーツケースがある。その名も「Away(アウェー)」。1000人以上の旅行者の生の声を聞き、欲しい機能、デザインを形にした徹底的な顧客発想の製品だ。米サムソナイト、独リモワなど100年以上の歴史を持つ老舗がひしめく市場にあって、アウェーは2015年の創業から2年半で50万個を売り上げた。

アウェーの始まりは15年初めに共同創業者ジェン・ルビオ氏のスーツケースが壊れたことだった。買い替えようとネットや小売店でスーツケースを探してみると、「すぐに壊れるような安物か、旅費より高い超高級品しかなかった」(ルビオ氏)。大きなビジネスチャンスがあると感じたルビオ氏はかつての同僚で後に共同創業者となるステフ・コーリー氏に声を掛け、翌月には会社を設立した。
アウェーの最大の特徴は徹底した顧客目線。旅行好きの消費者1000人以上に聞き取り調査を実施し、欲しい機能を調べた。最も特徴的と言える機能が充電池の組み込み。取っ手付近にUSB端子を設け、移動中などでも簡単にスマートフォン(スマホ)やパソコンを充電できる。交流サイトで話題になり、若者の支持が急速に高まった。

洗濯物の収納場所、衣類を圧縮できる機能なども備え、旅慣れた消費者の心をつかんだ。「種類が多すぎて比べにくい」との意見が多いことにも配慮し、サイズは5つ、色も10色以内と比較的少なめに抑えた。素材には主にポリカーボネートを使うなど軽くて丈夫という基本性能も充実した。
同社のスーツケースは機内持ち込みサイズで225~245ドル(約2万5300~2万7600円)。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン傘下のリモワは一番安いモデルでも約700ドルする。アウェーは普通の若者でも手が届き、消費の感度が高いミレニアル(1980.90年代生まれ)世代に人気となった。
アウェーのもう一つの強みが米国で急増している「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」モデルであることだ。中間業者を通さず、自社運営のECサイトで直接消費者に販売し、価格を抑えられる。創業者の2人は米国で最も成功したD2Cブランドといわれるメガネ製造・販売の「ワービー・パーカー」出身で、その経験がアウェーに生かされている。
アウェーは多くのD2Cブランド同様、ECサイトと並行して直営店舗も運営する。米の5店舗に加え、8月にはロンドンに海外初店舗を開業した。「ブランド認知を上げる目的で始めたが、店舗だけでも利益が出ている」(ルビオ氏)
黒字化を果たし、6月には5000万ドルの資金を調達した。アウェーの好調ぶりにD2Cブランドを次々買収している米ウォルマートも注目していると噂される。
ルビオ氏の最終ゴールは「ナンバーワン旅行ブランド」。旅行に関する問題を解決する総合会社を目指しており、社内では「アウェー航空だってありえる」という冗談も飛び交っているという。
(ニューヨーク=平野麻理子)
[日経産業新聞10月29日付]