強きブラジル代表復活の鍵握る 21歳FWの飛躍
サッカージャーナリスト 沢田啓明
サッカーのブラジル代表がサウジアラビアへ遠征し、12日にサウジ代表と、16日にアルゼンチン代表とそれぞれ国際親善試合を行った。この2試合で最も注目していた選手が21歳のFWガブリエルジェズス(マンチェスター・シティー)だった。若さに似合わず駆け引きがうまく、抜群のスピードを発揮して敵の最終ラインを抜け出し、硬軟織り交ぜたシュートを決めるのが持ち味だ。
2016年6月に就任したチチ監督が初めて代表に招集すると、FWネイマール(パリ・サンジェルマン)、MFコウチーニョ(バルセロナ)ら中心選手とすぐに呼吸を合わせ、18年ワールドカップ(W杯)南米予選で10試合に出場して7得点。チームの得点王(全体でもウルグアイ代表のカバーニに次ぐ2位)となって、監督の期待に応えた。
■W杯で本来の力を発揮できず
その後の欧州遠征でも好調を持続していたが、肝心のW杯では気持ちが先走ってか動きがぎこちなく、せっかく決定機をつかんでもシュートの精度が低かった。チームの全5試合に先発出場しながら1点も取れず、ブラジル代表は準々決勝で敗退。世界的にはネイマールの低調なプレー内容とたび重なるシミュレーションが話題となったが、ブラジル国内では敗退の最大の原因をガブリエルジェズスの不振に求める声が多かった。

さらに、今シーズンは所属クラブで元アルゼンチン代表のFWアグエロとのレギュラー争いで後手に回って後半途中からの出場が多い。キャリア上、大きな試練に立たされていた。
このような状況で、チチ監督は9月の強化試合にあえて招集しなかった。だが、代役として出場した同じく21歳のFWリシャルリソン(エバートン)が2得点を挙げ、強烈にアピール。ガブリエルジェズスにとって、ますます尻に火がついた格好となった。
サウジアラビア戦でセンターフォワード(CF)として先発すると、前半終了直前、ネイマールからのスルーパスを受けてGKと1対1となり、落ち着いてゴールを決めた。代表では4カ月ぶりの得点で、ネイマールと固く抱き合い、「やっと決まった」と言わんばかりの安堵の表情を見せた。その後も、FKからのクロスに走り込んで頭で合わせるなど、果敢にゴールを狙った。
試合後、「W杯で思うようなプレーができず、とても苦しかった。でも、家族の励ましで前向きな気持ちを取り戻したんだ。これからも、きょうのようなプレーを続けたい」と笑顔で語った。
ところが、続くアルゼンチン戦ではその言葉通りのプレーができなかった。
チチ監督はCFに27歳のフィルミノ(リバプール)を起用し、ガブリエルジェズスは右ウイングとしてプレーした。だが、チームの攻撃がネイマールとコウチーニョがいる左サイドに偏ったせいもあり、最終ラインの裏へ抜けるパスを引き出すことができない。攻撃よりも敵のサイドバックの攻め上がりに対応する時間帯が長く、得点はおろか1本のシュートも打てないまま65分に交代を告げられた。これに対し、彼に代わってピッチに入ったリシャルリソンは短い時間ながら惜しいシュートを放ってみせた。

結局、10月の代表2連戦におけるガブリエルジェズスのプレー内容は手放しでは褒められないものになった。
■CFの人材不足がアキレスけん
かつて、ブラジル代表にはロマリオ、ロナウドらその時々の世界最高のストライカーが君臨し、豪快で華麗なゴールを次々に決めてチームに勝利をもたらした。しかし、この10年余りはCFの人材が不足しており、そのことがブラジルがW杯で優勝できない大きな要因の一つになっている。
現時点でブラジルのCFのポジションはガブリエルジェズスと万能型ストライカーのフィルミーノ、常に貪欲にゴールを目指すリシャルリソンの3人が争っている。チチ監督はほかの若手選手にもチャンスを与える方針を明らかにしている。
個人的には、CFのレギュラー候補の中ではガブリエルジェズスのスピード、決定力、ゴールへの嗅覚に最も大きな魅力を感じる。今後、所属クラブでハイレベルなポジション争いに打ち勝ってプレミアリーグ有数のストライカーに成長し、代表でも結果を出し続けて絶対的なレギュラーになれるかどうか。それが今後のブラジルの成績を大きく左右するとみている。