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成功は小さな成長の積み重ねの先にある

日本サッカーの育成年代の選手たちの頑張りがアジア、世界の舞台で続いている。女子は8月のU-20(20歳以下)ワールドカップ(W杯)フランス大会で初優勝し、U-17、U-20、そして年齢制限のないフル代表のW杯と、3つの世界大会をすべて制した世界で最初の国になった。

男子も10月のU-16アジア選手権(マレーシア)で12年ぶり3度目の優勝を果たし、2019年のU-17W杯ペルー大会の出場権を手にした。U-19の選手たちも現在、インドネシアで行われているアジア選手権で進撃中だ。こちらも何とかベスト4に入って、来年ポーランドで開催されるU-20W杯の出場を勝ち取ってもらいたい。

「プライド」という名の財産

なでしこジャパンは、澤穂希さんらが中心になって11年W杯ドイツ大会で世界の頂点に立った。それからさらにU-17、U-20のW杯でも優勝したということは、この世代が成熟した暁には世界制覇のチャンスが再び巡ってくることを意味する。そうなったら、フル代表のW杯で一度でも優勝したことがあるという歴史は、彼女たちに「プライド」という名の力をもたらすだろう。これは非常に大きな有形無形の財産になると思う。

男女そろってのアンダーエージ(育成年代)の活躍をうれしく思うのは、世界の舞台に出る、そこで活躍する、優勝する、さらに上のカテゴリーを目指す、といった大きな目標が常に視野に入るようになるからだ。

アジアを制したばかりのU-16男子代表にしても、来年のW杯まで1年近くの準備期間がある。アジア制覇に貢献した選手がそのままスライドしてW杯に出られるわけではない。ゆえに、年齢的に出場資格のある選手たちはこの1年の間、森山佳郎監督のお眼鏡にかなうべく必死に努力するだろう。

それが来年のW杯の成功を約束するわけではない。が、そういう大きな目標に向けての競争が16歳の選手たちの間で活発に巻き起こることが大切なのだ。競争は常にグループを刺激する。それがチームと選手を成長させるのは間違いのないことである。そういう小さな成長の積み重ねの果てに成功はやってくるものである。

サッカーの場合、ナショナルチームの意識を持たせて本格的に活動するのはアジア選手権の1次予選が始まる15歳になってからだ。16歳でアジア選手権の本大会があり、それを勝ち抜くと17歳で最初のW杯を経験できる。そこで「世界」を体感すると、次のターゲットはU-20W杯になる。18歳でアジア選手権の予選が始まり、19歳でアジア選手権を勝ち抜くと、20歳でU-20W杯に挑戦できる。

つまりサッカーのアンダーエージには「15、16、17歳」と「18、19、20歳」という2つの3年サイクルの山があり、この山登りのプロセスを利用してタレントの発掘と開発に努め、原則U-23の五輪を経て、最終的には年齢無制限のW杯というフル代表の強化につなげているわけである。

このアンダーエージの強化にJクラブや民間クラブのジュニアユース、ユースチーム、中学や高校の部活動が多大な貢献をしてくれているのはいうまでもない。その地道な活動の成果ともいえるエリートをナショナルチームに集め、国際経験を積ませて別次元の強化を図るのが日本サッカー協会の使命といえる。そのために投資される費用は結構な額になるが、タレントを育てる以外にサッカー界の未来はなく、惜しむわけにはいかない。

代表チームのサイクルは15歳で始まるが、日本サッカーのいわゆるエリート教育は、さらにその前から実は行われている。小学生までは普及を中心に考え、サッカーをエンジョイするのが最優先だが、中学生になると各地域で選手を選抜してエリートキャンプを実施しているのだ。そこからU-13やU-14の選抜チームをつくり、韓国との交流試合を行ったり来たりしながらやっている。優れた人材の発掘に関してはいささかの漏れもないように、それくらいの年代からウオッチし続けているわけである。

日本で「まれ」でも欧州では「普通」

この人材発掘と開発のサイクルは今後、低年齢化が進む可能性がある。

というのも、クラブレベルで最高峰の戦いといえば、欧州のチャンピオンズリーグ(CL)であるが、この舞台に出てくる選手の83%は17歳でプロデビューしているというデータがある。日本ではFC東京で久保建英(現横浜M)がJ3の試合に15歳と5カ月でデビューして大きな話題になった。それまでも、森本貴幸(当時東京V)や柿谷曜一朗(C大阪)、阿部勇樹(当時市原)、宇佐美貴史、堂安律(ともに当時G大阪)ら17歳までにプロデビューした選手はいた。彼らのデビューが大きなニュースになったのは、それが「まれ」だったからだが、欧州では「普通」になっているわけだ。

久保(手前右)はJ3の試合に15歳5カ月でデビューし、大きな話題になった=共同

日本では大卒1年目の選手を「新人」と呼び、同年齢の高卒選手を「若手」と称するけれど、世界では若手を指すのはせいぜい10代までといわれている。そういう人材開発のスピードにどう食いついて引き離されないようにするか。日本の場合、高校受験や大学受験も絡んで難しい面は多々あるのだが、まだまだ改善の余地はたくさんあるように感じている。

