2018年11月18日(日)

ノーベル賞の「チーム本庶」 研究者のバトンリレー
日経サイエンス

コラム(テクノロジー)
科学&新技術
2018/10/27 6:30
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「当初はがんと関連するとは思わなかった」。2018年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった京都大学特別教授の本庶佑氏は、自身の研究をこう振り返る。四半世紀にわたる研究の軌跡は、本庶氏の指揮のもと、免疫の新たな仕組みを解き明かそうとした「チーム本庶」の探究のリレーによって生まれた。

本庶氏らががん免疫治療薬の実用化に乗り出すきっかけとなったマウスの実験の内容(日経サイエンス提供)

本庶氏らががん免疫治療薬の実用化に乗り出すきっかけとなったマウスの実験の内容(日経サイエンス提供)

リレーのスタート地点は1980年代にある。この時期には、免疫が「自己」と「非自己」を見分けて攻撃する仕組みについて、分子レベルの解明が大きく進んだ。当時はまだ大学生だった石田靖雅氏(現・奈良先端科学技術大学院大学独立准教授)もこの仕組みの解明に強い興味を抱いた一人だ。

当時、既に本庶氏らは免疫に関わる抗体遺伝子で組み換えが起こる現象についての研究で成果をあげていた。石田氏は本庶研の門を叩き、免疫の主力であるT細胞が自ら細胞死を起こすときに働く仕組みを突き止めたいと考えた。体の中では、様々な敵を認識するために多様な種類のT細胞が作られる。その際に自分の体を敵とみなすような細胞も偶然生まれてしまうが、こうした細胞は自ら死ぬことが分かっていた。T細胞の細胞死には、「自己」と「非自己」を見分ける重要な仕組みが関連しているのではないか。そう考えた石田氏は本庶氏と議論を重ね、T細胞が細胞死する際に働くタンパク質「PD-1」を発見した。この名前は、「Programmed Cell Death(細胞死)」の頭文字を取ったものだ。

しかしその後、本庶研の後進たちに託されたPD-1の機能解明は難航する。PD-1が働かないマウスを作っても、何も変化が起きなかったためだ。数年間の苦戦の末、免疫学を専門とする湊長博氏(現・京都大学副学長)が研究チームに加わったことで事態は打開する。「待つしかない」。湊氏の方針でPD-1の働かないマウスを高齢になるまで飼育すると、わずかに腎臓で自己免疫疾患に似た炎症が起きていた。その後も実験を重ね、PD-1は免疫のブレーキの役割を果たすことがわかってきた。

さらに、98年に大学院生として本庶研に入った岩井佳子氏(現・日本医科大学大学院教授)は、PD-1に結合する因子「PD-L1」を探索する過程でがん細胞にこの因子があることに気付いた。マウスを使った実験で、がん細胞がこの因子を持っているとがんの増殖が加速することがわかった。一方で、PD-1をはじめから持たないマウスでは、がんの増殖が加速しなかった。ということは、PD-1の働きを抑える抗体を作れば、がんを治療できるかもしれない。本庶氏は確信を抱き、実用化に向けて動き出した。粘り強い交渉の末、がん免疫治療薬「オプジーボ」が2014年に実現する。

現在も、薬の効果を上げたり、効く人と効かない人を見分けたりする研究が本庶氏のもとで進行中だ。さらに、免疫のブレーキ役「PD-1」が本来体の中で果たしている役割について、リレーの第1走者だった石田氏の手による研究が進みつつある。石田氏が唱える新たな仮説は、PD-1の働かないマウスがなぜ若い頃には何も異常を示さなかったのか、1990年代の実験結果の謎を説明できるものだ。未知の免疫機構の解明に向け、今も「チーム本庶」のリレーは続いている。

(詳細は25日発売の日経サイエンス12月号に掲載)

日経サイエンス2018年12月号

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出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,440円 (税込み)

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