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異国の趣 貴重書ずらり 天理図書館(もっと関西)

時の回廊

古社寺や遺跡のイメージが強い奈良にも、モダンな近代建築が並ぶ一角がある。天理大杣(そま)之内キャンパス(奈良県天理市)だ。1920年代前後に建てられた洋風の建物があり、中でも国内外の貴重書を今に伝える大学付属天理図書館は、世界的に知られている。

建物中心に書庫

天理図書館は25年、中山正善(しょうぜん)・天理教第2代真柱(しんばしら)(トップ)が設立した大学の前身、天理外国語学校開校とほぼ同時に発足した。現在の建物は米ミネソタ州立大学図書館の設計図案を参考に30年に竣工。建物の中心部に書庫を配置し、閲覧室や事務室などが取り囲む造りが特徴的だ。

正面周辺の素材は柔らかな色合いの竜山石とみられ、左右にある植栽を施す大きな「植木鉢」は異国風の雰囲気が漂う。

設計は京都帝国大(当時)の坂静雄だが、近代建築に詳しい京都華頂大の川島智生教授は疑問を投げ掛ける。坂は「関西建築界の父」といわれた武田五一の下にいた人物で、一足先の26年に完成した天理大1号棟は武田と奈良・吉野出身の建築家、岩崎平太郎の設計。キャンパス計画案を武田らが作成していることから、「坂が武田の案を踏襲した可能性が高い」とみる。

30年代に完成した和風の外観の旧制天理中学校(現天理高校)は東京大の内田祥三の設計。天理教関連の建物は屋根に千鳥破風を多用した独特の様式のものが多く、川島教授は「図書館は『天理様式』ともいえる建築群に移る過渡期のものではないか」と指摘する。

図書館が守り伝えるのは、創設者の中山が国内外から集めたコレクションだ。現在の蔵書は約150万冊。学術的価値の高い資料の多さで知られ、「日本書紀」など国宝6点、重要文化財86点を有する。海外布教に取り組んだ中山は、キリシタン関連書籍や天理教の教理研さんに役立つ日本文学の古書を集めた。

「東洋のバチカン」

現在も国内外の研究者らの来訪が絶えない。三浜靖和副館長は「バチカン関係者が『東洋のバチカンだ』と感心していた、という逸話も残る」と話す。イエズス会が16世紀末から二十数年間出版した「きりしたん版」は、現存する約30種のうち8種10点を同館が所有する。「おらしよの翻訳」(1600年、重文)は、祈祷(きとう)文などを和文だけで記すなどした稀覯(きこう)書。書名はラテン語で「祈り」を指す「オラシオ」に由来する。

今年は鎌倉後期の写本「源氏物語(池田本)」が新たに重文に指定されることが決まった。東大生だった中山が東京・神田の店を訪れ、以後40年にわたって交流があった古書商、反町茂雄は随筆に「天理は源氏の宝庫」と記す。

「ホンの四、五秒ほど考えて『じゃあ貰(もら)って置こう』。(中略)漂浪の源氏の群れは永く安住の地へ移りました」。反町の著書『天理図書館の善本稀書(きしょ)』では、戦後の混乱期に集まった多数の源氏関連書を中山が買い付ける様子をこう記す。

特別なコレクションは建物の心臓部、防湿ヒノキ材の壁に囲まれた貴重書庫に安置されている。立ち入りが許されるのは少数の担当者のみ。中心部に書庫を配した設計は、虫やカビの侵入、そして人の出入りなどがもたらす僅かな空気の変化をもくい止める。機械や薬剤に頼りすぎない、古来の蔵さながらの保存を可能にしている。

文 奈良支局長 岡田直子

写真 山本博文

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