17歳でプロにデビューするのが当たり前という世界では、ただ「うまい」とか「速い」とか「強い」だけの選手では難しい。ゴールを遠くに設定するメンタリティーがその選手自身にないと、若くして才に溺れ、周りにちやほやされて勘違いし、流されつぶれることになる気がするのだ。「技術」「戦術」「体力」と同等か、あるいはそれ以上に社会性が要求されると思っている。

プロとして、代表として、大成する選手が身体的な能力、プレーのスピード、ボールテクニック、ポジション取り、ゲームを読む力といった諸要素に優れたものを持っているのは間違いない。それら機能的な資質に加え、高い目標を掲げて初志を貫徹する粘り強い気質も一流選手は備えているものだ。高い目標を口にする割には意欲が長続きしない、口先だけの選手では話にならない。

ジュニアユースやユースから、あるいは中学や高校の部活動から、欧州のクラブや日本代表で活躍するようになるというのは本当の意味でケモノ道を行くようなものである。遭遇するものすべてが未知の連続になる。そうなると、ピッチの中での機能性とピッチの外での社会性の両方を兼備していないと、対処できるものではない。

サッカー選手が個人で成果を発表する芸術的な職業なら、自分の才能を最大限に売り込んでくれる敏腕マネジャーがいれば身を立てていくことは可能かもしれない。しかし、サッカー選手は仕事の大半をチーム、組織の一員としてプレーする。その際に周囲とコミュニケートする能力は必要不可欠だろう。協調性というか、ベンチに座ってチームメートの失敗を願うようでも、周りから「何を考えているかわからない」と思われるようでも困るのである。それではサッカーにおいて最も大事な「生かし・生かされ」という関係を十分には築けない。

サッカーの場合、機能的な部分の見極めは、コーチとして一定の鑑定眼があれば十分にできるだろう。

強いメンタリティーや社会性はどうか。こちらは強化合宿や実戦を通じて推し量っていくことになる。本当に苦しい練習、本当にぎりぎりの試合で「もう無理かな」と思えるところで最後の一歩を踏み出し、体を張れる選手がいる。「最後の3分」を命懸けでしのげる選手がいる。

こういう部分はW杯のような究極の戦いの渦中に放り込まないと、なかなか見えてこない。

もっとも、一口に「強いメンタリティーの持ち主」といっても、その表現の仕方は千差万別だ。見た目はやる気がなさそうな選手が胸の奥底にすごい負けじ魂を秘めていることがある。それとは正反対に、長友佑都(ガラタサライ)のように常に前向きなエネルギーを全身から放っている選手もいる。

長友(左)は常に前向きなエネルギーを全身から放っている=共同

チームをマネジメントする側は、そんな選手のそれぞれの個性を見抜いて、うまく組み合わせながら、チームの一体感を醸成し、結束力を高め、巨大なエネルギーに集約させていく。W杯ロシア大会で優勝したフランスのデシャン監督、戦前の大方の予想を裏切って快進撃を見せた日本の西野監督はそのあたりが実に巧みだった。

タレント発掘に必要な鑑定眼とは

長年にわたり、数多くの選手を見てきて思うのは、タレントの発掘と開発に必要な鑑定眼とは未来を見る力だということ。その選手の今、目に見えている力だけにひかれると失敗することが多い。

サッカーの世界でありがたいのは、スカウトが「これは」と目をつけた選手をずっと追いかけることができること。中小のクラブのスカウトは、ビッグクラブのスカウトが来たら獲得競争に太刀打ちできないし、その日本のビッグクラブも欧州のクラブが真剣に取りにきたらかなわない。そういうワールドワイドで厳しい人材獲得競争の中にいることは確かだが、どこにどういう選手がいて、どれくらいの力があるかは、ある程度まで「見える化」できているように思う。

そんなふうに考えると、日本の企業の新卒採用の方がいろんな意味で大変だなと思えてくる。採用のために用意されているのは、面接と試験とインターンシップくらいで、採ろうと思う学生がどれほどの力量の持ち主なのか、測れる機会、材料はそれほど多くないように感じるからだ。せっかく採用して、ようやく戦力になるまで育てたと思ったら、転職されることも増えていると聞く。サッカー選手なら契約期間内の移籍には違約金(移籍金)が取れるけれど……。

そういう意味で本当に理想的だと思うのはFCバルセロナとリオネル・メッシの関係だろう。13歳のアルゼンチンの少年が縁あってバルセロナにスカウトされ、そこで能力を最大限に開発された。人を育てることがクラブの未来を明るくし、その子の能力を最大限に引き出したことで選手からも感謝される。人の成長と組織の成功が完全にシンクロしている。たゆまぬ努力で世界ナンバーワンの選手になったメッシもすごいけれど、13歳のときから、ずっとメッシに「ここにいたい」と思わせるクラブで在り続けているバルセロナも本当にすごいと思うのである。

(サッカー解説者)

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